NPO・999ブログ    本を読んで 考える力を養おう

「自分のできることを できる時に できる処で」
市民的知性の地平を拓くNPOふおらむ集団999

信州岩波講座・高校生編も「中止」に

2020年07月20日 | 高校生編
 記念すべき20回目の「高校生編」は、9月1日(火)開催の予定でしたが、新型コロナウイルスの猛威がいっこうにおさまらず、やむなく中止と決定いたしました。
 この災禍を乗り越えて、ふたたび「高校生編」を開くとき、ステージ上でどんな対話がかわされるのでしょうか。次回にご期待ください。

第22回信州岩波講座2010「中止」を決定

2020年06月10日 | 信州岩波講座
 お知らせ

 1999年から一度も途切れることなく続けてきた信州岩波講座を、
今年度はやむなく「中止」することに決定しました。
ここは、聴講者を含めすべての人たちの安全面を考えての苦渋の決断となりました。
またの機会をお待ちいただきたくお願い申し上げます。
どうぞご自愛の上、お過ごしください。


「人を育てること」

2020年05月11日 | 臥龍つぶやき
 私は須坂市の子育て講座の講師を長年やらせていただいています。そこで子育て中の保護者の皆様に伝え続けてきたことについて、お話ししたいと思います。
 まず第一に、子どもを愛していることをちゃんと伝えて欲しいということです。愛情の伝え方はいろいろあり、折に触れ「大好きだよ」と言葉にしてもいいし、ぎゅーっと抱きしめてもいいし、一緒に同じ事を楽しむのも、優しい視線を送ることでもいいと思います。
 その子の年齢や性格に合わせ伝え続けること、そして時々ちゃんと伝わっているか確かめる機会を持つことが大切だと思います。愛されていることを知ることは、その子を安心させ、その子の持つ能力や好奇心、冒険心を健全に成長させることに繋がっているのです。

 ひとつ臨床例があります。体重が増えないと受診した4歳の男の子は、実はネグレクト(育児放棄)という環境で育ちました。母子家庭とはいえ普通の家で、食事は与えられ、衛生面も問題なかったのですが、愛情だけが与えられなかったのです。痩せ細った身体に表情のない顔、虚ろな目は開けていても周囲への関心を示さない子でした。
 すぐ親から引き離し入院となり、病院スタッフや同室の子どもたちとの生活が始まりました。家庭のようにとはなかなかいきませんが、皆が彼に関心を持ち、言葉をかけ見守りました。幸い彼のことを皆がすぐ好きになりました。
 2年の歳月が彼を変えていきました。かける言葉に反応するようになり、表情が少しずつ豊かになり笑うようにも。身体は標準的な大きさに近づき、行動も活発になってきました。
 しかし主治医が何より驚いたのは、彼の頭囲の成長でした。萎縮していた脳が活発に成長しはじめたのです。
 人は、慈しみ抱きしめ話しかけて育ててこそ人になっていくのだと実感したものです。
  後日談ですが、入学式で2年ぶりに母親に会った時、戸惑う母に「大丈夫?」と彼から声をかけたということです。

知っていましたか、「農耕隊」のこと

2020年03月20日 | 臥龍つぶやき

 郷里を出てから68年。その当時から引きずってきたことがある。
 この秋になって成程そういう事だったのかと解け始めた。雨宮剛編者『もう一つの強制連行 謎の農耕勤務隊―足元からの検証』(2012年刊自費出版 2016年文芸社刊 700円)を手にすることができたからだ。
 これまでも帰郷の折に市史や学校史の編纂に関係している友人に、農耕隊について調べてほしいと頼んだことがあったが進展はなかった。今年の夏、市役所勤めの甥に意を伝えてみたら早速、市立図書館に駆け込んで同書の該当箇所のコピーと著者への連絡先を送ってくれた。著者の雨宮さんと電話でのやり取りができたのは11月。

―私はパーキンソン病を患っています。以前のように動けません。貴方がこの問題に関心を持ってくれるのは嬉しい―
ということで著作と貴重な諸資料をどさっと送ってくれた。奥付のプロフィールに依れば、1934年愛知県豊田市生れの農家の七男。アメリカでも学んで青山学院大学教授(現名誉教授)。

