二草庵摘録

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本郷和人「承久の乱 日本史のターニングポイント」(文春新書2019年刊)レビュー

2019年10月12日 | 歴史・民俗・人類学
本郷和人さんは、東大史料編纂所教授だそうであるが、なかなかジャーナリスティックなセンスに富んでいるとお見受けした。あきらかに聴衆、いや視聴者または読者を意識した書き方がなされているのだ。
文体はですます調を採用している。しゃべりことばに近いから、とっつきやすい。
「鎌倉時代なんて、教科書に書いてあったことしか知らないし、特別興味ないなあ」という読者に対し、ハードルを下げる必要を感じたのだろう。

論旨は単純化してあり、いたって明快! 東大史料編纂所教授って、いわゆる“白い巨塔”の住人かと思っていたが、そうではない。
調べてみたら、

■坂井孝一「承久の乱」中公新書 2018年12月9日刊
■本郷和人「承久の乱」文春新書 2019年1月18日刊

であった。こういう企画が同時並行ですすんでいたとは、めずらしい現象である。
わたしが坂井孝一さんの「承久の乱」中公新書を読んで感想をUPしたのは、今年7月19日。
https://blog.goo.ne.jp/nikonhp/e/71f39aedcaceb049ff1f88325509db05

なぜ似たような本をつづけて読むことになったかというと、BOOK OFFの100円+税の棚に本書があったから。
買うとまず、まえがき、あとがきを読むクセがある。それによって、優先順位、すなわちどういう順番で読むかが決まるのだ(*^o^)

本書の内容紹介につぎのような一節があるので、引用させていただこう。
《日本史ブームの中、第一人者による決定版の登場です。

主な内容
・鎌倉幕府の正体は「頼朝とその仲間たち」
・まったく異質だった武士の殺生観
・上皇の絶大な経済力
・北条氏よりも優遇された比企氏、平賀氏
・なぜ源氏将軍は三代で絶えたのか?
・血で血を洗う闘争に勝ち残った北条義時
・武士の切り崩しに成功した後鳥羽上皇
・実朝暗殺の“仕掛け人”は?
・戦いの本質は「在地領主vs.朝廷支配」だった》(amazonより)

本郷さんは、北条義時を「東国の王」といっている。
なぜ「承久の乱」に注目が集まるかというと、この乱を中世史の画期ととらえている歴史家が多いことを物語っているからだ。
本書では頼朝の“幕府”(正確にはまだ幕府とはいえない)が成立から解き起し、承久の乱にいたる経過をごくあっさり叙述している。

もくじを書き写しておくと、

第一章 「鎌倉幕府」とはどんな政権なのか
第二章 北条時政の“将軍殺し”
第三章 稀代のカリスマ後鳥羽上皇の登場
第四章 義時、鎌倉の「王」となる
第五章 後鳥羽上皇の軍拡政策
第六章 実朝暗殺事件
第七章 乱、起こる
第八章 後鳥羽上皇の敗因
第九章 承久の乱がもたらしたもの

そんなことも知らなかったのかねといわれそうだが、「承久の乱」は、官軍が敗れた唯一の戦乱だそうである。文武に秀でた後鳥羽天皇・上皇は、歴代天皇のなかでもトップクラスの才能をもった最高権力者であった。しかし、それが同時に、時代の潮流を“上から”しか見られなかった情勢分析のあやまりにつながったのだ。
後鳥羽院ほか、3名の天皇経験者、上皇を流罪に処するとは、思い切った処断である。
このため、北条義時は明治憲法下では大罪人扱い、国民の人気もなかった。

おもしろかったのは、乱の勃発に際し逡巡する義時の背中を押し、積極策に出るべきと進言したのが、京から下向し、鎌倉に仕えていた下級文人貴族であったという事実!
本郷さんは、鎌倉幕府の創業者はこの義時であると指摘している。父時政も稀代の陰謀家であったが、義時はそれ以上に冷徹で峻厳な政治家であった。
また戦乱、戦(いくさ)に対する見方が、本書ではとてもリアル(ノ_σ) 権威や既得権がものをいう公家の時代が終り、実力主義の武家の時代が、「承久の乱」によって幕を開ける。
そのあたりの見極めがうまく整理され、読後本書の印象は鮮やかである。
すっきり明快なのは、やや図式的、単純化してものごとを割り切ってみせた結果だろう。

やたら但し書きやら留保をつけたがる筆者・研究者が多いなかにあって、本郷さんのこの単純・明快さは現代の読者を十分意識したものになっている。
つまり、たいした予備知識がなくても、この時代の権力闘争がどんなものであり、その結果、どういう社会的変動があったかを、わかりやすく解説してくれている、ということである。


評価:☆☆☆☆

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