二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

坂上康俊「平城京の時代」(シリーズ日本古代史④ 岩波新書 2011年刊)レビュー

2019年08月30日 | 歴史・民俗・人類学
このシリーズは①から順に読んできた。
坂上康俊先生は東大卒、九州大学大学院教授。専攻は「奈良・平安時代史」だそうである。1955年生まれなので、わたしよりは若干お若い。
盛りだくさんな内容が非常にコンパクトにまとめられ、はちきれんばかりの充実の一冊となった。

本書の中に、ご自身の論文をたくさん引用されている。「奈良・平安時代史」研究では名を知られた先生なのであろうが、坂上さんの本は、わたしははじめて読ませていただく(+o+)
叙述の中心は8世紀。
天皇の御代でいえば第42代文武天皇即位から代50代桓武天皇即位まで、である。
お手本が当時の先進文化であった唐にあり、文字表記を学んだだけでなく、衣食住や社会組織、都市計画、建築技術、中央政府による支配・被支配のありかたなど、ありとあらゆるものを模倣している。
明治という時代は、もしかしたらこの平城京の時代の再現なのかと思えるほど、文化も思想も、行政の手法も「外から」やってきたのだ。

目次を引用すると、

第一章 律令国家の成立
第二章 国家と社会の仕組み
第三章 平安遷都
第四章 聖武天皇と仏教
第五章 古代社会の黄昏

これに対し、はじめに
「平城京の時代はどう見られていたか」、
おわりに「平城京の時代をどう見るべきか」

というプロローグ、エピローグが置かれてある。
専門的というか、アカデミックなにおいがかなり強く、引用される古い時代の文献は現代語訳ではなく、原則原文の書き下し。
つまり一定の基礎知識を持っている読者を想定した内容となっているということだ。したがって、初級者向けではなく、本書は中級者向け・・・だとわたしには思えた。

専門の研究者なので、叙述は手堅く、素人の読者が「ん?」と疑問を抱いたり、反論したりする余地はまったくない。
言及される項目は多岐にわたり、専門家としての“研究成果”がたっぷりつめ込まれている。他のジャンルの場合でも同じようんなことがいえるだろうが、専門がより細分化され、俗にいう「重箱の隅をつつくような」記述も目立つ。

ジグソーパズルのピースがどんどん小さくなっている。
「そんな研究をして、何がおもしろいのだろう?」と思わぬでもないが、これはしかし、否応なしにデジカメの画素数が、IT技術の進展により、高精細なものになっていくのと、ある意味軌を一にしていのるのである・・・とわたしには思える(*・д・)
昔は120万200万画素でもよろこんでつかったが、現在は2000万画素があたりまえになり、得られる像はよりクリアで、あきらかにリアリティが増している。

本書でわたしがもっとも感心したのは、平城京の時代における、地方の行政組織の研究がすすんだこと。蝦夷や隼人といったまつろわぬ者への対策、律令や戸籍、軍団など制度上の変遷史、都の推移や都市の実情、仏教の隆盛、財政状況、共同体の変質といったいわば内政面に多くのページがついやされているのだ。

奈良時代は、仏教が興隆し、仏教文化が盛大に花開いた、わが国古代社会の頂点である、という認識がわたしにはあった。

《夫(そ)れ天下の富をたもつ者は朕なり。天下の勢(いきおい)をたもつ者は朕なり。この富と勢とをもってこの尊き像を造らむ。》(引用された聖武天皇の詔書、159ページ)

東大寺大盧舎那仏像、そして国分寺国分尼寺の創建はこの時代のイメージを、後世に決定づけた。聖武天皇が、権威と権力、二つながらかね備えた帝王として貴族層(旧豪族)のみならず、国土の広い範囲に君臨し、まさに“天皇の国”が誕生したのである。
それを巨細にわたって見届けたあと、坂上さんはこう述べている。

《豪族連合として成立したヤマト政権は、ここにようやく権威の源泉の、心性の深部に達するまでの一元化を成し遂げたのである。》(222ページ)

それがすなわち天皇を頂点にした“律令国家”の成立ということなのだ。

昭和から平成へ、平成から令和へ。
こういう時代の変遷のたびに、天皇や皇室の人たちの近況やニュースがTV、新聞等を通じて流される。
「うーん、おれ(わたし)はこういう国に生まれたのか」と、多数の人たちが思うだろう。右翼や左翼など、ほんとうは問題ではないのである。
天皇家には苗字はないし、天皇は無答責者である。仮に人殺しをしたとしても、その責任を問うことはできない。
天皇制が残ることを前提にしていなかったら、“あのとき、あのタイミングで”日本は英米に降伏することはなかったのだ(半藤一利「日本のいちばん長い日」を参照)。

驚くほど多岐にわたる項目がこの一冊にぎっしりつめ込まれているため、ととと、と駆け足になってしまってわかりにくい部分がないとはいえないが、そのあたりはほかの本に頼りながら、納得できるまで検証することにしよう(^^;)
ある程度の批判や反対意見もあろうが、大筋においてこれが現代歴史学の成果・・・新書という本の性格からして、卓越した見識をしめすものであることを、わたし確信する。



(第3巻と第5巻)


評価:☆☆☆☆☆


■参考資料
※歴代天皇一覧はこちら(Wikipedia)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A9%E7%9A%87%E3%81%AE%E4%B8%80%E8%A6%A7
※天皇系図(宮内庁)
http://www.kunaicho.go.jp/about/kosei/keizu.html

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