岩堀修明ブログ

ドクター岩堀の
「私設動物資料室」

鳥類の食道

2020-02-24 | ドクター岩堀の「私設動物資料室」

 多くの動物では、食道は咽頭から胃まで食餌を運ぶはたらきをする、管状器官である。鳥類の食道は、食餌の輸送だけではなく、嚥下した食餌を一時的に貯蔵したり、育児用のミルクを産生したり、繁殖のための「求愛コール鳴き(mating call)」の共鳴器となったりするなど、いろいろなはたらきをしている。多彩なはたらきに対応するため、食道は単なる管ではなく、「食道嚢(esophageal sac)」や「素嚢(crop)」などの局所的な拡張部がある複雑な形をしている。

             

 食道嚢は、繁殖期みられるもので、食道の上部にできる、局所的な拡張部である。多くはオスおすに見られるが、一部の鳥類ではメスにも認められる。素嚢は、食道の中央部から下部に見られる局所的に拡張部である。素嚢の大きさや形は、動物種によりいろいろである。

 

①食餌に関するはたらき

 鳥類の食道の太さは、食性により違っている。コウノトリのように大きい餌を嚥下する動物では、食餌を一時的に蓄えるはたらきもするので、食道は太い。逆にオウムやツバメなど、小さい餌を摂取する動物では、食道は細い傾向がある。

 食道の本来のはたらきは、食餌の輸送である。輸送を円滑に行うために、食道には多くの粘液線が発達していて、粘液を分泌して食餌と食道粘膜の間の摩擦を少なくしている。食餌の輸送は、蠕動運動により行われる。

 鳥類は、摂取した食餌は、すぐに嚥下して食道に送っている。食道に入った食餌をそのまま胃に送ってしまうと、胃のはたらきが撹乱されてしまう可能性がある。この様な事態になるのを避けるため、胃に内容物が充満している間は、食道に入った食餌は、一時的に食道や素嚢に留め置かれる。胃の内容物が少なくなると、食道内にある食餌は、漸次、胃に送られる。胃の活動と、食道や素嚢の動きは連動している。この連動の、ペースメーカーとしてのはたらきをしているのは、胃である。

 

➁育児に関するはたらき

 哺乳類と並んで、鳥類は育児をする。育児の方法は、動物によりさまざまである。親鳥が餌を探してきて、それをヒナに与える動物もいる。鳥類の中には、食道内や素嚢内の食餌を逆流させ、それを口から出して、ヒナに与えるものもいる。

 動物種によっては、育児期に、素嚢壁や食道壁で、育児用の「素嚢乳」や「食道乳」が作られる。素嚢乳は、素嚢壁の細胞で産生される。素嚢乳を産生している間は、素嚢壁では、血管が増えるとともに、上皮細胞が増殖する。やがて上皮細胞には、脂肪滴が出現する。脂肪を含んだ細胞は、剥げ落ちて崩壊し、集まって黄白色の素嚢乳となる。素嚢乳は、多くのたんぱく質と脂肪を含んでいるが、炭水化物は少ない。

 食道乳は、食道壁のほぼ全長に亘って分布している房状腺から分泌される。食道乳が分泌されている間は、食道上皮や房状腺の細胞が増殖しているので、食道壁は非常に厚くなっている。

 素嚢や食道で産生された乳汁は、食道を逆流し、口から吐き出す形でヒナに与えられる。

 哺乳類は、皮膚の一部が変化してできた乳腺で、育児用の乳汁を作っている。育児用の乳汁を作るにあたって、鳥類と哺乳類は、まったく別個の器官を用いている。乳汁を作る器官は違っているが、どちらの動物でも、乳汁の産生は、下垂体ホルモンのプロラクチンにより制御されている。

 

③繁殖に関するはたらき

 繁殖に関与しているのは、食道嚢である。舌を背方に挙上し、咽頭を狭めることにより、気嚢や肺から気管を通って排出される空気は、食道嚢に導入される。食道嚢に空気が入ると、内部の空気が外に漏れないように、食道嚢の上方と下方にある食道の輪走筋が収縮する。

