二草庵摘録

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倉本一宏「藤原氏 ―権力中枢の一族」(中公新書 2017年刊)レビュー

2019年08月22日 | 歴史・民俗・人類学
中公新書は昔から、日本の歴史、世界の歴史では定評があった・・・とわたしは記憶している。最近では岩波やちくまにお株を奪われてしまったかな? そんなこともないだろうと、この一冊を読みおえて、健闘をたたえたくなった(^^)/~~~

巻末に参考文献一覧があるが、そこをふくめ全297ページ。
著者の長年にわたる研究成果が盛り込まれているのだろう、なかなか読み応えがあった。
ここで<目次>を掲げておく。

序 章 鎌足の「功業」と藤原氏の成立
第一章 不比等の覇権と律令体制
第二章 奈良朝の政変劇
第三章 藤原北家と政権抗争
第四章 摂関政治の時代
第五章 摂関家の成立と院政
第六章  武家政権の成立と五摂家の分立
おわりに 日本史と藤原氏

お読み終えてみると、倉本さんはこのおしまいの「日本史と藤原氏」を書きたくて第一章から六章までを縷々つづってきたのかなあ、と思えぬでもない。
藤原一族は、系族すべてをふくめると日本の最大勢力で、談山神社「談(かたらひ)の会」が発行する「藤原氏族一覧」によれば、3452の名字が記載されているそうである。
なんと3452の苗字ですぞ!

後藤、須藤、武藤その他、藤がつく名字はほとんど藤原が起源。
後の時代に付会された系譜もあるようだが、五摂家といわれる“名家”を筆頭に、この一族系統樹は、平成・・・いや令和の現代にまでつながっている。

《鎌足死去、大織冠・内大臣・藤原姓を賜わる》
これが大化八年(天智8年)、西暦でいえば、669年の出来事。以来1350年ほどたっている。
天皇家以外では、これほどの名族はほかにはいない。
近代になってからは、西園寺公望、近衛文麿、細川護熙(母は近衛文麿の次女)等が歴史の表舞台に登場している。
貴族、あるいは華族といえば、過半が、父方または母方で藤原氏の血をひいているのだ。
だから「権力中枢の一族」というわけだ。

《「大化改新」で功績を残したとされる鎌足に始まる藤原氏。
律令国家を完成させた不比等から四家の分立、ミウチ関係を梃子に天皇家と一体化した摂関時代まで権力中枢を占めつづける。
中世の武家社会を迎えても五摂家はじめ諸家は枢要な地位を占め、その末裔は近代以降も活躍した。
本書は古代国家の成立過程から院政期、そして中世に至る藤原氏千年の動きをたどる。権力をいかにして掴み、後世まで伝えていったかを描く。》(本書データベースより引用、ただし改行を加えた)

藤原氏は、葛城氏、蘇我氏のあとをうけて、天皇またはその周辺の有力皇族と姻戚関係をむすぶことで、律令国家の権力を独占した。
考えてみれば、唐の制度をまねただけにみえる律令国家そのものすら、藤原不比等の発明品なのかもしれない。
しかし、その中枢を長年にわたって牛耳っていくためには、血なまぐさい権力闘争を、幾度となく潜り抜けている。

親子、兄弟、従弟が、権力や高位の地位を手に入れるために抗争する。
本書はその抗争の歴史をつづったものである。
人間は権力を欲するし、子孫繁栄を願うもの。その実態を、これほどリアルに、露骨に指し示すケースは稀である。
「政治にかかわるとはそういうことだ。甘い理想などいだいてはいけない」と、わたしはあらためて痛感せざるを得なかった。
話し合いで決着がつかなければ、武力闘争や暗殺も辞さない。でっちあげ事件で政敵を葬り去ることなど、朝飯前である。

歴史とは勝者の物語であり、勝者の履歴書なのである。のちに無実が判明する奈良時代の長屋王とその一族の殲滅は、だれが仕掛けたワナなのだろう?
権力抗争という名の殺し合い。
古代や中世では、一族を率いる指導者層ばかりでなく、多くの場合女子どもまで殺された(^^;)
戦後民主主義によるこの約80年にもおよぶ平和が、あたりまえだと思ってはならない。パックストクガワーナ(徳川氏による平和)も長かったが―。

いまさらいうまでもなく近代は、いや20世紀は・・・世界規模で見て戦争の世紀ということができる。“革命”という美名のもとに、数千万人もの無辜のいのちを奪ったのも、この世紀。
日本には英国でいうところの貴族層は存在しないといわれる。しかし、政治やスポーツの世界をロングショットで眺めてみると、近年二世、三世の活躍が目立つようになってきた。
これは新貴族の誕生なのか、とわたしはつい考えてしまう。

鎌倉期になって、権力の中枢からはやや遠ざかるとはいえ、藤原氏の主流が1350年にわたって、皇室とともに繁栄してきた歴史が明かす真実(ノ_-)。
ある意味、系図というものが主役なのだ。だれとだれが、血統の上でどんな関係にあるのか?
本書は系図が持っている普遍的な真実を雄弁に物語る。
ただし、あくまで藤原氏中心の記述となっているので、1350年の通史に対するある程度の知識が必要になる。
そういう知識があれば、本書は非常におもしろく読める。



評価:☆☆☆☆

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