『詩あきんど』第2回結社賞・俳句第三席
『詩あきんど』結社賞第三席に、いけまりさんの「天地を迷う」が選ばれました。以下、紹介いたします。
●結社賞第三席二十句詠「天地を迷う」 いけまり
メランコリックなライオンがいて黄水仙
別の死が一重椿のそば通る
万華鏡に三月の終着駅
車みなナンバーを持ち柿若葉
あの家の中は老女や蝸牛
黴の花天地を迷う遺品の本
人間の部屋見渡せり蜘蛛の糸
パソコンの向こうの荒野雨蛙
赦す気はなしサイダー飲む深夜
真夏日に空っぽの箱積み重ね
巡礼の風立つ二百十日かな
絶対は寂し間引き菜あわれなり
ここにいると叫びたくなる栗がある
別れしは記憶の尽に吾亦紅
トランポリン沈み竹の春跳ねる
神無月ラーメン啜るカオスの夜
さくさくと鮭の頭を切りこみて
ふたたびとけっしての間を隙間風
ふたりいてなおさら淋し冬シーソー
綿虫や無言舞踊のレクイエム
松本野著選者講評
※タイトルは「天地を迷う」。「あまつち」ではなく文字通り「てんち」と読むのだろうが、読み手の勝手な好みとしては「あまつち」と読みたい。
部立としては挽歌の範疇と言えるが、『古事記』と同様、そこに天(あま)と地(つち)があり、生と死に挟まれた日常(生活)がある。
移り行く現世の道行に迷いながら、それを受容し、「いま・ここ」を一歩踏みしめてゆくこの二〇句の構成は、喪失と回復の緩やかな再生の物語でもある。
※典比古
松本野著選者は、いけまりさんの二十句の一句一句を、懇切丁寧に鑑賞、及び講評をされています。全部を紹介できませんが、「喪失と回復の緩やかな再生の物語」という措辞が、すべてを語っているようです。
いけまりさんの句は、絵画にたとえると抽象画の趣です。ほとんどの句が取り合わせ(配合)の句であり、季語との接触により火花を散らすような、また深遠な闇を、瞬間垣間見せる、その不思議な二物の発酵による味わいがあります。
尚、佳作として4人が選ばれております。お名前と「タイトル」を以下に掲げます。
竹中しづり 「鉦叩」
細谷朋々 「概日リズム」
石田りつこ 「芭蕉のそよぎに(俳文)」
中澤柚果 「実むらさき」
5月28日撮影(蟻一匹)
ふと思ひ出すことありて蟻帰る 典比古
次回は中村修さんの「新作Tシャツ」