 頚部の筋を緊張させると、頚部の皮膚は、食道嚢に密着し、食道嚢を圧迫する。この様な状態で、頚部の皮膚を振動させると、食道嚢が振動に共鳴し、それぞれの種に特有の求愛鳴きとなる。求愛鳴きが終わると、食道嚢の空気は、口から排出される。

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魚類と両棲類の口腔腺

2020-02-11 | ドクター岩堀の「私設動物資料室」
 脊椎動物は水の中で生まれ、水の中で進化してきた。魚類は、そのまま水の中での生活を続けてきたが、一部の動物は陸に上がり、陸上で生活するようになった。魚類と、陸に上がった動物である両棲類の口腔腺を比較してみると、水の中で生活している動物の口腔腺はどの様なものであり、これが陸上で生活をする動物になって、どの様に変わったかを知ることができる。

魚類の口腔腺
 魚類の口腔腺は、単細胞腺が主であり、これに少数の多細胞腺が混在している。
単細胞腺を構成する腺細胞には、粘液細胞と漿液細胞がある。腺細胞の数や分布様式は、動物種によりいろいろである。
 粘液細胞は、口腔粘膜のほぼ全域に分布しているが、口腔の後部に多く集まっている傾向がある。多くの粘液細胞が密集している所では、腺細胞のために、粘膜が肥厚している。粘液細胞の多くは単細胞腺として存在しており、多細胞性の粘液腺を作ることは稀である。
 漿液細胞は、粘液細胞よりはるかに少ない。動物によっては、漿液細胞が欠如していることもある。漿液細胞は、単細胞腺を形成していることが多いが、多細胞性の漿液腺を形成していることもある。
 
両棲類の口腔腺
 両棲類の口腔粘膜には、魚類と同様に、単細胞腺が分布しているが、この他に、多細胞腺が発達している。多細胞腺の歴史は古く、口蓋部の骨の形態から判断すると、絶滅した迷歯類にも、口蓋部に多細胞腺があったことが推測されている。
 単細胞腺は、口腔のほぼ全域にわたって分布している。
 多細胞腺は、存在する場所により次の3つに分けられる。
①上顎間腺:口蓋に開口する腺であり、両棲類の主要な口腔腺の1つである。動物によっては、左右の腺が融合して1つの腺になっていることがある。一部の有尾類では、頭部の皮膚の直下にまで広がっており、頭部の皮膚腺と混在している。分泌液にアミラーゼが認められることがある。
➁舌腺:舌の発達している動物では、よく発達しており、逆に舌の発達の悪い動物では、舌腺の発育も悪い。舌筋の間に分布している多くの小さい腺房が集まって、1つの腺を形成している。一部の動物では、分泌液にアミラーゼが含まれている。
③咽頭腺(後鼻孔腺):後鼻孔の周囲を取り囲むように配列している腺である。腺体の中央部は口蓋にあるが、外側部は鼻腔に入り込んでいる。この腺は、口腔腺と鼻腺の一部が合体してできたものである可能性がある。外側部の腺の一部は鼻腔に開口している。

水中の口腔腺から陸上の口腔腺へ
 魚類の口腔腺には、粘液線と漿液腺があり、それぞれ粘液と漿液を分泌している。この両種の液の分泌は、魚類の時代から始まっていた。両棲類になると、アミラーゼの分泌も始まっている。
魚類では、粘液線の方が漿液線より、はるかに多い。このことから見ると、魚類では、口腔腺の主要な目的は、食餌と口腔粘膜との間の摩擦を少なくすることである、と考えられる。
 魚類の口腔腺と比べると、両棲類では、漿液腺の割合が非常に多くなっている。陸棲の動物になると、口腔が乾燥するのを、防ぐ必要がある。漿液腺が著しく増加したことは、口腔の乾燥を防ぐ上で、漿液が重要な役割を果たしていることを、示唆している。
 両棲類の中には、舌を長くのばし、その先に食餌を接着して捕食するものがいる。この様な動物では、粘着性の唾液を分泌し、舌の表面に粘着性を持たせることも、口腔腺の重要なはたらきになっている。粘着性のある唾液の産生は、爬虫類のカメレオンや鳥類のキツツキなど、少数の動物に引き継がれることになる。
 両棲類になると、単細胞腺の他に多細胞腺も見られるようになる。単細胞腺と多細胞腺を比較してみると、分泌物の量は多細胞腺の方がはるかに多く、分泌腺としての機能は、多細胞腺の方が優れている。陸上で生活するようになると、口腔の乾燥などに対応するために、多くの分泌物が必要になったため、多細胞腺が出現したものと考えられる。
 多細胞性の口腔腺の起源としては、口腔粘膜に由来する固有の口腔腺である可能性と、外部から移ってきた腺に由来する、という可能性がある。
 両棲類には、構造上、魚類の多細胞腺とよく似ている腺が認められることから、一部の多細胞腺は、魚類の多細胞腺を引き継いだものであることが、示唆される。両棲類の口腔粘膜には、腺に変わりつつあるいろいろな段階の腺がみられるので、多くの多細胞腺は、口腔固有の腺で、両棲類になって初めてできた、両棲類オリジナルの口腔腺であるものと、推測される。
 両棲類の口腔の周囲には、口腔と密接に関係のある皮膚腺が存在している。これらの皮膚腺の中には、導管が口腔内に開口していたり、腺体が口腔腺の腺体と混在していたりすることがある。これらの皮膚腺の一部や、さらに鼻腺の一部などが、口腔腺に変化した可能性がある。

