岩堀修明ブログ

ドクター岩堀の
「私設動物資料室」

「ブタの角煮」の解剖学

2020-03-25 | ドクター岩堀の「私設動物資料室」

                

 ブタの角煮は、側腹壁の皮下組織と筋を、調理したものである。ブタの側腹壁は、外方から、皮膚、筋層および腹膜より構成される。

 皮膚は、表皮、真皮および皮下組織よりなる。皮下組織には、多くの脂肪が含まれる。

 筋層を構成する筋は「側腹筋」と総称され、外方から、「外腹斜筋」、「内腹斜筋」および「腹横筋」と云う三枚の板状の筋が重なるように配列している。三枚の筋がたがいに重なるように配列しているところから、側腹筋を「三枚肉」とも呼ぶ。外腹斜筋と内腹斜筋の間、および内腹斜筋と腹横筋の間には、脂肪が分布していて、これらの筋を隔てている。

 側腹筋を構成する三枚の筋では、筋線維の走行が異なっている。外腹斜筋では、筋線維は外上方から内下方に向かって走っている。内腹斜筋では、これと反対に、内上方から外下方に伸びている。腹横筋では、筋線維は横方向に走っている。

 側腹筋は、肋骨を引き下げたり、脊柱を曲げたりするはたらきをする。腹式呼吸の際には、収縮と弛緩を繰り返す。また、側腹筋全体が収縮すると、腹腔を圧迫して、腹圧を上昇させるはたらきをする。さらに、横隔膜や前腹筋などと協調して腹圧を調整し、排便、嘔吐、分娩などの際に重要なはたらきをする。

 腹膜は、側腹壁の内表面を覆う膜である。

 角煮を見ると、側腹壁の構造がよくわかる。一番端にある脂肪が、厚い皮下脂肪である。その次に、外腹斜筋、内腹斜筋および腹横筋が配列している。筋の間には脂肪の層がある。

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ミミズの皮膚

2020-03-13 | ドクター岩堀の「私設動物資料室」

 ミミズの体壁は、外方から、皮膚、筋層および体腔膜より成る。皮膚は、クチクラ、表皮、および基底膜より構成される。

 クチクラは、表皮の外表面を覆っている柔らかい薄い膜状構造物で、表皮を保護するはたらきをしている。クチクラには、多数の小さい孔があいている。表皮から分泌された粘液などは、この孔を通ってクチクラの表面に出て、体表を覆う。

 表皮は、一層に配列した表皮細胞、粘液細胞、漿液細胞、および基底細胞より構成される。いずれの細胞も、基底膜の上に乗っている。表皮の細胞のうち、表皮細胞、粘液細胞および漿液細胞は、先端が表皮の表面まで達しているが、基底細胞は短く、先端は表面に達していない。構造的には、ミミズの表皮は「多列上皮」に属する。

 表皮細胞は、支持細胞とも呼ばれる円柱状の細胞であり、皮膚の形態を維持するはたらきをしている。粘液細胞は、紡錘形をした単細胞性の腺細胞で、体表に粘液を分泌している。漿液細胞は、数は少ないが、漿液を分泌している単細胞性の腺細胞である。基底細胞は、基底部にある円錐形の細胞で、表皮細胞、粘液細胞、漿液細胞などに分化していく細胞である。基底細胞は補充細胞とも呼ばれ、表皮細胞などが損傷した場合に、これらを補うはたらきをする。

 基底膜は、多くの線維を含んだ、結合組織性の薄い膜状構造物である。ミミズでは薄いが、ヒルの類では非常に厚くなっている。基底膜は真皮に相当する、という説がある。

 ミミズの皮膚は、呼吸器としてのはたらきもしている。皮膚は、呼吸のための特別な構造は持っていないが、空気が通れるような薄さになっている。皮膚にある粘液細胞や漿液細胞からの分泌液は、皮膚の表面を湿潤に保ち、ガス交換を助けている。皮下には、豊富な毛細血管網が発達している。毛細血管壁と皮膚を介して、毛細血管内を流れる血液と、外気との間でガス交換が行われている。呼吸器と云う面からみれば、ミミズの皮膚は、哺乳類における肺胞上皮と同じような役割を果たしている。ミミズの血液には、呼吸色素のヘモグロビンが含まれており、ガス交換機能を促進している。

 

 

 

 

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魚類の皮膚腺

2020-03-02 | ドクター岩堀の「私設動物資料室」

 魚類の皮膚腺は、大部分が単細胞性の腺である。一部の魚類には、多細胞性の腺も分布している。皮膚腺には、粘液腺、漿液腺、および毒腺がある。

 魚類の皮膚腺では、単細胞性の粘液線が主体となっている。粘液線の分布密度や分布様式は、魚種により異なっている。ウナギやドジョウなどのように、鱗が退化する傾向のある動物では、粘液線が発達している。粘液線から分泌される粘液はムコ多糖類を含み、魚の体のほぼ全表面を覆っている。魚を触った際に、ヌルヌルした感じがするのは、粘液のためである。粘液は、魚体と周囲の水の間の摩擦を少なくするとともに、寄生虫を防ぐ効果もあるといわれる。

