樋口陽一氏(東京大学名誉教授) 「戦後日本」を「保守」することの意味
中島岳志氏(東京工業大学教授) 死者の立憲主義
保守すべき「戦後」とは…死者と共に立憲の志を
─ 樋口さんと中島さん 深掘り対論 ─
歴史に照らし「ことば」の捉え直し
2018信州岩波講座の本講座Ⅱは9月15日、須坂市メセナホールで東大名誉教授の樋口陽一さん(84)と東京工業大学教授の中島岳志さん(43)が登場しました。深い学識と気鋭の論客による、時代に対する危機感あふれる講演で盛り上がり、会場から多く寄せられた質問をもとにした“老若対論”の活況で締めくくりました。
この日の講演テーマは、樋口さんが「『戦後日本』を『保守』することの意味」、中島さんは「死者の立憲主義」。
<保守><立憲>に限らず、日ごろメディアにあふれ、私たちが使っている民主、自由、主権、伝統、革命、民意といった言葉は、──見バラバラ状態に映ります。どんな歴史のなかに生まれたか、どんな結びつきがあるのか──お二人はそれぞれの専門分野の立場から、明治維新からの150年、日本国憲法の戦後の文脈のなかに、あらためて言葉をつなぎ直し、めざすべき<くにのかたち>の方向をわかりやすく話していただきました。
とくに、樋口さんは、戦後の自由の意味には「制約されるべきでない“心の自由”」と「制約されるべき“カネ(経済)の自由”」の両面があり、いまの課題に通じるダブルスタンダードに向かい合う必要がある、と鋭く指摘。
また、中島さんは東日本大震災を外国で知ったことと、編集者の友人を亡くした体験をもとに、なにが大事で伝えていくべきか──「死者の志」とともに生きることではないか」と語りかけ、根っこにある“研究者の発意”をのぞかせました。
講演を控え、お二人は興味深いエピソードを披露しました。敗戦時、仙台で学生だった樋口さんは同級の作家、故井上ひさしさん、1年先輩の俳優、同菅原文太さんを追憶し「自由な校風で戦時中でもゲートルを巻くのを強制されなかった。未成年でお酒も飲んだ」。
中島さんは「3歳になる息子が“大相撲オタク”で御嶽海ファン。なんにも教えないのに戦前力士のしこ名まで漢字で読める。勝負を挑まれるのが体にこたえる」。
戦後日本の初心や、親から子への継承といった、いずれも講演本番の内容につながっていく印象深い“秘話”でした。
日程を終えたお二人は、20回を迎えた岩波講座について、地元CATVのインタビューなどに「知人、友人が多く講師となってきた節目に招かれ、うれしい気持ちで話すことができました」(樋口さん)、「どなたも席を離れず、涙をぬぐう方もおり感銘しました。30回、40回と続いてほしい」(中島さん)と語っていました。