ものをデッサンするということは、その存在を体験するということでした。
言葉でいうと大層な、七難しいことのように思えますが、
ようはそのものを単に写真のように写し取るということではなく、心の中で触り、全身で触れ合って体験するというものです。
つまり、そのものと遊ぶという、ただこれだけのことを長々と書いてきました。目的は遊ぶということです。
ですから、遊ぶ心さえ会得すれば、実のところ筆触法はその目的を達したわけで、理解できない部分があってもいっこうにかまいませんし、それはあなたに必要ない部分と考えて頂ければそれが正解です。
筆触法(ものと遊ぶ)の授業は、今回を含めあと2回で終了します。
その後、筆触法(心と遊ぶ)を予定していますので、引き続きお楽しみ下さい。
さて筆触法、最後にお伝えすることは、ものの形をつかむということで、アリとなって歩く基本に戻ります。
ものをデッサンするとき、表面の模様や飾りに惑わされないで、もの本来の形を見極めることが大切です。模様や飾りは基本の形を描いてから、付け足すように描けばいいのです。
その形を筆触法で描きとるのが基本なのですが、その形の取り方をいくつかのパターンを示しておきますので、参考にしてください。
①箱の形
箱がふたを開けています。垂直の線(縦)は下から這い上がり、ふたの部分で開けられた角度に沿いながら真っ直ぐ上に登ります。
ふたの向こうに見える箱のうち側は、背後から回りこむように這い上がってきたアリがそのまま真っ直ぐ内側に向って降りていきます。
水平線(横)は箱の各辺と並行になるように進みます。
この縦横の線が、箱を最もリアルに捕らえているのがわかりますか。
この線に沿ってハッチング(線を平行に何本も引いて面に意味を持たせること)を繰り返すことで、自然に箱が画面に生まれてきます。
(ハッチングの一例)
形が出来てくれば、斜線を使って影の部分を描き加えていきます。
こうして心のアリがくまなく箱の世界を散歩するのです。
②ドーナツの形
この形は円柱がわになったと考えます。
形を具体的に現す横線はチュウブを横にぐるぐる回る線になります。
アリは円運動をしながらドーナツの周囲を回ります。
この動きで、明らかに円筒の姿が浮かび上がってくるのがわかるでしょう。
縦線は浮き輪の周囲を回る大きな円運動をします。
真っ直ぐに進むと、浮き輪の向こう側に回りこんで見えなくなる部分があります。
その線をしっかり意識の中でとらえて線をひいていきましょう。
これが輪の形をもっとも特徴付ける縦横の線だと分かりますね。
③コップの形
円筒形ととらえて、縦横の線を考えます。
横線はもちろん湯飲みの周囲を巡る線となります。この線は湯飲みの形に従って、円運動をします。
手前は湯飲みの外側の円が見え、奥の方は湯飲みの内側の横線が円運動をしています。
この円運動は、外側で大きく、内側では小さくなっています。
その差が湯飲みの厚さとなって現れてきます
縦線は、湯飲みを真っ直ぐ上に上がる線です。
もちろんその線は湯飲みのふくらみに応じて曲線となり、ふちを乗り越えて内側に滑り込んで行きます。
その線は湯飲みの中央に集まっていきます。
この線の動きが、湯飲みの形の意味を充分に伝えてくれるのです。
④ナイフの形(複雑な形)
突起が有ったり、柄と刃先の形状が違ったりしますが、この形は円錐を連想させます。
形を全体でとらえるのです。
縦線は切っ先を頂点にする稜線を走ります。
そして横線は柄のほうから切っ先に向う直線を中心にグルグル周囲を
回りながら進みます。
ものの形に抵抗することなく、有るがままに表面を這い登っていきます。
刃先を渡るときは、心はその冷たさに震えるかもしれませんし、
ピンと張った緊張感を覚えるかも知れません。
その心の反応が線に伝わっていきます。ここに心のデッサンのゆえんが
あるのです。
主に、細長い形のものは、横線がそのものの形をよくとらえ、
縦線がそのものの質感を作り出します。
必ずしもそうではありませんが、
そんなことを感じながらデッサンを楽しむのもまた一興です。
⑤枝の形