 肺魚類には、多細胞性の粘液線が発達している。レピドシレンやプロトプテルスなどは、夏の乾季になると、川底の泥の中に潜り、大量の粘液を分泌して、周囲の泥を固めて長円形の腔所を作り、その中で夏眠する。

 皮膚には漿液腺もあるが、粘液線に比べるとはるかに少ない。マスやナマズなどは、比較的多くの漿液線を持っている。漿液腺が欠如している動物もある。

 魚類の中には、毒腺を持っているものがいる。軟骨魚類のネコザメ、ツノザメ、アカエイ、ヒラタエイ、トビエイ、硬骨魚類のナマズ、オコゼ、カザゴなど、いろいろな魚類が毒腺を持っている。

 毒腺は毒器官に組み込まれている。毒器官は鰭、頭蓋、鰓蓋、鱗、尾などに分布している。毒器官は同じような構造をしており、上皮の変形した棘状の突起と、その下に集まった、多数の単細胞性の毒腺細胞より構成される。棘状の突起が相手に刺さると、突起の下に集まっている毒腺細胞が圧迫されて毒が分泌される。分泌された毒は、棘を介して相手に注入される。

 アカエイは、よく捕獲される魚類の一種である。アカエイには、細長い尾の背側面に、鋭い棘がある。うっかりこの棘に触れてしまうと、傷口は赤く腫れあがり、1週間くらい、激しい痛みが続く。

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鳥類の食道

2020-02-24 | ドクター岩堀の「私設動物資料室」

 多くの動物では、食道は咽頭から胃まで食餌を運ぶはたらきをする、管状器官である。鳥類の食道は、食餌の輸送だけではなく、嚥下した食餌を一時的に貯蔵したり、育児用のミルクを産生したり、繁殖のための「求愛コール鳴き(mating call)」の共鳴器となったりするなど、いろいろなはたらきをしている。多彩なはたらきに対応するため、食道は単なる管ではなく、「食道嚢(esophageal sac)」や「素嚢(crop)」などの局所的な拡張部がある複雑な形をしている。

             

 食道嚢は、繁殖期みられるもので、食道の上部にできる、局所的な拡張部である。多くはオスおすに見られるが、一部の鳥類ではメスにも認められる。素嚢は、食道の中央部から下部に見られる局所的に拡張部である。素嚢の大きさや形は、動物種によりいろいろである。

 

①食餌に関するはたらき

 鳥類の食道の太さは、食性により違っている。コウノトリのように大きい餌を嚥下する動物では、食餌を一時的に蓄えるはたらきもするので、食道は太い。逆にオウムやツバメなど、小さい餌を摂取する動物では、食道は細い傾向がある。

 食道の本来のはたらきは、食餌の輸送である。輸送を円滑に行うために、食道には多くの粘液線が発達していて、粘液を分泌して食餌と食道粘膜の間の摩擦を少なくしている。食餌の輸送は、蠕動運動により行われる。

 鳥類は、摂取した食餌は、すぐに嚥下して食道に送っている。食道に入った食餌をそのまま胃に送ってしまうと、胃のはたらきが撹乱されてしまう可能性がある。この様な事態になるのを避けるため、胃に内容物が充満している間は、食道に入った食餌は、一時的に食道や素嚢に留め置かれる。胃の内容物が少なくなると、食道内にある食餌は、漸次、胃に送られる。胃の活動と、食道や素嚢の動きは連動している。この連動の、ペースメーカーとしてのはたらきをしているのは、胃である。

 

➁育児に関するはたらき

 哺乳類と並んで、鳥類は育児をする。育児の方法は、動物によりさまざまである。親鳥が餌を探してきて、それをヒナに与える動物もいる。鳥類の中には、食道内や素嚢内の食餌を逆流させ、それを口から出して、ヒナに与えるものもいる。

 動物種によっては、育児期に、素嚢壁や食道壁で、育児用の「素嚢乳」や「食道乳」が作られる。素嚢乳は、素嚢壁の細胞で産生される。素嚢乳を産生している間は、素嚢壁では、血管が増えるとともに、上皮細胞が増殖する。やがて上皮細胞には、脂肪滴が出現する。脂肪を含んだ細胞は、剥げ落ちて崩壊し、集まって黄白色の素嚢乳となる。素嚢乳は、多くのたんぱく質と脂肪を含んでいるが、炭水化物は少ない。

 食道乳は、食道壁のほぼ全長に亘って分布している房状腺から分泌される。食道乳が分泌されている間は、食道上皮や房状腺の細胞が増殖しているので、食道壁は非常に厚くなっている。

 素嚢や食道で産生された乳汁は、食道を逆流し、口から吐き出す形でヒナに与えられる。

 哺乳類は、皮膚の一部が変化してできた乳腺で、育児用の乳汁を作っている。育児用の乳汁を作るにあたって、鳥類と哺乳類は、まったく別個の器官を用いている。乳汁を作る器官は違っているが、どちらの動物でも、乳汁の産生は、下垂体ホルモンのプロラクチンにより制御されている。

 

