二草庵摘録

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「アレント入門」中山元(ちくま新書)レビュー

2018年08月30日 | エッセイ(国内)
  (レビューはパスしようと考えたけど、心覚えのため書いてUPしておこう)


ハンナ・アレント、あるいはハンナ・アーレント。
このあいだ主著のひとつ「人間の条件」(ちくま文庫)を買ったので、手許にある。
日本の言論界、とくに社会学者等にかなりな影響力をもっていることがわかったため、本書で少しお勉強しようと考えて買ってきた。

木田元さんではなく、中山元さん。
哲学者であり、翻訳家でもある。中山元さんは、光文社古典新訳文庫で、難解で有名なカント「純粋理性批判」やハイデガー「存在と時間」その他の翻訳家、祖述者として、お名前を知っていた。
アレント本としては、ほかに、

1.矢野久美子『ハンナ・アーレント- 「戦争の世紀」を生きた政治哲学者』 (中公新書)  39件のカスタマーレビュー
2.仲正昌樹「今こそアーレントを読み返す」(講談社現代新書) 26件のカスタマーレビュー
3.仲正昌樹「悪と全体主義 ハンナ・アーレントから考える」(NHK出版新書) 7件のカスタマーレビュー

(参考.中山元「アレント入門」(ちくま新書) 2件のカスタマーレビュー)

など、めぼしいもので5-6種類の入門書、ガイドブックがある。仲正さんの2も手許にあるが、中山元さんのこの本からさきに読むことになった。
ニーチェあたりでは入門書、解説書が掃いてすてるほど存在する。しかし、アレントは哲学界のいわば“ニューフェース”だからこの程度しかないともいえる。

アレントはドイツ系ユダヤ人として生まれ、ハイデッガーの弟子、同時に愛人であった。
主著としてほかに「イェルサレムのアイヒマン――悪の陳腐さについての報告」「全体主義の起源」などがある。

現代における善と悪、正義とは?
・・・とかんがえたとき、アレントという哲学者を素通りすることはできないだろう、そう思って、“入門”してみることにしたのだ。

だが、中山さんって、やっぱり書斎の研究者だと痛感。
光文社の古典新訳文庫は、巻末に付せられた長大な解説文で名を馳せた。
ベストセラーとなった「カラマーゾフの兄弟」(亀山郁夫訳)あたりが一番の見本。わたしはあれを読んでいるうちに2巻か3巻で草臥れてしまって、本文にはたどり着けなかった(笑)。あきらかに情報過多である。
わたしは「カラマーゾフの兄弟」は二度読んでいるが、つぎに読み返すときも、新潮文庫の原卓也訳となるだろう。

本書は訳書における中山元さんの長めの解説が、そのまま一冊となったようなものと想像すればよい。
最後のページまで読みおえたので、決してつまらなくはなかったが、瞠目すべき内容の本でもなかった。
参考までに、目次を掲げてみよう。

序章 インタビュー『何が残った? 母語が残った』とアレント
1章 国民のヒトラー幻想
2章 公的な領域の意味と市民 「『人間の条件』を読む」
3章 悪の凡庸さ 「『イェルサレムのアイヒマン』を読む」
4章 悪の道徳的な考察

決まって引き合いに出され批判の的となるのは、ヒトラーの第三帝国ドイツ、スターリン独裁下のソ連の社会と政治、それらがいかに非人間的、反人間的なものでっあったかというものだが・・・本書の内容もそういった図式を踏襲し、新鮮味はまったくない。
これなら佐藤優さんあたりの考察の方が、はるかにヴィヴィッド、読者が身につまされること必定といわざるをえない。

核心は、わたし的には「イェルサレムのアイヒマン」、これに尽きる。
というのも、わたしは“悪人”“悪党”という人間を、現に知っているからである。
彼らは悪人にはまったく見えなかった。詐欺師もそうである。
悪人も詐欺師も、普通に善人の顔をし、善人としてふるまうから、被害者は「えっ!? なんで。あいつがそんなことをするなんて」と、事後、人びとは驚きを隠すことができない。

大量殺人を犯すようなサイコパスも、一見、平凡な市民・住民と、区別がつかないのである。
人間とはそういう存在でありうる。まんまと殺されたり、騙されたりしたあとで、その恐るべき真実に気がつく。
アレントが展開してみせた考察がこれだけのものなら、ドストエフスキーがしめした洞察力に、はるかにおよばない・・・といわざるをえなかった。
入門書としてはこれでいいのかも知れないが、「中山元さん、書斎の人の立場から、あと一歩、二歩踏み込んだことばが欲しかった」という物足りなさが残った。



アレントについては、仲正さんのものも読んでみようと考えている。
それとも「人間の条件」をズバリ読んだ方が理解がはやい、かしら(=_=)


※ カスタマーレビューとは、amazonにおけるレビューのこと。

評価:☆☆☆

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