 1945年春、僕が国民学校4年生になったばかりの頃、農耕隊と呼ばれる朝鮮青年たちと少数の日本兵士が突如体操場で寝泊まりするようになった。著書によれば町の南端に位置する原生林(現在の養命酒駒ケ根工場の東側)の松と原野に植えた薩摩芋から油を搾り取ることを任務としたとある。
 農耕隊について学校からの説明はなかったように思うし、彼らと接することもなかった。僕は1回だけ彼らが校舎の空き地で豚を追いかけていたのを見た。後で誰かが農耕隊が豚の頭を鋸で切っていたと言っていた。
 ある夜、僕の家の裏戸を叩く音がした。片言の日本語で食べるものが欲しいと言っている様子で、母親が何もないけれどこれを持ってお行きとか言って、干した柿の皮を渡した。僕が農耕隊を気にするようになったのは、この情景が脳裏にこびりついているからだ。

 農耕隊とは何か。著書から引いてみる。
 1945年1月、軍令「農耕勤務隊臨時動員要領」が発令。目的は軍用機の代用燃料の生産。編成規模は日本兵2,500人、朝鮮人(15~20歳)12,500人。全5編隊、一編隊3,000人、第5編隊は長野県に配置。伊那地方を中心に御代田、山ノ内、明科が確認されており赤穂町(現駒ケ根市)には300人。敗戦間もなく農耕隊は姿を消した。
 この年の秋、僕らは鍬を担いで4キロも先の山畑に農耕隊が植えた芋を掘りに行った。拳半分ほどの小さなものだったが「農林1号」「沖縄」などただ大きいだけで水っぽい芋とは違って栗のようにほくほくして甘かった。

 日本政府と軍隊は、松と芋の油で本土決戦に備えていたのだろうか。正気の沙汰ではない。この年1月に発令して4・5月には12,500人もの朝鮮人青年たちが海を渡って動員されたことになる。生け捕り同然で強制連行してきたのだ。15歳だった隊員は90歳にもなる。その後、彼らはどのような人生を歩んできたのだろうか。日本政府が平然として偉そうに交渉を拒んでいる徴用工問題などは氷山のごく一角であると認識したい。

 この著書には『夢声戦争日記』第7巻(中公文庫1977年刊)からの「赤穂農耕隊慰問」が紹介されている。
 生徒4,000人、日本一大きな国民学校。そこで初めて農耕隊を前にして話をした。司令官に日本語はわかるのかと聞くと八割はわかると答えたとある。残酷な日本の植民地支配の実態が見える。姓氏改名、徹底的な日本語の刷り込みなどである。

第21回信州岩波講座 8/24講座Ⅱ 福岡伸一氏

2019年09月26日 | 信州岩波講座
チョウ、フェルメール…AIをしのぐ「動的平衡」の生命
         オタク少年が重ねた出あいと学びの旅路
 

 福岡伸一さん<科学と美術>大きな連環で描く
第21回信州岩波講座の講座Ⅱは8月24日、青山学院大学教授の福岡伸一さんが「AIと人間」のテーマで話しました。少年時代の発見の喜びから生物学者へと学びの旅路をたどりつつ、社会に影響力を増すAIをしのぐ生命体のたくましさ、巧みさをわかりやすく説き起こし、先端科学と共に生きるためのしなやかな指針を示してくれました。
              ◇
 太く濃いまゆ毛がトレードマークの福岡さん。でもメガネごしの目は優しく「オタク」と「出あい」の2つのキーワードをもとに、笑顔をたやさず語り続けました。
そのひとつは「チョウ・虫のオタクだった」少年時代。本と顕微鏡の世界との出あいに始まった試行錯誤の学び。もうひとつは留学体験を通じて、先見的な業績にふれ「私にとってのヒーロー」となったユダヤ人の生化学者ルドルフ・シェーンハイマー。そして独特な美の世界にひきこまれ「オタク」となったオランダ人画家フェルメールとの出あい。  
             ◇
一見したところ、バラバラに映るキーワードと出会いが、ものごとの源流をさぐり原点を確かめる道すじでは重なり合うと説明。結果として福岡さんが研究の核にたどり着いたのが「動的平衡」という生命体の捉え方という。
私たちの身体は、プラモデルのような静的なパーツから成り立っている分子機械ではなく「絶えず自らを分解しながら、新しい状態につくり替えていくダイナミックな流れの中に成り立っている」。福岡さんが魅了された<美術の世界>もまた色彩の変化や遠近法の“動的な状態”にあるのだとして、科学との大きな連環のなかで描いてくれました。
             ◇
講座のテーマに掲げたAI社会のゆくえに言及することは多くはありませんでした。しかし、動的平衡をもとに「AIは集積したデータをもとに、なにかを提案することは得意なコンピューター。しかし、生命のように自分自身を壊しつくり替えていくことはできない。恐れるに足らない」と、AIと生命のバランスをはかる視点を力説しました。
             ◇
             