③繁殖に関するはたらき

 繁殖に関与しているのは、食道嚢である。舌を背方に挙上し、咽頭を狭めることにより、気嚢や肺から気管を通って排出される空気は、食道嚢に導入される。食道嚢に空気が入ると、内部の空気が外に漏れないように、食道嚢の上方と下方にある食道の輪走筋が収縮する。

 頚部の筋を緊張させると、頚部の皮膚は、食道嚢に密着し、食道嚢を圧迫する。この様な状態で、頚部の皮膚を振動させると、食道嚢が振動に共鳴し、それぞれの種に特有の求愛鳴きとなる。求愛鳴きが終わると、食道嚢の空気は、口から排出される。

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魚類と両棲類の口腔腺

2020-02-11 | ドクター岩堀の「私設動物資料室」
 脊椎動物は水の中で生まれ、水の中で進化してきた。魚類は、そのまま水の中での生活を続けてきたが、一部の動物は陸に上がり、陸上で生活するようになった。魚類と、陸に上がった動物である両棲類の口腔腺を比較してみると、水の中で生活している動物の口腔腺はどの様なものであり、これが陸上で生活をする動物になって、どの様に変わったかを知ることができる。

魚類の口腔腺
 魚類の口腔腺は、単細胞腺が主であり、これに少数の多細胞腺が混在している。
単細胞腺を構成する腺細胞には、粘液細胞と漿液細胞がある。腺細胞の数や分布様式は、動物種によりいろいろである。
 粘液細胞は、口腔粘膜のほぼ全域に分布しているが、口腔の後部に多く集まっている傾向がある。多くの粘液細胞が密集している所では、腺細胞のために、粘膜が肥厚している。粘液細胞の多くは単細胞腺として存在しており、多細胞性の粘液腺を作ることは稀である。
 漿液細胞は、粘液細胞よりはるかに少ない。動物によっては、漿液細胞が欠如していることもある。漿液細胞は、単細胞腺を形成していることが多いが、多細胞性の漿液腺を形成していることもある。
 
両棲類の口腔腺
 両棲類の口腔粘膜には、魚類と同様に、単細胞腺が分布しているが、この他に、多細胞腺が発達している。多細胞腺の歴史は古く、口蓋部の骨の形態から判断すると、絶滅した迷歯類にも、口蓋部に多細胞腺があったことが推測されている。
 単細胞腺は、口腔のほぼ全域にわたって分布している。
 多細胞腺は、存在する場所により次の3つに分けられる。
①上顎間腺:口蓋に開口する腺であり、両棲類の主要な口腔腺の1つである。動物によっては、左右の腺が融合して1つの腺になっていることがある。一部の有尾類では、頭部の皮膚の直下にまで広がっており、頭部の皮膚腺と混在している。分泌液にアミラーゼが認められることがある。
➁舌腺:舌の発達している動物では、よく発達しており、逆に舌の発達の悪い動物では、舌腺の発育も悪い。舌筋の間に分布している多くの小さい腺房が集まって、1つの腺を形成している。一部の動物では、分泌液にアミラーゼが含まれている。
③咽頭腺(後鼻孔腺):後鼻孔の周囲を取り囲むように配列している腺である。腺体の中央部は口蓋にあるが、外側部は鼻腔に入り込んでいる。この腺は、口腔腺と鼻腺の一部が合体してできたものである可能性がある。外側部の腺の一部は鼻腔に開口している。

水中の口腔腺から陸上の口腔腺へ
 魚類の口腔腺には、粘液線と漿液腺があり、それぞれ粘液と漿液を分泌している。この両種の液の分泌は、魚類の時代から始まっていた。両棲類になると、アミラーゼの分泌も始まっている。
魚類では、粘液線の方が漿液線より、はるかに多い。このことから見ると、魚類では、口腔腺の主要な目的は、食餌と口腔粘膜との間の摩擦を少なくすることである、と考えられる。
 魚類の口腔腺と比べると、両棲類では、漿液腺の割合が非常に多くなっている。陸棲の動物になると、口腔が乾燥するのを、防ぐ必要がある。漿液腺が著しく増加したことは、口腔の乾燥を防ぐ上で、漿液が重要な役割を果たしていることを、示唆している。
 両棲類の中には、舌を長くのばし、その先に食餌を接着して捕食するものがいる。この様な動物では、粘着性の唾液を分泌し、舌の表面に粘着性を持たせることも、口腔腺の重要なはたらきになっている。粘着性のある唾液の産生は、爬虫類のカメレオンや鳥類のキツツキなど、少数の動物に引き継がれることになる。
 両棲類になると、単細胞腺の他に多細胞腺も見られるようになる。単細胞腺と多細胞腺を比較してみると、分泌物の量は多細胞腺の方がはるかに多く、分泌腺としての機能は、多細胞腺の方が優れている。陸上で生活するようになると、口腔の乾燥などに対応するために、多くの分泌物が必要になったため、多細胞腺が出現したものと考えられる。
 多細胞性の口腔腺の起源としては、口腔粘膜に由来する固有の口腔腺である可能性と、外部から移ってきた腺に由来する、という可能性がある。
 両棲類には、構造上、魚類の多細胞腺とよく似ている腺が認められることから、一部の多細胞腺は、魚類の多細胞腺を引き継いだものであることが、示唆される。両棲類の口腔粘膜には、腺に変わりつつあるいろいろな段階の腺がみられるので、多くの多細胞腺は、口腔固有の腺で、両棲類になって初めてできた、両棲類オリジナルの口腔腺であるものと、推測される。
 両棲類の口腔の周囲には、口腔と密接に関係のある皮膚腺が存在している。これらの皮膚腺の中には、導管が口腔内に開口していたり、腺体が口腔腺の腺体と混在していたりすることがある。これらの皮膚腺の一部や、さらに鼻腺の一部などが、口腔腺に変化した可能性がある。