本ブログの、“爬虫類の口腔腺”と“鳥類の口腔腺”も参照してください。

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鳥類の口腔腺

2020-01-24 | ドクター岩堀の「私設動物資料室」
 口腔腺は、唾液を分泌する腺であり、口腔壁や一部は咽頭壁にも存在している。
 鳥類の唾液は、摂食の際のはたらきほかに、一部の動物では、越冬用の保存食を作ったり、繁殖期に巣を作ったりするはたらきもしている。
 鳥類の口腔腺は、食性により著しく異なっている。乾燥した穀類を常食としている鳥類では、よく発達しているが、水分の多い食餌を摂取している鳥類では、あまり発達していない。
 口腔腺は、存在部位により、次の3群に分けられる。動物によっては、これらの腺の一部が欠如していることがある。
①口蓋に存在する腺:上顎腺、口蓋腺、および蝶形翼状腺、
➁口角にある腺:口角腺
③口腔底に分布している腺:下顎腺、舌腺、および輪状披裂腺、
 鳥類では、爬虫類や哺乳類と同様に、粘液性唾液と漿液性唾液が分泌されている。粘液性唾液は、交感神経の制御により分泌され、食餌を嚥下する際に口腔壁との摩擦を少なくするはたらきをしている。漿液性唾液は、副交感神経の作用により分泌され、食餌に湿り気を与えるはたらきをしている。状況に応じて、この二種類の唾液を使い分けている。
 唾液は、捕食を助けるはたらきをすることがある。キツツキは、狭い隙間にいる昆虫などを、舌に接着して摂取する。食餌を接着するために、下顎腺を中心とした唾液腺から、粘着力の強い唾液が分泌される。粘着力の強い唾液の分泌は、両棲類から始まっており、爬虫類のカメレオンや、哺乳類のアリクイなどでも分泌されている。
 カケスの類は、食餌を粘液性の唾液で固めて“だんご”を作り、木の枝に刺して、越冬用の保存食にする。冬に地面が雪で覆われるときには、このだんごを食べて、生き延びる。
 鳥類は、繁殖期になると、それぞれの種に特有な巣を作る。巣作りに、唾液が使われることがある。身近な鳥では、ツバメは、土を主要な材料として、これを唾液で固めて小さなブロックを作る。このブロックを積み重ね、唾液で接着して巣を作る。東南アジアの洞窟内に棲息するアナツバメの巣は、大部分唾液により作られる。この巣は、食用にされ、中華料理の“燕窩”の食材として珍重されている。
 これら一連の営巣作業をするために、繁殖期になると、糖たんぱく質を主体とした接着力の強い唾液が分泌される。このはたらきは、下顎腺が主体となって行われる。これらの動物の下顎腺は、性ホルモンの支配を受けている。繁殖期になり、巣を作る時期になると、下顎腺は性ホルモンの作用を受けて大きく発育し、粘着力の強い唾液を大量に分泌する。繁殖期をすぎると、下顎腺は元の大きさに戻る。

本ブログの、“爬虫類の口腔腺”も参照して下さい。
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唾液腺と唾液

