虫干し映画MEMO

映画と本の備忘録みたいなものです
映画も本もクラシックが多いです

お菓子放浪記/西村滋

2005年08月03日 | 
講談社BOOK倶楽部 お菓子放浪記

 前に中学校の読書感想文課題図書にもなったので、たいていの図書館においてある本ですが、昨日たまたま本屋で平積みになっていた文庫を見つけたので買ってきました。

 戦争へと向かっていく日本の社会の中でたった一人で生きる子どもが、甘いもの-お菓子-への思いを支えに、過酷な現実の中を生きぬく物語。
 講談社のサイトでは「酷くて哀しい物語なのに、何故こんなにユーモラスなのだろう」と紹介文にありますが、ユーモラスよりも哀しい話です。「巧い」小説という感触はありません。読んでいて結構ごつごつあたる部分が多くて、自伝的なところもも多いらしい、書く側の気迫とか、思いの強さに身体のどこかをぎゅっとつかまれるような気がする本です。

 菓子パン、金平糖、お汁粉…時局が時局だけに、甘いものは貴重品で、主人公シゲルが出会うお菓子はほんのわずか。エクレアなどはとうとう実物は一回も登場しない幻の憧れのお菓子。また、代用食のお菓子もどき。そして、それぞれに切なかったり辛かったりの思いが痛烈にまとわりつきます。それはまた、それにまつわる人間との関係の反映です。
 戦中戦後の苛烈な時期だけに、人間性がもろに露呈されるのですが、一番の悪役「ホワイトサタン」をはじめとして、皆自分を肯定する理屈を持っています。でも、その中でシゲルはごまかしのない「本物」であろうともがきます。「本物」の優しさで接してくれた人にこたえるために。
 著者あとがきの中で、これだけの願望の持てる生活がうらやましい、と感想を書いてきた人がいるとありましたが、私はぞっとします。この有様から今の状態まで来られて本当に良かった、と痛切に思います。

 老人も女もこどももふくめて、上野駅をふくれあがらせている浮浪者のむれ。
 それはなんと言ったらいいのか……ある「豊穣」の景色でした、戦争が栽培した悲惨の、たわわな実り……。見事な豊作でした。
 
 中略

 その(侵略戦争)ために殺されていった多くの人びと。私だけのつながりでいうなら、遠山さん、原爆でやられた富永先生、首をくくった歌章もそうです。仙吉や秋彦だって、結局軍国主義に殺されたのだといえるでしょう。
 それなら、生き残った人々はどうなのだろう。
 生き残った人びとは、生き残ったことを罰せられてでもいるように、恥多いくらしにまみれているのです。

 (本書374~375ページ)

 この本を買ったのは、「亡国のイージス」を見て、BSで「拝啓天皇陛下様」を見て、まあ、いろいろ考えるところがあって手が伸びたのでしょうが、自分の理屈が借り物でないかどうか、耳に快いものだけ選択していないか、考えるためにも良い本だと思います。

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