本ブログの、“爬虫類の口腔腺”と“鳥類の口腔腺”も参照してください。

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鳥類の口腔腺

2020-01-24 | ドクター岩堀の「私設動物資料室」
 口腔腺は、唾液を分泌する腺であり、口腔壁や一部は咽頭壁にも存在している。
 鳥類の唾液は、摂食の際のはたらきほかに、一部の動物では、越冬用の保存食を作ったり、繁殖期に巣を作ったりするはたらきもしている。
 鳥類の口腔腺は、食性により著しく異なっている。乾燥した穀類を常食としている鳥類では、よく発達しているが、水分の多い食餌を摂取している鳥類では、あまり発達していない。
 口腔腺は、存在部位により、次の3群に分けられる。動物によっては、これらの腺の一部が欠如していることがある。
①口蓋に存在する腺:上顎腺、口蓋腺、および蝶形翼状腺、
➁口角にある腺:口角腺
③口腔底に分布している腺:下顎腺、舌腺、および輪状披裂腺、
 鳥類では、爬虫類や哺乳類と同様に、粘液性唾液と漿液性唾液が分泌されている。粘液性唾液は、交感神経の制御により分泌され、食餌を嚥下する際に口腔壁との摩擦を少なくするはたらきをしている。漿液性唾液は、副交感神経の作用により分泌され、食餌に湿り気を与えるはたらきをしている。状況に応じて、この二種類の唾液を使い分けている。
 唾液は、捕食を助けるはたらきをすることがある。キツツキは、狭い隙間にいる昆虫などを、舌に接着して摂取する。食餌を接着するために、下顎腺を中心とした唾液腺から、粘着力の強い唾液が分泌される。粘着力の強い唾液の分泌は、両棲類から始まっており、爬虫類のカメレオンや、哺乳類のアリクイなどでも分泌されている。
 カケスの類は、食餌を粘液性の唾液で固めて“だんご”を作り、木の枝に刺して、越冬用の保存食にする。冬に地面が雪で覆われるときには、このだんごを食べて、生き延びる。
 鳥類は、繁殖期になると、それぞれの種に特有な巣を作る。巣作りに、唾液が使われることがある。身近な鳥では、ツバメは、土を主要な材料として、これを唾液で固めて小さなブロックを作る。このブロックを積み重ね、唾液で接着して巣を作る。東南アジアの洞窟内に棲息するアナツバメの巣は、大部分唾液により作られる。この巣は、食用にされ、中華料理の“燕窩”の食材として珍重されている。
 これら一連の営巣作業をするために、繁殖期になると、糖たんぱく質を主体とした接着力の強い唾液が分泌される。このはたらきは、下顎腺が主体となって行われる。これらの動物の下顎腺は、性ホルモンの支配を受けている。繁殖期になり、巣を作る時期になると、下顎腺は性ホルモンの作用を受けて大きく発育し、粘着力の強い唾液を大量に分泌する。繁殖期をすぎると、下顎腺は元の大きさに戻る。

本ブログの、“爬虫類の口腔腺”も参照して下さい。
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唾液腺と唾液

2020-01-10 | ドクター岩堀の「私設動物資料室」
 唾液腺は、陸棲動物でよく発達している。唾液の一義的なはたらきは、食餌の咀嚼や嚥下がスムーズに行われるように、口腔内を湿潤に保つことである。水の中で生活している動物では、口腔内が乾燥することはない。水棲動物であるクジラで、唾液腺が退化の傾向にあることは、唾液の一義的なはたらきが、口腔内を湿潤に保つことであることを、示唆している。
 私たちヒトの唾液には、粘液性唾液と漿液性唾液がある。粘液はムチンを主体とした粘性のある液体である。これに対して漿液は、アミラーゼなどのたんぱく質や無機塩類を含んだ粘性の少ない液体である。粘液性唾液は、食餌と口腔や食道の粘膜との間の摩擦を、少なくするはたらきをする。漿液性唾液は、口腔内の食餌に湿り気を与えるとともに、アミラーゼが含まれているので消化作用がある。
 ヒトの唾液腺は、大唾液腺と小唾液腺に分けられる。大唾液腺は、舌下腺、顎下腺、および耳下腺である。構造的にみると、唾液腺には、粘液性唾液を産生する粘液性部と、漿液性唾液を分泌する漿液性部がある。舌下腺と顎下腺は、粘液性部と漿液性部を持った混合線であり、耳下腺は、漿液性部から成る漿液腺である。
 唾液の分泌は、自律神経のコントロール下で行われる。唾液腺は、交感神経と副交感神経の二重支配を受けている。交感神経は、唾液腺の粘液性部を支配し、副交感神経は、漿液性部を制御している。漿液性部のうち、舌下腺と顎下腺の漿液性部は、顔面神経に含まれる副交感神経に支配され、耳下腺は、舌咽神経の副交感神経に制御される。
 私たちは、二種類の唾液を持っており、それを状況により使い分けている。水分の少ない食餌を摂取した時には、漿液性唾液が分泌されて、咀嚼を助けている。嚥下しにくい食餌を呑み込む際には、粘液性唾液が分泌されて、嚥下し易くしている。漿液性唾液と粘液性唾液の両方の性質を合わせ持った、一種類の唾液を作るより、漿液性唾液と粘液性唾液の二種類を作って、それを使い分ける方が有利だったのであろう。二種類の唾液の使い分けは、爬虫類から始まっている。