2020-01-10 | ドクター岩堀の「私設動物資料室」
 唾液腺は、陸棲動物でよく発達している。唾液の一義的なはたらきは、食餌の咀嚼や嚥下がスムーズに行われるように、口腔内を湿潤に保つことである。水の中で生活している動物では、口腔内が乾燥することはない。水棲動物であるクジラで、唾液腺が退化の傾向にあることは、唾液の一義的なはたらきが、口腔内を湿潤に保つことであることを、示唆している。
 私たちヒトの唾液には、粘液性唾液と漿液性唾液がある。粘液はムチンを主体とした粘性のある液体である。これに対して漿液は、アミラーゼなどのたんぱく質や無機塩類を含んだ粘性の少ない液体である。粘液性唾液は、食餌と口腔や食道の粘膜との間の摩擦を、少なくするはたらきをする。漿液性唾液は、口腔内の食餌に湿り気を与えるとともに、アミラーゼが含まれているので消化作用がある。
 ヒトの唾液腺は、大唾液腺と小唾液腺に分けられる。大唾液腺は、舌下腺、顎下腺、および耳下腺である。構造的にみると、唾液腺には、粘液性唾液を産生する粘液性部と、漿液性唾液を分泌する漿液性部がある。舌下腺と顎下腺は、粘液性部と漿液性部を持った混合線であり、耳下腺は、漿液性部から成る漿液腺である。
 唾液の分泌は、自律神経のコントロール下で行われる。唾液腺は、交感神経と副交感神経の二重支配を受けている。交感神経は、唾液腺の粘液性部を支配し、副交感神経は、漿液性部を制御している。漿液性部のうち、舌下腺と顎下腺の漿液性部は、顔面神経に含まれる副交感神経に支配され、耳下腺は、舌咽神経の副交感神経に制御される。
 私たちは、二種類の唾液を持っており、それを状況により使い分けている。水分の少ない食餌を摂取した時には、漿液性唾液が分泌されて、咀嚼を助けている。嚥下しにくい食餌を呑み込む際には、粘液性唾液が分泌されて、嚥下し易くしている。漿液性唾液と粘液性唾液の両方の性質を合わせ持った、一種類の唾液を作るより、漿液性唾液と粘液性唾液の二種類を作って、それを使い分ける方が有利だったのであろう。二種類の唾液の使い分けは、爬虫類から始まっている。

本ブログの“爬虫類の口腔腺”も参照して下さい。

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ノドボトケ

2019-12-29 | ドクター岩堀の「私設動物資料室」
 喉の正中部にある突出部であり、甲状軟骨にある、局所的な膨らみによる突出である。
 甲状軟骨は、喉頭の前壁と外側壁を支えている大きな軟骨であり、「左板」と「右板」が正中部でつながった形をしている。正中部の上端は、前方に突出して「喉頭隆起」を形成している。喉頭隆起による突出がノドボトケである。
 甲状軟骨には、舌骨や輪状軟骨などとの間を結ぶ筋が付着しているので、喉頭の動きに伴って、甲状軟骨は上下方向に動く。ノドボトケも上下方向の動きをする。
 甲状軟骨は、年齢とともに発育する。幼少期には、男女であまり差はないが、思春期になると、男性の方が女性より大きく発育する。このため、思春期になると、ノドボトケも男性の方が、女性より著明になる。
 甲状軟骨の後面には、「声帯」の前端が付着している。甲状軟骨が発育するのに伴って、声帯の長さも増大する。声帯の長さが増大するに従って、声も低音になる。これが“声変わり”である。声変わりは男女ともに起こるが、甲状軟骨の発育が男性の方が大きいので、声変わりも男性の方が著明である。
 ノドボトケとは、「喉骨(ノドボネ)」が訛ったものである。ノドボネ、ノドボネ、・・・・・・・・ノドボトケ、となった。“ホトケ様”とは何の関係もない。
 西洋では、この隆起は、「アダムのリンゴ」と呼ばれる。その昔、禁断の木の実を口にしていたアダムが、神に咎められて驚き、口にしていた木の実の半分を喉に引っかけてしまった。喉に引っかかった木の実の半分によりできた高まりが、この隆起なのである、と言伝えられてきた。



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