世態迷想・・抽斗の書き溜め

虫メガネのようであり、潜望鏡のようでも・・解も掴めず、整わず、抜け道も見つからず

残像(14)大きな墓地

2018-03-19 | 記憶の切れ端

 

 

ボクが住んでいた町は、掘割の跡からわずかにそれと分かる小さな城下町で 、

古風な家並も中心地域に固まって遺っていた。

この小さな町に、不思議なほど広い墓地が町の北側にあって、

近くに住む子供たちの絶好の遊び場でになっていた。

広めの場所では、三角ベースの野球を盛んにやっていた。

敗戦直後で野球具は質素である。

布のグローブ、手製の布ボール、バットに似せた棒切れ、塁ベースは何でも良かった。

また、この墓地は隠れんぼにも絶好で身を隠す場所に困らない。

高いところから飛び比べをするにも困らないほど大構えの墓が多くあった。

墓石の間を這い回る蛇を見つけると、当たろうが当たるまいが石を投げて追い回し、

蛇の尻尾を掴んでグルグル回して、仲間に投げたりもするのだ。

 

ある時、墓場を走り回っていて、

大きな墓の陰にしゃがみ込んでいる大人の男女に出くわした・・、

女の手に注射器があった。

ヒロポンだと子供ながら直感した。その女の顔に見覚えがあった。

きっと電車駅前のあの店の人だ・・。

ムク鳥の大群が空を埋める夕刻まで、この墓地で僕らは遊んでいた。

 

今でもこの墓地で見かけた様々な墓の形を思い出せる。

こんなバラエティーに富んでいた墓の集まった墓地に、この歳になっても出くわしこと

がない。青山墓地でも見かけない。

墓地の区画はかなり不規則で、墓の姿が一様ではなかった。

三階建ての上に塔が有るもの

間口2間ほどの長方形の建物に鉄の扉があるもの、

4m高の塔に十字架が乗ったもの、

階段を上がると墓標の前が子供が遊べるほど広いポーチになっているもの、

大きな楠の大枝に襲われている墓、はぜの木に両側から挟まれている墓、

様々な形をした大きな墓が小さな墓に混じってあり、

朽ち果てたものも、傾きかけたものもなど、

墓石の今昔、まるで墓デザインの博覧会場ようでもあったろうか。

なぜあの小さな町にあんな大きな墓地があったのか・・・。

この墓場で遊び慣れていた僕は、あらかた目立つ形の墓の探索を終えていた。

こわごわ塔に上ったこともあるし、大きな鉄の扉を開けて中に入ったことも有る。

楠の太い枝から十字架の塔に渡ったことも有る。

骨壺がどういう風に収まっているかも見ている。

リンがうす青く頼りなく燃えるのを見たことも有る。

以前に覗いた骨壺から、金歯が消えていて驚いたこともあった。

薄闇のなか墓地を抜けて帰ることも平気になっていた。

中学生になると、この墓地での遊びはすっかり終わった。

次の世界が待っていたのである。

この町を離れて50年を超える。

町の開発によってこの墓地はとうの昔にどこかへ移転したそうだ。

今は公園と駐車場になっている。

あの多彩な墓石群も消えてしまったことだろう。


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