徒然なか話

誰も聞いてくれないおやじのしょうもない話

彼女が眠る丘

2017-01-20 17:05:27 | 
 ちょうど10年前の正月、防府時代の同僚の年賀状に悲しい知らせが書かれていた。僕と机を並べていたOさんが、ひと月余り前に亡くなったという知らせだった。まだ48歳、夫と子どもを残し、あまりにも早過ぎる旅立ちだった。肺がんだったという。
 今から41年前の5月、僕は熊本から防府へ転勤し、そこで机を並べたのが高校を卒業したばかりの新入社員Oさんだった。まだ女子高生そのままの雰囲気で初々しかった。明るくて笑顔がチャーミングな娘だった。転勤したばかりで様子がわからない僕に、自分も入社したばかりなのに一生懸命サポートしようとする姿がいじらしかった。僕が東京へ転勤した後、しばらくして寿退社をしたという知らせを聞いた。ご主人も僕が知っている人で、子どももでき幸せな家庭を築いていると思っていた。
 知らせを受けた数ヶ月後、僕は防府へ墓参りに行った。周防灘を望む中浦湾を見下ろす小高い丘の上に彼女は眠っていた。28年ぶりの悲しい再会だった。五十路にもまだ届かぬ歳で愛する家族と別れなければならなかった胸中を察するにあまりあるものがあった。真新しいお墓に花を手向け手を合わせると、会社で机を並べていた頃の、愛らしい顔が微笑んだように思えた。遠くに佐波島がポツンと浮かんでいた。