虫干し映画MEMO

映画と本の備忘録みたいなものです
映画も本もクラシックが多いです

男装 (1935/アメリカ)

2005年08月28日 | 映画感想た行
SYLVIA SCARLETT
監督: ジョージ・キューカー
出演: キャサリン・ヘプバーン
    ケイリー・グラント
    エドマンド・グウェン

 父が会社の金を博奕に使い込み、母は病死。故郷マルセイユを後にし、父の祖国イギリスへ官憲の追跡を逃れるため男装して渡るシルヴィア転じてシルヴェスター・スカーレット。 船の中で、親子はハンサムな男と知り合いになるが…

 興行的にはこけた映画だそうです。なんとなくわかる。今でこそ、あのヘプバーンの初々しい少年の姿が、その声が見ていてキャアキャア言っちゃうようなものだけれど、当時はヒット作もない主演女優に、主演がどうもクーパーに隠れがちだったグラントでやっぱり弱いかも。それにすっきり爽やかというより、苦味を残してる結末。途中もまるで舞台劇のように感じられるやり取りが続いたり、華やかな映画ではない。
 サイレント時代からのスター女優のふっくらした柔らかそうな頬と唇、パッチリした瞳を見慣れると、このキャサリン・ヘプバーンのいささか骨ばった頬と大きな口はやはり異質なものかもしれない。でも、髪をばっさりと切ったその男装姿はとってもキュート。結局ロマンスものだけれど、ファーストシーンでの冴えない娘より、ひらりと柵を超えたり、胸を張って闊歩する少年スタイルは誠に颯爽としてドレス着てるよりもキュート。あまり女の肉体を強調しない細い少女姿もまあいいけど、美少年というのは男にとっても女にとっても、特殊な存在なのかなと思わせる何かがプラスされるようだ。
 出てくる男は程度の差はあっても、父親もふくめてしょうもない男たちばかりだけれど、それに絶望もせずフォローしながらついて歩く道徳軸の正常な娘を演じている。
 ケイリー・グラントは、苦労するヤツは馬鹿だと思ってる見た目のいい詐欺師。ボードビル仕込らしい軽やかな踊りや歌やピアノまで見せてくれるし、まだ一途で物慣れない少女と恋愛遊戯の刺激を求める女性に対し、その処し方がなかなか粋に感じるラスト。悪い男をさほどの嫌悪感無しで見られる。
 さすがはジョージ・キューカー監督で、キャサリン・ヘプバーンが可愛い。それにケイリー・グラントの明暗のバランスを微妙にブレンドできる独自の持ち味が発揮されてたんだなあ、と思った映画。

 この邦題も、もうちょっと考えられなかったのかな。もっと含みのある、それだけで作品といいたくなるような邦題もいっぱいあるのに、ちょっとストレートに過ぎるようにも思う。