本ブログの“爬虫類の口腔腺”も参照して下さい。

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ノドボトケ

2019-12-29 | ドクター岩堀の「私設動物資料室」
 喉の正中部にある突出部であり、甲状軟骨にある、局所的な膨らみによる突出である。
 甲状軟骨は、喉頭の前壁と外側壁を支えている大きな軟骨であり、「左板」と「右板」が正中部でつながった形をしている。正中部の上端は、前方に突出して「喉頭隆起」を形成している。喉頭隆起による突出がノドボトケである。
 甲状軟骨には、舌骨や輪状軟骨などとの間を結ぶ筋が付着しているので、喉頭の動きに伴って、甲状軟骨は上下方向に動く。ノドボトケも上下方向の動きをする。
 甲状軟骨は、年齢とともに発育する。幼少期には、男女であまり差はないが、思春期になると、男性の方が女性より大きく発育する。このため、思春期になると、ノドボトケも男性の方が、女性より著明になる。
 甲状軟骨の後面には、「声帯」の前端が付着している。甲状軟骨が発育するのに伴って、声帯の長さも増大する。声帯の長さが増大するに従って、声も低音になる。これが“声変わり”である。声変わりは男女ともに起こるが、甲状軟骨の発育が男性の方が大きいので、声変わりも男性の方が著明である。
 ノドボトケとは、「喉骨(ノドボネ)」が訛ったものである。ノドボネ、ノドボネ、・・・・・・・・ノドボトケ、となった。“ホトケ様”とは何の関係もない。
 西洋では、この隆起は、「アダムのリンゴ」と呼ばれる。その昔、禁断の木の実を口にしていたアダムが、神に咎められて驚き、口にしていた木の実の半分を喉に引っかけてしまった。喉に引っかかった木の実の半分によりできた高まりが、この隆起なのである、と言伝えられてきた。



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頭頂眼

2019-12-16 | ドクター岩堀の「私設動物資料室」

 頭頂眼は、[外]側眼(左右の眼)と同様に、脳の一部が突出してできたものである。頭頂眼は、間脳の背側部が、背方に突出して形成された。
 頭頂眼の歴史は古く、[外]側眼とほぼ同じ時期に形成されたものと考えられている。最古の甲皮類の化石には、頭骨の背側正中部に、頭頂眼が入っていたと思われる「頭頂孔」が認められる。頭頂孔はデボン紀の原始魚類にも認められ、特に総鰭類には大きな頭頂孔が見られる。初期の陸棲動物にも、頭頂孔は認められ、原始両棲類や、哺乳類様爬虫類を含む初期爬虫類は、ほとんどすべてが頭頂眼を持っていた。
 デボン紀の化石には、左右に配列した頭頂孔が認められることから、最も原始的な段階では、頭頂眼は、有対で左右に配列していたものと考えられている。間脳の背側部は左右幅が狭いので、頭頂眼が発達して大きくなるに従い、左右には並びきれなくなって、前後に配列するようになった。前後に配列した頭頂眼のうち、体表に近い位置を占める方のものは、視覚器としての形態を維持しているが、体表から遠い方のものは、次第に視覚器としての形態を失い松果体となった。
 進化の過程で、頭頂眼には退化の傾向が認められ、多くの動物で、三畳紀までに、頭頂眼は消滅してしまった。魚類は早い時期に頭頂眼を失っており、現生の両棲類、ほとんどの爬虫類、すべての鳥類や哺乳類でも、頭頂眼は欠如している。現生動物では、ヤツメウナギ、およびムカシトカゲとある種のトカゲだけが頭頂眼を持っている。これらの動物の頭頂眼には、角膜、水晶体、網膜などができていて、光受容器としての形態を備えている。頭頂眼からの情報は、「頭頂神経」により間脳に伝えられている。頭頂眼が衰退したのとは対照的に、頭頂眼のもう一方の片割れである松果体は、多くの動物で残存している。
 頭頂眼の主要な目的は、上から襲ってくる敵を感知することであった、と考えられている。進化が進んで動物の動きが活発になるに従い、垂直方向からの視覚の必要性は、少なくなった。その結果、頭頂眼は次第に存在意義を失って消滅した、と云われる。
 しかし、もう少し違った見方がありうるのではないだろうか。頭頂眼の盛衰は、頭頂眼の片割れである松果体の存在を念頭に置いた上で、考えるべきである。哺乳類では、網膜で受容された光の情報の一部は、視神経 → 視床下部 → 脊髄 → 上頚神経節を経て松果体に伝えられている。松果体に伝えられる光の情報は、昼と夜の光量の差に関するものである。松果体は、視神経を介してもたらされる情報により、昼と夜でホルモンの分泌を変えている。昼間はセロトニンが多く分泌され、夜間はメラトニンが多くなる。ホルモンの分泌を変えることにより、外界の昼と夜のサイクルに体内機能を同調させ、一日のリズムを形成している。網膜からの情報の一部が、松果体に伝えられる回路ができたことにより、松果体が頭頂眼のはたらきの一部を代行している可能性がある。
 多くの動物では、頭頂眼を作るより、視神経から松果体に至る情報伝達回路を形成して、松果体を残す方が有利だったのではないだろうか。この結果、松果体は生き残り、頭頂眼は衰退の道をたどったのであろう。さらにもう一段階飛躍して、松果体にもたらされる視神経からの情報の内容より考えると、頭頂眼が得ていた外界についての情報は、上から襲ってくる敵の有無ではなく、昼と夜の光量の差だったのではないだろうか。
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口唇(クチビル)

