岩堀修明ブログ

ドクター岩堀の
「私設動物資料室」

チョウチンアンコウのオスとメス

2013-05-31 | ドクター岩堀の「私設動物資料室」
 チョウチンアンコウは、深海底に棲息する魚の一種である。頭部の先端に“チョウチン”の様なものが付いていて、このチョウチンに誘き寄せられてくる獲物を捕らえて生活している。
 チョウチンアンコウがどの様にして生殖しているか、長いこと分からなかった。ある海底調査では、チョウチンアンコウのメスばかりが捕獲された。別の調査では、体長がメスのチョウチンアンコウの20分の1位しかなく、形もまったく違う謎の魚が捕獲された。そしてこの謎の魚は、全てオスであった。この謎のオスは、鋭い歯を持っており、鼻嚢が大きく発達していた。
 ついに疑問が解ける日が来た。メスのチョウチンアンコウに、謎のオスが、鋭い歯で噛み付いて、ぶら下がっているものが捕獲されたのである。謎のオスは、実は、チョウチンアンコウのオスだったのである。メスの体に数匹のオスが取り付いているものも捕獲された。オスはまさしく、メスの寄生体であった。漆黒の深海底で、嗅覚を頼りにメスにたどり着き、鋭い歯で取り付いた。そして、メスが放卵するのを辛抱強く待ち受け、卵に放精することにより、次の世代を残す。オスは、精子形成の役割を果たす寄生体でしかないのである。
 オスが何故、寄生体のようになってしまったのか分からないが、深刻な食糧事情が根底にあることは、間違いないであろう。餌の少ない深海底で、オスもメスと同じように大きな体をしていれば、その分だけ餌が余計に必要になる。場合によれば、餌の奪い合いをして、オスもメスも共倒れになってしまう危険性もある。この様な事態を避けるために、オスの体を小さくして、“口減らし”をしたものと考えられる。食料事情が極めて厳しい状況下で、子孫を残そうとする、ぎりぎりの対応なのであろう。SFの中で起こるような事態が、現実に起こっているのである。

参考文献 Wendt, H.: Das Liebesleben in der Tierwelt. Rowohlt Verlag (今泉みね子訳:「動物の性生活」)
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「栄養科学イラストレイテッド演習版 解剖生理学ノート 人体の構造と機能」

2013-05-26 | 著書
栄養科学イラストレイテッド演習版 解剖生理学ノート 人体の構造と機能」 志村二三夫、岡 純、山田和彦 編  羊土社

共著

発行年月日 2010/04/10  

サイズ:B5判
ページ数:214ページ
ISBN:978-4-7581-0885-0

第11章 神経系
171~185ページを分担
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セミの食餌

2013-05-10 | ドクター岩堀の「私設動物資料室」
 セミは、長い幼虫の時代も、地上で生活する成虫になってからも、食餌は全て樹液である。樹液には、それほど多くの栄養分は含まれていない。そのため、必要な栄養分を全て樹液から得るには、大量の樹液を摂取しなければならない。
 大量の樹液を摂取すると、それを消化し、吸収するために、消化管は過酷な仕事をしなければならない。そして、樹液に含まれる水分は、尿として排出する必要があるので、泌尿器も重労働を強いられることになる。セミは、この様な事態にならないように、実に巧妙な解決策を見いだして、樹液を吸って生きてきた。
 セミの腹部を見ると、細く長い消化管が複雑な走行をしている。私たちの胃に相当する「中腸」は長く、消化管の半分以上を占めている。中腸は食道側より、第一室、第二室および第三室に分かれており、第三室は腸に続いている。第一室と第二室は尾方に向かって伸びる。第三室は細くて長く、途中で折り返して頭方に向かい、第三室の終末部と腸の始めの部分は、第一室の所に戻ってきて、第一室と接着する。接着した後、腸は再び反転して尾方に向かい、直腸を介して外に開く。
 第三室の終わりの部分と腸の始めの部分は、第一室と線維でしっかり結びつけられ、周囲を膜で包まれて、「濾過室」という、極めて画期的な装置を形成している。口器で吸い取った樹液は、食道を通り中腸の第一室に入る。ここで樹液は、タンパク質や脂肪などの栄養分と、水分とに濾し分けられる。濾し取られた栄養分は第二室に送られ、ここでゆっくり消化され、吸収される。濾過された水分は腸に入り、直腸を介して尿と一緒に排出される。
 濾過という方法を使い、栄養分と水分を分けてしまう、これがセミが採ったユニークな解決策であった。最初の段階で、必要なものと不必要なものを濾し分けてしまうことにより、沢山の樹液を摂取しても、消化管や泌尿器に負担をかけずに、生活することができる様になった。濾過室という画期的なものを作ったことによって、セミは何億年もの長い年月を、樹液を吸って生きのびてくることができたのである。
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