白洲 正子文学逍遥記

故・白洲正子様の執筆された作品を読み、その読後感と併せて能楽と能面、仏像と仏像彫刻、日本人形、日本伝統美術についてご紹介

能楽と能面-021

2012-04-07 | 日本の伝統芸能

日本の伝統芸術と芸能 

能楽と能面その21

 

 

 連日東シナ海方面から強い風が吹いております。本日は大潮の日。干潮の時間を見定めて岸壁の岩棚を横に這いながら、通常は渡れない断崖絶壁の間の砂浜目掛けて進む。下を見ると数m下に水深2m位の海の水が見える。風の穏やかな日なれば何のことは無いのですが、本日はうねりが強く、白波が岸壁を打ち付けているのです。足を滑らして落ちれば、唯では済まない。

 65も過ぎた瘋癲老人がよりにもよって、忍者のように貝欲しさに危険な行為に及ぶ。誰も見ていないから好き勝手し放題。奄美の離島の紺碧の海の上での大スペクタクル・・・・無事帰宅したもの、とうとう数時間寝込んでしまいました。・・・・採取結果は可も無く不可もなく、まあまあの結果でした。唯今、採取した貝を全て洗って選別し終えましたばかり。そこで、漸くPCに向かったというわけです。

 さて、先回は「無表情と中間表情」ということについてお話しました。

 能の曲に用いられる能面はたとえばシテに例を取ってみても、複数の能面を使い分けるということはそれほど多くありません。例えば「道成寺」などでは前シテの白拍子には曲見(しゃくみ)か深井か若女のいずれかを、後シテは般若か蛇を使います。せいぜい2面ほど。通常の曲は最後まで一面で押し通します。

しかし、その間には喜び、悲しみ、恨み・・・様々な情景が展開されております。一面でそれらを演じ分けること自体、大変な事だと思います。そうであれば詰まるところ能面の表情には集約的な表情、つまりどちらとも付かないような表情にならざるを得ないことになります。しかし、そうであっても曲見は曲見、深井には深井のきちっとした型というものが存在します。一見して曲見と判別できる型をきちっと持った面を打つということは、生半可なことでは出来るものでは有りません。

 

 古来からの伝統の型をきちっと守り、且つ、作者の個性をどこかに匂わせるなどということは、玄人以外には出来るものではありません。そして、それ一面で様々な情景を表現できるという能力・・・面の創作者の非凡な才能が無ければ、とても叶うものではないでしょう。数百年にも渡る長い時間を掛けながら、じっくりと醸成し、取捨選択され、数多くの面の累々とした死骸の中から生き残って来た、ただ一つの面・・・・それが現在能舞台に掛けられているのです。

 先般、二回に渡って江戸時代の名工「河内家重」の作、室町時代の能面師「宝来」の作の<曲見>をご紹介しましたが、どちらも甲乙付けがたい名品です。

河内 作                宝来 作

     

 解剖学的に見ると、明らかに骨格は違っております。口の切り方も微妙にちがっておりますし、毛書きの描き方、下唇の下の人中の切り方、頬の絞り方も明らかに違っております。にも拘らず、誰が見ても明らかに<曲見>です。きちっと型に嵌っているのです。この技術力は大変なものだと思います。素人でしたら型から簡単に逸脱するでしょう。名人とはこう言う者なのでしょうね。

何時も思うのですけれど、<曲見>、<深井>は娘の面に比較して、華やかさに掛けますが、より難しい面で、瘋癲老人にはどう逆立ちしても及ぶものでは有りません。昔、「氷見」という名工(僧侶という伝説もある)は死体を横において、その顔立ちを参考にしながら、「痩女」を創作したそうです。日本海の海のそばの破れ寺の草庵の中でしょうか・・・・想像しただけでも身の毛がよだちますね。

                痩女

 

記の面は「天下一近江」作の<痩女>です。結構、この面は作例が多く・・・如何してなんでしょうね?・・・・まだまだ綺麗な醜悪さのない面です。次回にこの他の面の作例を紹介しましょう。 「近江」に付いても同時に

 

 

 

 それでは、本日も最後に林原美術館蔵の能面をご覧ください。この面は備前岡山藩31万石の藩主池田氏の所蔵していた面です。本日は<般若>です。

女が嫉妬の末。獣性を帯びていく表現に相応しい面の代表作です。 「中成」とも言うのは先般ご紹介したとおり。 室町時代に出た「般若坊」という作者の創作面からこの名前が付いたもので、これも結構作例が非常に多いものです。素人の方も多く打たれますね。

獣性の中に女の悲しみを表現できるのは玄人とのみ。 毛書きは明らかに女を表しています。面の裏には「天下一 河内」の焼印が押されて居りますそうで。 でも、この手の面は打ちたくありませんね。毎晩うなされること間違いなし・・・挙句の果てに病気にでもされたらたまらない!

若い女の方が良いに決まってる。 「般若」は瘋癲老人の好みに合いません。

般若」・・天下一 河内 作

          

 

 

 まあその様な訳で、本日はお開きと致します。次回も有名な能面集の中の掲載能面も引き続いてご紹介致します。

 

                       加計呂麻島在住   瘋癲老人 

 

 

 

姉妹ブログのご案内

1-サワラチャンのビーチ・コーミング  

    http://sawarachan.seesaa.net/?1323474267 

      http://blog.goo.ne.jp/sawarachan    新規登場! 

2-奄美ちゃんの加計呂麻島日記
   http://ritounikki.amamin.jp/
 

3ー奄美群島 離島移住記
   http://ameblo.jp/a013326

 白洲正子著作集・読書日記 

  http://shirasumasako.blog.fc2.com/ 新規登場!