木の枝のデッサンではどうでしょうか。
もちろんこの場合も円錐がその形の基本に見えてきます。
ナイフと同じように、枝の周りをグルグルと横線が這い登っていきます。
この運動のおかげで、木の枝の丸いふくらみが見えてきます。
実際には、木の周囲はごつごつした樹皮に覆われているかもしれません。
アリはその形に応じて動きます。
そして縦線は、木の根元から天に向かう線となります。
ここでも木の質感は、この縦線が主に表現する事になります。
若木、枯れ枝、ごつごつ、つるつる、ほとんどの特徴は縦線がとらえるのです。
こうして縦横の線が互いに補い合って、ものの形を現していきます。
ものの形をとろうとするときは、このことを忘れないで、
必ず縦横の線を使うようにして下さい。
⑥花の形
花の形です。
花びらは複雑でまず形の前でひるみますが、
よくものを見て、ものと対話できるようになればそんなに難しいものではありません。
対話できるというのは、ものの形の上で心のアリを遊ばせる事が出来ることのたとえです。
花びらは湯のみの形ととらえることが出来ます。
花びらが重なって難しそうですが、よくみると湯飲みのふちが何枚も重なっただけのことです。
アリは迷い無く花びらを縦横に這いまわってくれます。
軸も葉っぱも、図を見れば特に説明は必要ないでしょう。
花の上を歩くアリの気持ちをじっくり体験しながら線をひいて行きます。
どんな複雑なものでも、縦横の線を思い浮かべれば、たいがいの形は正確に味わう事が出来るはずです。
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この教室は、筆触法講義
(第一週)(第二週)(第三週)(第四週)(第五週)(第六週)(第七週)(第八週)
の続きです。初めての方は、最初からお試しくださることをお勧めします。
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決めつかないでと気を害されたらそれまでなのですけれど、わたしは最近人って違っていない。見た目よりもっと共通する部分を持っているのではないかと思うようになりました。
折師さんの、設計図を創る情熱はきっと、宇宙からきているのだとそう推察出来るのです^ね^
「完成せずとも、この作品から得られたものを胸に、良き人生を」
折師さんのこのことばは、人として共有する心に向かって差し出された優しい一言だと、私などは思うのです。
折師さん
よき人生をです^ね^
…そして私の作品に挑戦してくださるだけで…本当に感謝です! 記事に追記した言葉ですが「完成せずとも、この作品から得られたものを胸に、良き人生を」をモットーにしています。
…いつでも設計図はネット上にある、だから気兼ねなどいりません…そしてそれは”未来に残ることの証”…だからネットでの設計図公開を望みました。
…筆触法のごとく、一歩一歩…心が見て感じて触って…そんなペースで…こちらこそ”楽しませていただきます!!”
線を意識するだけでもう筆触法ですから、ゆっくり気の向いたときに楽しんで下さい。
折師さんのドラゴン、私の方こそ、試したく思いながら、なかなか時間が取れずチャレンジ半ばです。
分かったらまっすぐなのでしょうけれど、一折ごとに止まるのは、筆触法だってそうなのだと思います。
続けていればそのうち慣れてくるという思いで、おたがいアリの速度で行きましょう。
今回は…おもわず…”ああぁ!なるほど!!”と思いました…!!
「ナイフと同じように、枝の周りをグルグルと横線が這い登っていきます。(中略)若木、枯れ枝、ごつごつ、つるつる、ほとんどの特徴は縦線がとらえるのです。」
…枝の縦切りを重ねていく…3Dモデルのような技法。
…昔、風景を書くときに「真っ直ぐな線だとイラストみたいにマンガな木になってしまう…けれど細かく曲線で書いていくと全体のバランスが崩壊…。」
…こういう”新しい考えを、魅せていただける”…本当に感謝です、ありがとうございます!!
※されどまだ…筆触法その2あたりをアリの速度で進行中…。汗