2019-11-28 | ドクター岩堀の「私設動物資料室」
 口唇(クチビル)は、歯列を外方から覆うように伸びているヒダであり、消化器系の入り口を形成している。魚類、両棲類、爬虫類の口唇は、歯列の外方を取り巻く小さい皮膚のヒダである。哺乳類では、口唇はよく発達している。哺乳類の口唇は、「口裂」を挟んで、「上唇」と「下唇」より成り、外方は「口角」になっている。口角の外後方は「頬」に続いている。
 口唇の外面は皮膚に覆われ、内面は粘膜が覆っている。皮膚が粘膜に移行するところは、色素が少なく角化の程度も弱いため、深部の血液の色を反映して赤色を帯びた「赤色唇縁(唇紅)」となっている。動脈血の酸素飽和度が低下し、デオキシヘモグロビンの量が増えると、赤色唇縁は青紫色を呈する。この現象が、「チアノーゼ(青色症)」である。
 口唇を覆っている皮膚の表皮に多くのケラチンが沈着すると、口唇は角化して「嘴」になる。多くの鳥類では、口唇が嘴になっている。
 口唇と歯列や歯槽部との間には、「口腔前庭」という腔所があって、両者は互いに離れている。このため、口唇は制約を受けることはなく、自由に動かすことができる。口唇には、多くの筋が含まれているので、口唇は微妙な運動をすることができ、多彩なはたらきをしている。
 ヒトの口唇についてみると、そのはたらきは年令とともに変わる。生後、最も早い時期に始まるはたらきは、母乳を吸う際に、母親の乳頭に吸いつくことである。乳頭に吸いつくという機能は、離乳後になっても、ストローでジュースを飲む、などのはたらきとして残る。
 離乳すると、摂食の際に補助的なはたらきをしたり、表情を変える一環として、口唇の形を変化させたりするはたらきが主流になる。
 さらに年齢が進んで、言葉を話すようになると、発音に際しての重要なはたらきが加わる。口唇で調音される音を「唇音」と総称する。唇音には、「両唇音」 p、b、m、wと、「唇歯音」 f、vがある。口唇が正常にはたらいて初めて、唇音の発音が可能になる。