圧巻だったのは、動的平衡と戦争の関わり。会場とのやりとりで「戦争という破壊行動も人間社会の“動的平衡”なのでは」という質問に「それは違います」ときっぱり否定。<種の保存>に生きる他の生物とちがい「人間のみが<個の存在>として生きることを位置づけられています。それが生産性とか障害、病気などには関わりない万人の基本的人権。それを踏みにじる戦争は、真の動的平衡の意味とは異なります」
専門の枠をこえた福岡さんの普遍的な広がりのある視点が浮き彫りにされた場面でした。 

第21回信州岩波講座トップに出口治明氏

2019年08月28日 | 信州岩波講座
講座幕開け>出口治明さん、意表をつくトーク
 日本の閉塞…少子化の根本は男女差別にこそ
       「フロ・メシ・ネル」から「人・本・旅」へ

 
 第21回信州岩波講座が8月17日に始まり、トップに登場した立命館アジア太平洋大学学長の出口治明さんが「本の世界 読書のすすめ」のテーマで話しました。関西弁のやわらか口調のトークながら、内容は私たちの常識を次々にひっくり返す意外性に満ち、ユーモアと緊張感こもごもの展開となりました。
              ◇
 「本を読めば仕事に役立つなんてトンデモナイ」「親のいうとおりに育ったと思うひとはここにいますか」「フランスでは働く女性が専業主婦よりも出産率が高いのが常識」。随所にファクトを基にした、意表をつく刺激的な問いかけが散りばめられました。
そして「労働時間が長いのになぜ低成長か」「少子化の元凶は男女差別」「GAFA(巨大IT4企業)が育たない」と日本の閉塞を指摘し「土地・資本・労働力」による製造業や「フロ・メシ・ネル」の男優位の社会はもう限界………、ターゲットが一挙にしぼられました。
ではどうすれば?これからは市民みんなで育む「公共の知の力」が重要と強調。考えるプロセスを大事に、アイデアを生みだし、産業に結びつけていく。個人としてはまず「人・本・旅」がカギと、講演テーマ「本の世界 読書のすすめ」へと一気呵成にみちびく鮮やかな展開でした。実は出口さんの提案で急きょ、講演時間を短縮し質疑応答の場を設けました。会場には想定外の熱気がこもる“出口ワールド”が出現しました。
             ◇
 今回は講師を囲む<トークセッション>の趣向を盛り込みました。岩波書店の馬場公彦さん(編集部長)の発想と須坂市図書館長の文平玲子さんのおぜん立てにより、市内の子ども読書支援、読み聞かせ、読書会、紙芝居の4団体代表に登壇していただきました。<読書>と<こども>を結ぶ図書館の役割、地域づくりがみえてくる交流の場となりました。
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 出口さんはこの日、名古屋からの特急しなので単身、バックパッカーのいでたちで長野駅に現れました。見ると、鼻穴の片方に鼻血止めのティッシュペーパーの栓が。「長野に着いたとたんに………、でもよくあることです」と心配を受け流し、メセナホールまでの車中では、学長を務める大分・別府にある新設大学(2000年開学)の理念、アジアから集まる学生の動向を、愛情と熱意にあふれる口調で語り続けました。

