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【101117】獣害と地域経済 脱「負の連鎖」へ展望示せ

2010年12月18日 | 獣害-状況

~ 転載 ~

 名古屋市で先月開かれた生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)は政府提唱の国際モデル「里山イニシアチブ」を採択したが、身近な里山への関心が広まらなかった点は残念だ。地方では野生鳥獣による農業被害が200億円に上り、地域経済を脅かしている。農家や自治体にのし掛かる対策費や労力。地方の現場から見えるのは、農山村の衰退で荒廃した里山が獣害を招き、さらに農山村が疲弊する「負の連鎖」の惨状だ。

 まず獣害の深刻さを知ってほしい。農業被害額(2008年度)は全国199億円で前年度比14億円、8%増加。うち7億4千万円でワースト5位の京都府はこの5年で5割も増えた。綾部市では特産小豆へのイノシシ害が激化、舞鶴市ではサルが野菜を食い荒らした。「収穫寸前に食べ尽くされて営農意欲もなくなった」と無力感に落ち込む農家の嘆きを何度も聞いた。

 実際、獣害は離農や耕作放棄地の拡大要因でもある。農林水産省が昨年行ったアンケートでは、中山間地の放棄地の発生理由で高齢化や後継ぎ不足などに次ぐ4位に挙がった。林業でもシカやクマによる樹皮への食害が森林の1割に及び、林業家を悩ませる。

 農家らは防御に苦闘している。金網や電流を流した防除柵を各自の田畑に巡らせ、さらに集落全体も囲う。府の補助で敷設された柵だけで総延長は3千キロ。主客逆転で人間が囲われている感すらある。それでも動物の攻勢は続き、猟銃やわなでの駆除に迫られるが、問題はあまりに多い。

 第一に野生鳥獣は法的には保護対象で、例外扱いの駆除は即応性に乏しい。待つ間に作物が全滅することもある。第二に担い手が高齢化し、府の狩猟登録者も7割が60歳を超える。6月には福知山市の山中で駆除作業中の67歳と65歳の猟友会員2人が誤射などで死亡した。第三に駆除参加への奨励金が地方財政を圧迫する。例えば同市の経費は年額3千万円だが、国の支援予算は「事業仕分け」で昨年度の32億円(補正含む)から23億円に縮減となった。効率化は無論必要だが、地方の惨状を見ず対策の道筋も示さないのは「切り捨て」にも映る。

 そもそも獣害の拡大原因は何か。実は行政は対象動物の個体数を把握していない。急増しているのか、正確な実態調査が対策の前提として不可欠だ。その上で重要な点に、人間との緩衝地帯だった入会地や田を含む里山の荒廃が挙げられる。農山村は過疎・高齢化で労働力が低下し、放棄地の割合はこの20年で3倍に増加。荒れた里山を隠れ家に動物が人里へ侵入するのだ。

 この荒廃の要因を突き詰めれば、これまでの農政の混迷も考えざるを得ない。世界有数の食糧輸入国となる傍ら減反を進め、国内の農業は弱まり農山村の空洞化が進んできた。注目を集める政府の環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)参加問題への農家の反発は既得権死守と映りがちだが、こうして積み重なった憤りと先の見えない不安という側面もある。

 危うい日本の食の源と、警告のような動物たちの出没。地方を脅かす「負の連鎖」を断つため、政府には農山村の展望を早急に示した上で、獣害抑止と地域の活力につながる里山保全策が求められる。


京都新聞


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