本ブログの「鳥類の嘴(くちばし)」も参照してください。


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ナメクジウオの杯状眼

2019-11-15 | ドクター岩堀の「私設動物資料室」

 杯状眼(cup eye)は、ナメクジウオの脊髄の中にある、小さい視覚器である。頭側部から尾側部まで、脊髄のほぼ全長にわたって、非常に多くの杯状眼が分布している。ナメクジウオは、体長数センチ、左右幅が1~2ミリの細長い魚の様な形態をしている。左右幅が小さいうえに、体の透明度が高いので、脊髄の中にある杯状眼にも光が届き、視覚器としてのはたらきをすることができる。
 杯状眼は、視細胞(光受容細胞)と色素細胞より構成される。視細胞は球形に近い細胞であり、細胞内に「視小管」と呼ばれる光受容装置が発達している。色素細胞は、断面でみると三日月形をした細胞で、視細胞の一部を包み込むように配列している。色素細胞は黒色の色素を持っているので、色素細胞に包まれたところでは、視細胞は光を遮断される。視細胞は、色素細胞に覆われていない方向からの光だけを受容する。
 脊髄の横断面を観察すると、黒い色素細胞を伴った杯状眼を見ることができる。視細胞と色素細胞の位置関係には、ある程度の傾向が認められる。脊髄の中央部から尾側部にかけての高さでは、脊髄の右側や腹側部にある杯状眼では、色素細胞は視細胞の背側や左側を覆い、左側にある杯状眼では腹側と左側を覆う傾向がある。従って、右側や腹側にある杯状眼は腹方や右方からの光を受容し、左側の眼では背方や右方からの光を受けていることになる。この様な視覚器で、どの様な視覚像が得られるのか、はっきりしないが、明暗の識別や、大きな陰影の認識ができる程度ではないか、と思われる。
 脊髄の中に視覚器があるのは、異様な感じがする。しかし、脊髄の中にある杯状眼により、脊椎動物の視覚器の形成過程について、1つの推論が可能になった。
 私たちの耳や鼻などの感覚器は、皮膚が主体となってつくられている。イカやタコの視覚器も、皮膚が中心になって形成される。これに対して脊椎動物の視覚器では、皮膚も関与しているが、突出してきた脳の一部が、重要な構成要素となっている。何故、視覚器の中に、脳が入り込んでいるのであろうか。この理由が、脊髄の中にあるナメクジウオの杯状眼により、推察できるのである。
 脊椎動物の遠い祖先は、水底で生活していた。その頃の動物の視細胞は、天上から射す光を受容するため、体の背側面の皮膚に広く分布していた。進化の過程で、視細胞は、次第に背側正中部の皮膚に集まってきた。原始脊椎動物の体に神経系が形成されるに際して、背側正中部の皮膚が陥凹して、神経溝が作られた。神経溝からは、神経管や神経堤が形成された。この一連の変化の過程で、背側正中部の皮膚にあった視細胞の一部は、神経管の中に取り込まれて、神経系の内部に入り込んだ。神経管の中に入り込んだ視細胞と、色素細胞が一緒になって作られたのが、ナメクジウオの杯状眼である。
 神経管の前方部は、大きく発達して、脳になった。視細胞は、次第に神経管の前方に進み、脳の中に移った。進化の過程で、脊椎動物の体は次第に大きくなり、徐々に不透明になっていった。こうなると、脳の中にある視細胞には、充分な光が届かなくなる。光を受容するために、視細胞を含んだ脳の一部は、上方と左右の前下方に向かって突出し、体表まで伸びた。上方の突出部は頭頂眼になり、前下方の突出部が中心になって、[外]側眼(左右の眼)が形成された。

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壁板(輝板、tapetum)

2019-10-31 | ドクター岩堀の「私設動物資料室」

 暗闇で光が当たると、ネコの眼は黄色く光って見える。ネコの眼球には、光を反射する構造物があるからである。眼球の中にあって、光を反射する構造物を壁板(tapetum)という。壁板は、脊椎動物や節足動物に広く分布している。
 眼球の中に入った光のすべてが、視細胞に受容されるわけではない。一部の光は、視細胞に受容されないで網膜を通過してしまう。網膜を通過した光は、色素上皮や眼球血管膜などに吸収される。受容されなかった光を網膜に戻し、もう一度視細胞に受容される機会を与えてやれば、光をもっと効率よく利用できることになる。網膜を通過した光を反射して、効率よく使うために発達してきたものが壁板である。壁板があれば、光の弱いところでも物を見ることができるようになる。壁板は、夜間に活動したり、深海や濁った水などに棲息したりしている動物など、光の乏しい環境に棲息している動物の眼に見られる。
 壁板は、構造や反射物質に基づいて、次の様に分けられる。
①構造による分類
 ❶網膜性壁板:色素上皮が厚くなり、光を反射する結晶または脂肪滴を含んでいるもので、硬骨魚類、ワニ、オポッサムなどに見られる。
 ❷細胞性壁板:色素上皮の外方に、反射性物質を含んだ多角形の内皮細胞が数層に配列したもので、代表的なものは、ネコの眼に存在している。
 ❸線維性壁板:色素上皮の外方に分布している線維により形成される壁板であり、いろいろな動物に見られるが、なかでも有蹄類に共通してみられる。
➁反射物質による分類
 ❶グアニン化合物:魚類や夜行性のキツネザルなどが持っている。
 ❷亜鉛化合物:ネコやイヌなどの肉食哺乳類に見られる。
 ❸脂肪小滴:硬骨魚類やオポッサムの壁板に代表される。
 ❹線維:有蹄類の壁板は、コラーゲンを含む線維より構成される。
 私たち脊椎動物の眼は、視細胞の光受容部が、瞳孔から入ってくる光に対して、背を向けるような配列をしたinverse eye(反転眼)である。瞳孔からの光に背を向けているということは、光受容部は、壁板の方を向いているということである。この様に配列した光受容部は、壁板からの反射光をまともに受容することができる。壁板は、反転眼にとっては、非常に効果的である。
 反転眼では、何故、光受容部が瞳孔から入ってくる光に、背を向ける様な配列になっているのか、理由は分からない。発想を転換して、反転眼の光受容部は、壁板からの反射光を、主要な光源とするように設計されたのではないか、と仮定したらどうだろうか。このような見方をすれば、反転眼の光受容部は、主要な光源の方を向いているのであって、きわめて理にかなった構造になっている。一つの可能性として、私たち脊椎動物の眼は、壁板からの反射光を主要な光源とするような設計で、作られたのかもしれない。さらにもう少し踏み込んで想像すれば、反転眼とは、瞳孔を通ってくる光のみならず、壁板で反射される光も受容し、光の弱いところでも機能できるような、性能のいい視覚器を目指して作成されたのかもしれない。
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ヤツメウナギの角膜

