万事塞翁が馬

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薬の臨床試験

2006年01月20日 | 社会
ちょっと古いけど,下のような記事を見つけた。

医学情報の開示に関し,患者の安全よりも企業の利益が優先されているって話みたいだ。
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ファイザー社、メルク社はまだすべての情報を公開せず

新薬に関する情報を公開するという取り決めができてから約1年が経過するが、ニューヨーク・タイムズ紙の記事によると、米国の製薬企業のいくつかは臨床試験に関する重要な事実を公表していないという。

新研究とすでに市場に出ている薬剤についての完了した研究について、どの程度の情報を出すかについては、企業によって一致していない。イーライリリー社などいくつかの企業は、インターネット上に数百の臨床試験結果を掲載しており、販売するすべての薬剤の研究結果を載せると約束しているが、ファイザー社やメルク社などは少ない情報しか開示しておらず、さらなる情報の公開については、企業間の競合を理由に、出し渋っている。

製薬企業側で統一が見られないと、医師や患者が薬剤についての重要な情報を得られない。研究についてのすべての詳細データ公開を拒む企業は、わかったことを掲載しない、あるいは好ましいデータのみを公開する、という方法で、自社に好ましくない結果を隠すことができると、科学者や医療ジャーナリストは批判している。

米国立衛生研究所(NIH)提供の臨床研究についてのウェブサイトclinicaltrials.govの責任者Deborah Zarin博士は「臨床試験への申し込みや臨床試験結果の普及を支援するという製薬企業からの公開資料はたくさんあるが、重要なのは詳細部分」とNew York Times紙に語っている。
(2005年5月31日/HealthDayNews)
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じつはこれ,ファイザーやメルクだけじゃない。
他の製薬会社でも,似たりよったりだ。

事細かに書き出すときりがないし,
ハリソンフォードの「逃亡者」みたいになりたくないので,
1つだけ書くことにする。

PROBE法ってやつの結果発表だ。

普通,ある薬の効果を調べる時には,
偽薬(プラセボ)や対照薬(比較薬)を飲む群と,
「ある薬」を飲む群を作る。
2つの群は偏りがないように,年齢や性別やら,合併症などが同じになるように振り分けられる。

ちなみに,昔はこれを手作業でやっていたので死ぬほど大変だったんだけど,
今ではコンピュータがやってくれるのでラクチンだ。

で,2つの群が出来上がると,
一番良いのは「二重盲検法」って言って,
治療に当たる医者も患者も,自分がどちらの群に入っているか分からない状態で
治療を続ける。
「どちらかの群を勝たせよう」っていう意図が,極力入り込まないようにするためだ。

それに対し,ここ10年くらいで増えてきたのが,先書いたPROBE法だ。
医者も患者も自分の受けている治療の内容を知っている。

PROBE法を喧伝した人間が2人いる。
2人ともスウェーデン人で,大学教授の肩書きを持っているが,
その実態は,臨床試験実施会社(治験屋)の社長だ。
製薬会社が行う臨床試験(人体実験)を請け負い,巨額の報酬を手にし,
その一定度を大学に寄付することにより,教授の地位を買っていると言って良い
(1人は既に故人なので「買っていた」が適切かな)。


で,まあ,二重盲検法だと治験をやりづらい国でも,
PROBE法で臨床試験が数多く行われるようになった。

日本もその1つだ。

さてPROBE法ってのは治療の内容が医者に分かっているから,
医者がどちらかに肩入れすると,公平な結果が得られない可能性がある。

でも,実際日本で行われている高血圧治療薬の試験(PROBE法)では,
「C群の血圧は確実にコントロールしてください」って注意が,
「C」って薬を売っている会社から送られてきたりする。

最近公表された別の日本の臨床試験では,
「日本人でも血中のコレステロールを減らすと,心臓の事故が減る」ってことらしいが,
これもPROBE法だ。

確かに,コレステロール低下薬を飲んだ群では偽薬を飲んだ群に比べ
コレステロールは減っているし,心臓の事故(心臓発作とか)も減っている。
でもPROBE法だから,
コレステロール低下薬を飲んでいる群のほうが,血圧なんかが低い可能性がある。

血圧が低くても,心臓の事故は減るんだそうだ。

だからPROBE法で臨床試験を行った場合,
結果に関係しそうなデータは全て公開する必要がある。

で,この臨床試験の結果を見せてもらったんだけど,
血圧のデータは報告されてないようなのだ。
日本人に多い糖尿病,血糖値ってやつも見当たらなかった。
まぁ,論文にする時にはこのあたりのデータも入るのでしょうけど。

だから,素人考えでは,
「日本人でも血中のコレステロールを減らすと,心臓の事故が減る」なんて,現時点では言えない気がする。

だけど,コレステロール低下薬を売っている会社にとっては,
「日本人でも血中のコレステロールを減らすと,心臓の事故が減る」でOKなのだ。

全然毛色の違う話,
最後まで読んでいただき,有り難うございました。
Hit数がそこそこあれば,今後も時々触れてみたいと思います。