【やさしい俳句入門】(埋字3・下五を埋めてみる)
さて2問目は
火事を見て戻る道辺に「 」
この問題は、「火事」という冬の季語ですので、当然季語ではない言葉が入るということだけはわかります。ただ季語が二つあってもいいのかな・・・ということも脳裡を過りましたが
わたくしの抱いた情景としては、野次馬根性で近くの火事を見に行ったのですが、そろそろ鎮火しかけている途中で、帰路に着いたというそれです。
「何かを見たんだな・・・一体何をみたのだろう」また「昼の火事なのか、夜なのか」ということで、想像力をふくらませてみたのです。
それが「犬の声」「群れ烏」・・・しかし、道辺だから植物もありかなとも思い「カンナ燃ゆ」「白牡丹」・・・そんな書き込みがしてありました。
松井氏の実験句
「火事を見て戻る道辺に犬吠ゆる という作品が出ました。これによりますと、火事を見て心を高ぶらせている、それを犬が嗅ぎとって吠えたとしています。」
次の実験句
「火事を見て戻る道辺にポスト立つ ポストは無表情ですから、これは『犬ゐたり』と、かなり近い内容です。片方の『犬吠ゆる』のように高ぶった犬にするか、あるいはおさえて『ポスト立つ』、あるいは平凡に火事とは無関係で、無関心の犬にするかで、火事に対する感情のあり方の違いが出てきます。」
他、実験句としては。
火事を見て戻る道辺に夜鳴きそば というのがありました。これはたいへん生活的です。火事を見ていた緊張がほぐれ、途中で夜鳴きそばを見て、お腹が空いていたことに気付いたのです。緊張と余裕という心の断層が、この句では出ています。」
他 火事を見て戻る道辺に轍あと
そしてこの原句は
火事を見て戻る道辺に犬ゐたり 内田百閒
※この「解答」を見たとき「やっぱり犬か・・・」と思いましたが、なんだか「平凡」すぎるとも思いました。
総括として松井氏「これらで下五字が多彩な世界を呼び起す力を持っていることが、理解していただけたと思います」と。
※典比古
まだ埋字問題はたくさんあるのですが、このくらいにしておきます。この著書を読むことにより、歳時記に掲載されている句の「上五」や「下五」を隠して自分で想像力を働かせて考えてみることも、遊び感覚でやっています。
中村修さん「ワタシのダイジなタカラモノ」