2019-10-16 | ドクター岩堀の「私設動物資料室」
 ヤツメウナギの角膜は、表層の皮膚層と深層の強膜層より構成される。「皮膚層」は体表を覆う皮膚の続きである。皮膚はヒダを形成したり、裂隙をつくったりすることなく、そのまま眼球の表面を覆っている。眼球の表面を覆っている皮膚が角膜の皮膚層であり、ここでは色素、血管、腺などが欠如していて、透明になっている。角膜の「強膜層」は、強膜の続きであり、他の動物の角膜に相当する。強膜層は皮膚層のすぐ内方にあるが、両者の間は離れており、「角膜眼房」と云う狭い腔所になっている。角膜眼房は、透明な液体で満たされている。
 角膜の皮膚層は、原始的な形態を残している、と云う説がある。原始的な状態では、眼球は皮下に埋没しており、眼球の外方は、皮膚に覆われていたものと思われている。ただし、眼球の表面を覆う皮膚は、色素などを失って、透明になっていた。透明になった皮膚は、埋没した眼球の角膜のすぐ外方を覆っており、強膜の続きである狭義の角膜と一緒になって、広義の角膜を形成していた。ヤツメウナギは、進化のこの段階の、皮膚と眼球の関係を残しているのではないかと考えられている。
 最も原始的な眼球は、解像力が低く、明暗の識別や、大きな対象物だけを認識できるようなものであったと推測されている。このような眼球では、皮膚は透明になって眼球の表面を覆っていても、解像力にはあまり影響がなかったのであろう。
 眼球の解像力が大きくなり、より鮮明な像を得ることが必要になってくると、眼球の表面を覆う皮膚は、視覚の妨げにもならず、眼球保護の役割も果たせるような、開閉可能な眼瞼に進化して行った。

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瞳孔

2019-10-02 | ドクター岩堀の「私設動物資料室」
 虹彩の中央部に開いた孔で、眼球に入る光の通り道である。瞳孔は、副交感神経に支配される瞳孔括約筋と、交感神経支配の瞳孔散大筋のはたらきにより、大きさが変化する。瞳孔の大きさは、眼に入る光の量や、見る物体の距離によって変わる。
 明るいところに出ると、瞳孔は小さくなり、暗いところに入ると、大きくなる。縮瞳した時の瞳孔の直径は、平均約2mmであり、散瞳したときは、平均約8mmである。散瞳した時の瞳孔の大きさは、縮瞳した時の約4倍になる。瞳孔の面積を比べてみると、散瞳した時の大きさは、縮瞳した時の約16倍である。しがって、散瞳した時は、縮瞳した時に比べ、約16倍の量の光が眼の中に入ることになる。瞳孔は、1倍から16倍までの範囲で、眼に入る光の量を変えている。
 眼底の検査を受ける際には、散瞳する作用のある薬品を点眼して、瞳孔を散大させてから検査を受ける。検査が終了して、散瞳する薬品の効果が続いている間に外に出ると、眩しくて周囲がよく見えない。この様な時に、瞳孔が眼に入る光の量を調整していることを、実感することができる。
 日常生活において、明るいところに出たり、暗い所に入ったりすると、まず瞳孔の大きさが変化して、眼に入る光の量を調節する。時間が経ってから、網膜の光受容細胞が明暗に順応して、光の量に応じた視覚が得られるようになる。光受容細胞は、非常に大きな明暗順応性を持っているが、順応するまでに時間がかかる。明暗順応は、光受容細胞が主役となって行われる。瞳孔は、前座的な役割を果たしているにすぎない。
 近くの物体を見るときには、左右の眼球が内方を向くとともに、瞳孔が小さくなる。この変化を輻輳反射と呼ぶ。この際には、瞳孔はカメラの絞りの役割をしており、小さくなることによって、焦点深度を深くするはたらきをしている。
 自律神経系に作用する薬品や、精神状態などによっても瞳孔の大きさは変化する。自律神経に作用する薬品を使用することにより、必要に応じて瞳孔の大きさを変えることができる。

参考文献
Pocock, G. & C. D. Richards: Human Physiology, Oxford
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虹彩

2019-09-13 | ドクター岩堀の「私設動物資料室」
 脊椎動物の眼球壁は、三層から成る。二層目を構成しているのは、「眼球血管膜」である。眼球血管膜は、後方から「脈絡膜」、「毛様体」および「虹彩」から成る。虹彩は、“くろめ”として、角膜を通して外から見ることができる。眼球血管膜には、多くの血管と「メラニン色素」が含まれる。
 “くろめ”の「国際解剖学用語」は「Iris」である。Irisは、“虹”を意味するギリシャ語に由来する。「日本解剖学用語」では「虹彩」であり、“虹”という字が入る。
 “虹”と云う語が使われるのは、虹彩の色が人種により異なっていて、虹の様に多彩である、と云うことに由来する。
 虹彩の色の違いは、主として分布しているメラニン色素の量による。メラニン色素の量が多いと黒くなる。私たち日本人の虹彩は、メラニン色素の量が多いため“黒色”をしている。メラニン色素の量が少なくなると“栗色”になり、さらに少なくなると“青色”になる。
 メラニン色素が完全に欠如している場合には、無色に近くなるが、虹彩に分布している血管の中を通る血液の色を反映して“赤色”になる。これがシロウサギの“赤い眼”である。

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