“講座の裏方”ふおらむ集団999の願い

2019年08月28日 | ふおらむ集団999
“講座の裏方”ふおらむ集団999の願い
 
地域に根差し ひとを<繋ぐ場に
 

 さあ、信州岩波講座2019の開幕です。21回目の新たな第一歩、いまや“須坂の夏の代名詞”と自負したいイベント。基本テーマは「あすへ繋ぐ学び」です。岩波講座を担う裏方として、私たち文化ボランティア・ふおらむ集団999は<繋ぐ>をキーワードに、活動の輪を広く深めていきたいとの意欲を込めています。
            ◇
 <つなぎ>というと『鬼平犯科帳』を思い浮かべます(個人的なこだわりに失笑をかうかしれませんが)。池波正太郎の小説も、中村吉右衛門のドラマのどちらも熱烈ファン。たかが盗っ人集団と火付盗賊改のスベッた転んだといわれればそれまで。でも全く相反する目標に組織のせめぎ合いとみれば味わいが深まり、そこに息づく重要なスキルが<つなぎ>。それも単に情報のやりとりにとどまりません。盗賊の統領-配下、長官-与力同心―密偵の身分や職分をこえた仲間としての親密なふれあい。物語の粋です。
私たちボランティアにも、そんなふくらみのある<つなぎ>があったら、と思います。
信州岩波講座の<繋ぐ>ポイントは、いうまでもなく講師と聴衆のみなさん。また、講座を地域づくりに<繋ぐ>ことも重要です。では、自分たち自身はどうか。実状はいまひとつなのが残念です。
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 講座が<繋ぐ>企画は、この大ホールでの本講座だけではありません。さまざまな規模の催しが行われています。もともとは仲間の読書会から出発した「ふるさと塾」、唯一の野外学習である「文学散歩」、そして次世代のための「高校生編」・・・ 講座会場の古本市、ブログ、街中のすざか図書カフェの構想も。この須坂の地に着実に浸透しています。
 新たな試みも始めました。「臥龍のつぶやきinナガノ(あるいはスザカ)」という自分たちの<繋ぐ>場づくりです。仲間の一人が「信州の本-出版こぼれ話」と題して語り意見交換しました。耳を傾けるべき存在が身近にこそ……拍子抜けするような新鮮な発見がありました。            ◇
 実は999のメンバーは現役のころ、国鉄機関士、民放アナ、前衛書家、県・市職員、出版編集者、新聞記者、いまもCATVディレクター、主婦・・・ 多彩なキャリアの持ち主です。これからの人材掘り起こしが楽しみです。みなさんにも「それなら自分だって」と参戦してほしい──それがこの小文の主旨です。

さて、今年の講座トップには出口治明さんの登場です。「本の世界 読書のすすめ」は、のっけから当講座の一丁目一番地です。「“人・本・旅”の重要さ・その理由について、皆さんがワクワクするような話を」と抱負を寄せていただいています。講演をテコに、私たちの<繋ぎ>をさらに深く広くしていければ、と願っています。(実行委企画委員長 斉藤次男)

最近読んだ本から

2019年07月17日 | 臥龍つぶやき
『フケ声がいやなら「声筋」を鍛えなさい』(晶文社)  

「健康寿命」に関心が高まり、さまざまな健康情報が溢れる昨今、これもそんな風潮に便乗した一冊かというとそうではない。著者の渡邊雄介さんは、山王病院東京ボイスセンター長という肩書をもつ音声言語医学の専門医である。コーラスグループに入っている妻が、指導者の勧めで買ってきたのだが、長年「声」をつかう仕事に携わってきた身として、勉強になるのでは、という期待から手にとってみた。
 帯には「健康や長寿のカギは『声』と『声筋』が握っている」と書かれている。「声筋」とは耳慣れない言葉だが、声帯の動きに関わる筋肉(群)だという。健康のためにウオーキングなどさまざまな運動を日課にしている人は多いが、声のトレーニングまでしている人は少ないだろう。日々の暮らしの中で声を出す機会(時間)が減ってきたと感じてはいても、声の変化に気付き、それを健康と結びつけて考える人はそう多くないのではないか。しかし、声は健康や長寿とも密接に関わっているというのだ。「声筋」を鍛えるためのエクササイズについても多くの紙幅が割かれているのが嬉しい。
 
蛇足。「あの人は良い声だ」というような言われ方をするが、絶対的なものではなく、好みの要素が大きい。NHK世論調査風に言えば「人柄が信頼できないから」声を聞くのも嫌だということもある。私にとって、毎日のようにテレビに登場するAb、Sgといった人の声がまさにそれだ。傲慢さや不誠実さが声に表れている。(M/K)

第20回記念信州岩波講座2018Ⅲ 9/23 前川喜平氏・小島慶子氏

2018年10月22日 | 信州岩波講座
教育は「個人の尊厳」と「多様性の広がり」こそ
前川さんと小島さん 共鳴する思い


マイノリティーに寄り添う多文化共生社会へ

 2018信州岩波講座の締めくくりとなる本講座Ⅲは9月23日、須坂市メセナホールで元文部科学省事務次官の前川喜平さん(63)と、エッセイストの小島慶子さん(46)が「学ぶ」を共通テーマに講演しました。異なる人生体験を重ねあわせ、ひと味ちがう<明日の教育>を語り合い、詰めかけた約1000人の聴講者を鼓舞して盛り上がりました。

 講演テーマは、前川さんが「生きることと学ぶこと-個人の尊厳から考える」。小島さんは学びが世界を変えていく-日豪往復で見えたこと」。明治150年と戦後73年の歴史を「くにのかたち」「憲法」の視点から、パラレルに検証した前2回の講座の総括として「教育」のあり方を問うねらいです。


 前川さんは冒頭「教育は両刃の剣」として戦前の国家本位から、戦後の個人主体に転換した歴史の反省をたどり「日本国憲法による“生きる権利”と“学ぶ自由”は密接不可分のかかわり」と強調しました。


