ノッピキの読書ノート

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扉の向こうに何があるか?
本の扉を開くたびに、ワクワクします。

宮尾登美子 序の舞/きのね

2005年08月31日 | 小説
 掲載されている小説が面白くて新聞をやめられない、ということは結構あったが、朝が来るのを待ち遠しく感じたのは、『序の舞』が初めてだった。
宵っ張りの朝寝坊を自認している私が、早起きして新聞配達が来るのを待っていた。

絵画『序の舞』は、美人画で名高い上村松園 (1875-1949)の作品で、舞を舞う女性の凛とした立ち姿が美しい。宮尾登美子の『序の舞』は、上村松園の絵に懸けた生涯を描いた作品だ。
幼児期から絵を描く事に異常な執着を見せる松園と、周囲の反対を押し切って絵を習わせた母親。松園は、男性中心の日本画家の世界で、女の身で画家として立つ、その苦労は、並大抵のものではない。.............
 絵画『序の舞』の女性の凛とした美しさは、松園の凛とした生き方と重なる。

 『序の舞』の次に新聞に掲載された『きのね』も、また心ひきつけられる作品だった。
『きのね』というのは、歌舞伎の舞台進行の合図に使う『柝(拍子木)の音 』のことだという。
歌舞伎役者の家へ女中として奉公にあがった光乃は、梨園の御曹司・雪雄に仕え、夫人となり、苦労を重ねる。
彼女は、耐え忍ぶことの多い生涯だったが、『耐える女』だけでない気品が感じられる。
華やかな歌舞伎の舞台に進行の合図に使われるの『柝』の音は、名優を陰で支える光乃の姿と重なる。
張りのある冴えた音だと想像する。

このモデルが誰であるか、私には長い間謎だった。ある日、職場で「今一番の楽しみは新聞小説だ」と言ったところ、そばにいた先輩が新聞を持ち出して、読み始めるやいなや「あら、これは海老蔵よ」と、言い放った。並外れた美男ぶりでと高い気品を備え「海老様ブーム」起こしたのは、十一代団十郎だった。つまり、この小説は現団十郎の両親の物語ということになる。

歌舞伎に造詣の深い彼女は、登場人物の全ての実名を言い、この小説の存在を教えた私に感謝した。

序の舞 (上)

朝日新聞社

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きのね〈上〉

新潮社

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きのね〈下〉

新潮社

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玄田有史著「仕事のなかの曖昧な不安」

2005年08月27日 | 現代社会
 今週は葬儀参列の為故郷に帰ったのだが、帰りの車中で読むために買った本の中に、この本はあった。
著者は、豊富なデータを基に、若年層の雇用問題の深刻さを取り上げている。
中高年の雇用問題の影で見落とされている若年の雇用こそ、中高年の雇用以上に問題点が多い。
 『若年雇用とパラサイト・シングルの関係について』というコラムの中で、著者は次のように述べている。

パラサイト・シングルが親からの「既得権」を享受しているというよりも、
むしろ社会から「既得権」を与えられている中高年に、若者が「パラサイト」している。

正社員になる若者が少ないのは、労働意識の変化より、雇用状況・雇用条件の悪化のせいだという。
中高年の再雇用・定年年齢の延長が、若年者から雇用の機会を奪うことになるらしい。
現在の中高年は、会社で様々な技術を身につけているが、現在の若者にはその技術が無い。
また、若者に技術教育をする余裕のある企業は、少なくなっているという。
技術の無い若者が中高年になったとき、日本はどんな社会になるか、想像するのも怖い。

 そういえば、久しぶりに会った従姉から「最近は、あちこちの家で、働かない人がいて困っているようだ。」と聞いたばかりだった。
働けない社会構造の問題でなく働かない人間の問題として捕らえられている事に、大きな問題があると思う。アルバイト先の少ない地方で暮らす若者の苦痛は想像に余りある。
仕事のなかの曖昧な不安―揺れる若年の現在

中央公論新社

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梨木香歩(女の子と祖母の心の交流)

2005年08月20日 | 小説
「西の魔女が死んだ」というタイトルが、出会いのきっかけだった。この手の本はとっくに卒業しているはずだったが、なんとなく立ち読みをして、続きを読みたくなって購入、そしてはまってしまった。以来「梨木香歩」と言う名前の目にすると、迷い無く買うことにしている。メルヘンチックな物語構成と、祖母と孫娘の心の交流が描かれているのがいい。遠くに住む祖母の、母親とは違った眼差しが、なんとも言えない。「裏庭」も不思議な物語だ。庭から開くもう一つの世界、時を越え、空間を越えて広がる世界は、心の風景であるかもしれない。ワクワクでも懐かしい気がする。「りかさん」「からくりからくさ」は、不思議な人形を巡る一連の物語である。ここでも祖母と孫娘との心の交流が、テーマの一つになっている。成長期の女の子にとって、母親の役割も重要だが、母親とは違う祖母の役割もあると、気づかされる。
西の魔女が死んだ

新潮社

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裏庭

理論社

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りかさん

新潮社

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村田エフェンディ滞土録

蟹塚縁起

マジョモリ


ファンタジーの宝石箱(vol.2)
からくりからくさ