石原延啓 ブログ

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クリムトとダン・グラハム

2010-04-10 06:25:00 | Weblog


トルコ軍の侵略からウィーンを守った救国の英雄プリンツ・オイゲン公の夏の離宮・ヴェルベデーレへ行く。ウィーン版北条時宗の別荘ですが、一通り歩くとヘトヘトになるくらいに広い。そこでクリムトの接吻を観る。

アートをかじりだした十代の頃、ご多分に漏れず奇麗な女性の裸とその装飾性に惹かれてクリムトが好きになり、次にその弟子のシーレの重さと自分の青春を勝手に重ね合わせて熱中し、次第にクリムト作品から離れていった。
以来全く気にしたことがなかったにもかかわらず、改めてクリムトの作風に影響されている今の自分に気づかされた。
こちらに来てから日本の文化の空間について技法的に見直していて、自分が表現したいテーマをどうしたら上手く表現できるか試行錯誤していたのだが、何のことはない私がやろうとしていたことは100年以上前にクリムトがやってました。
新しい表現方法を日本の伝統文化の中から抽出できないかと思っていた自分ですが、実際に日本の文化から大きな影響を受けた西洋人のクリムトを通してヒントを与えられるとは思いませなんだ。これもまた情報化された現代の社会ではよく起こりうることなんだろうな。唯、ここウィーンでそれに気づかされるというのは遥々遠くへ来たかいがあるっていうもんですね。

帰り際に超・掘り出し物を見つける。人のいない下宮の小さな庭に目を向けてみると何やら妙なオブジェが置いてあるではないか。近寄ってみたらダン・グラハムの作品だったのだけれども、いやビックリ!感動しました。設置の場所とか効果とかがパーフェクト。日本的な「味」とは無縁のクールなマテリアルなのだけれども奥の深さを感じさせる。とらえどころのない空白とそこから私の体内に感じ取れる微妙な振動は「禅」的な世界観を考えさせてくれた。クリムトの接吻と並んで必見。非常にレベルの高い作品だと思う。