 小島さんは生まれ育ったオーストラリアに移住し、自分が日本に出稼ぎするライフスタイルを披露。現地での立場は“ことばが不自由な経済弱者のマイノリティー”としながら「居場所が変われば自分が変わる…これって自由だなと実感できた」と、ユニークな視点を示しました。


 前川さんは40年近くにわたり国家行政の中枢に身を置き、戦後教育を主導してきた立場。他方、小島さんは放送界に携わり、子育ての拠点を海外に転じた実体験をメディアから発信。対照的な半生の歩みです。
 しかし、講演のなかで前川さんは「子ども時代は引っ込み思案で不登校も」。小島さんも「軽度の注意欠陥多動性障害(ADHD)だとわかった」。必ずしも<フツー>ではなかった学校生活を明かしました。
 対談は<個人の尊重>から<多様性の広がり>へと、教育に託す思いが共鳴し合う場面となりました。不登校や夜間中学、障害を抱える子どもたち、増える“移民”などのマイノリティーにどう寄り添うか…<多文化共生社会>の問いかけが会場の問題関心をかきたてました。
 話し終えて、二人がもらしたのは信州岩波講座にかかわる深い思いです。前川さんは「お役所では幹部が好きな雑誌を自由に買って読めました。私は一貫して岩波の『世界』でした」。小島さんは「オーストラリアに移住する前、国内で子育てするなら長野(軽井沢)かな、と考えたことがありました」。

第20回記念信州岩波講座2018 講座Ⅱは樋口陽一氏と中島岳志氏、講演と対談

2018年09月26日 | 信州岩波講座
樋口陽一氏(東京大学名誉教授) 「戦後日本」を「保守」することの意味
中島岳志氏(東京工業大学教授) 死者の立憲主義

保守すべき「戦後」とは…死者と共に立憲の志を
─ 樋口さんと中島さん 深掘り対論 ─

歴史に照らし「ことば」の捉え直し
 2018信州岩波講座の本講座Ⅱは9月15日、須坂市メセナホールで東大名誉教授の樋口陽一さん(84)と東京工業大学教授の中島岳志さん(43)が登場しました。深い学識と気鋭の論客による、時代に対する危機感あふれる講演で盛り上がり、会場から多く寄せられた質問をもとにした“老若対論”の活況で締めくくりました。
 この日の講演テーマは、樋口さんが「『戦後日本』を『保守』することの意味」、中島さんは「死者の立憲主義」。


 <保守><立憲>に限らず、日ごろメディアにあふれ、私たちが使っている民主、自由、主権、伝統、革命、民意といった言葉は、──見バラバラ状態に映ります。どんな歴史のなかに生まれたか、どんな結びつきがあるのか──お二人はそれぞれの専門分野の立場から、明治維新からの150年、日本国憲法の戦後の文脈のなかに、あらためて言葉をつなぎ直し、めざすべき<くにのかたち>の方向をわかりやすく話していただきました。
 とくに、樋口さんは、戦後の自由の意味には「制約されるべきでない“心の自由”」と「制約されるべき“カネ(経済)の自由”」の両面があり、いまの課題に通じるダブルスタンダードに向かい合う必要がある、と鋭く指摘。


 また、中島さんは東日本大震災を外国で知ったことと、編集者の友人を亡くした体験をもとに、なにが大事で伝えていくべきか──「死者の志」とともに生きることではないか」と語りかけ、根っこにある“研究者の発意”をのぞかせました。


 講演を控え、お二人は興味深いエピソードを披露しました。敗戦時、仙台で学生だった樋口さんは同級の作家、故井上ひさしさん、1年先輩の俳優、同菅原文太さんを追憶し「自由な校風で戦時中でもゲートルを巻くのを強制されなかった。未成年でお酒も飲んだ」。
 中島さんは「3歳になる息子が“大相撲オタク”で御嶽海ファン。なんにも教えないのに戦前力士のしこ名まで漢字で読める。勝負を挑まれるのが体にこたえる」。
 戦後日本の初心や、親から子への継承といった、いずれも講演本番の内容につながっていく印象深い“秘話”でした。

 日程を終えたお二人は、20回を迎えた岩波講座について、地元CATVのインタビューなどに「知人、友人が多く講師となってきた節目に招かれ、うれしい気持ちで話すことができました」(樋口さん)、「どなたも席を離れず、涙をぬぐう方もおり感銘しました。30回、40回と続いてほしい」(中島さん)と語っていました。