GREEN NOTE

ワイルドグリーンディスカス中心のアクアリウムブログです

山で出会った青年(中編)

2019年10月07日 | 登山

前回記事からの続きです

流血している彼を見てさすがに驚きましたが、以外にも自分の口からは冷静な言葉が出ました。
「骨折はしてないですか?」
「大丈夫です。」
「外から見ると顔が血だらけだよ。まず、綺麗に水で洗って消毒しないと。血は止まってる
みたいだけど…救急用品は持ってる?」
「持ってます。大丈夫、自分でやれます」
「わかった。今、談話室は人が大勢いるから騒がれたくなかったら入らない方がいい。
玄関入ったら通路をまっすぐ、突き当りを右に行けば炊事場があるから。
山水だから、洗った後はしっかり消毒してね」
「ありがとうございます。顔洗って食事してきます」
そう言って会釈すると彼は山荘の中に消えて行きました。


その後もしばらく一人ウィスキーを飲みながら、星空を眺めていると、再び彼が出てきました。
血は綺麗になりましたが、顔や腕は痛々しい擦り傷がついています。
とても絆創膏で隠せるような傷ではありません。
以後、彼のことを便宜上K君と書きます。本名とは何の関係まなく、庚申山から取ったK君です。

「先ほどはありがとうございました。」
「大怪我も無く自力下山できて良かったね。」
その後、しばらく彼と話し込みました。
どうやら明日皇海山クラシックルートに挑戦する前哨戦として、夕方に庚申山のお山巡りコースに
入っていたようです。
上の写真がお山巡りコースの案内図で、私も以前に行ったことがありますが
その牧歌的でふんわりしたコース名とは裏腹に岩をくぐったり鎖場や梯子が連続する、
なかなかチャレンジングなルートで、入り口の看板には初心者が入らないよう注意を促す
一文があります。
このお山巡りコースを抜け庚申山登山ルートと合流し下った後、急斜面をトラバースする
足場の細い道でK君は足を滑らせたようです。
滑落は急斜面の途中で止まり、散乱したザックやヘッドランプを拾い集め登山道まで這い上がった
とのことでした。
この時のK君の人懐っこくも、滑落を大げさに誇張して武勇伝に興奮するわけでもない、自己を
反省しながら礼節をわきまえて話す姿勢…掴みどころが無い感覚に、不思議と
人としての魅力みたいなものを感じ、引き込まれました。
ひとしきり話し、遅くならないうちにお互いの寝床に戻って就寝です。


翌朝、日の出と共に活動を開始し、朝食を作って支度を整えます。シュラフや大型ザックなど
不要な物は山小屋にデポジットして、最小限の軽量装備でこれからの長い難ルートに備えます。
小屋を出て庚申登山口に差し掛かる前、振り向くとK君が玄関から出てくるのが見えました。
これから身支度して下山するんだろうなと、この時は勝手にそう思っていました。
その後庚申山を登り、危険な鋸山を抜け、長い緊張の連続ですっかりK君の事は頭から離れて
いました。
彼の事を思い出したのは皇海山に登頂し、バーナーで湯を沸かして昼食のラーメンを作って
いた時。
そういえばK君は無事に銀山平まで降りたかな?
無事とは言え、もし自分が前日滑落したらこのルートは精神的に無理だろうな。
またいつか、何処かの山で会いそうな気がする。


群馬県側からの登山者で賑わう山頂。
そんなとりとめもない事を考えながら食事をしていると、なんと山頂にK君が登ってきました。
私に気づくと手を振りながら「結局、登って来ちゃいました」
しっかりした足取りで中型ザックを担ぎ、あの長い難ルートを抜けて来たとは思えない
屈託のない笑顔で、突然にK君は現れました。

つづく

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山で出会った青年(前編)

2019年09月25日 | 登山

彼と出会ったのは去年の9月。
数ある栃木県の登山ルートでも屈指の難関ルートとされる銀山平~庚申山~鋸山~皇海山に
初挑戦した時のことです。
皇海山自体は深田久弥著書の日本百名山に挙げられていますが、群馬側から登ると危険箇所も無く
短時間で登頂できる上に山頂は樹林に囲まれて展望も無いという…
そのせいか日本一地味な百名山などとも言われていますが、クラシックルートと呼ばれる栃木側の
銀山平から登るとその様相は一変します。
栃木ルートの核心部は皇海山本体にあらず。その手前の鋸山にあります。
鋸山の前後は脆い岩場の急登あり、足を踏み外したら転落するヤセ尾根あり、垂直に近い崖を
長々と降りる鎖場ありの難所が続き、今年の初夏は滑落事故や道迷い遭難、行方不明が
相次いで起こりました。
おまけに帰りのルートにある六林班峠は背丈まで繁る熊笹に覆われルートも不明瞭なため、
ある程度のルートファインディング技術も必要となり、長い、辛い、危ないの三拍子揃った
栃木のラスボス感溢れるハードコース。
ちなみに、前記事で幻覚を見たというのはここではなく、黒岩山という奥鬼怒方面の山です


危険度もさることながら、コース距離と行動時間が長いため、多くの登山者がコースの前哨基地とも
言うべき庚申山荘に一泊します。自分もそれに習って一泊。
庚申山荘は基本無人の山小屋ですが、管理は銀山平の国民宿舎かじか荘で、週末などときおり
管理人さんが居たり居なかったり…水場、炊事場、バイオトイレもあってなかなか快適です。


庚申山荘には午後3時頃到着、シュラフとマット敷いて寝床を確保。
他の登山者と自炊の夕飯を食べながら情報交換したり、歓談したり。
すっかり夜になって、階段脇のテラスでスキットルのウィスキーをチビチビ飲みながら星空を眺めて
夜の山の雰囲気に浸っていました。
すると夜8時頃でしょうか、山荘の裏手にある庚申山の中腹あたりに光が揺れているのに
気がつきました。
光は高度を下げながらこちらに向かっているようで、どうやら下山者のようです。
こんな時間に下りてくるなんて、道迷いか何かのトラブルか…
新月に近い月明かりの無い晩で、山小屋には電気も無い漆黒の闇です。
山小屋を見過ごして更に下ってしまったら大変、手元のヘッドランプを下山者のいる方角に向け
照射と点滅を繰り返してこちらの場所を伝えます。
やがて揺れる光が急速にこちらに向かって来ると、下山者が正面階段を上って現れました。
ヘッドライトに浮かんだその容貌を見て、思わず「あっ…」と驚きの声を上げてしまいました。
その顔は30歳前後くらいの人懐っとそうな好青年に見えましたが、額からからは血が流れ
Tシャツも血で赤く染まっています。
頬や腕も激しく擦り剥き、凝固した血がこびり付いて泥だらけです。
山小屋に到着し私の姿を見て安心したのか、彼は安堵の笑顔になってこう言いました。

「滑落しちゃいました…」

  つづく

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見えてはいけないモノが見えた日

2019年09月19日 | 登山

久しぶりの更新となります。
ブログ更新は滞っていましたが、登山活動はずっと続けています…と言いますか
どんどん深くハードな山行にのめり込んでいる今日この頃です。


最近は山小屋泊の縦走だけでなく、連休はテントを背負って北アルプスに数日入り込んだりも
するようになりました。


3000メートル峰、岩場、鎖場、梯子の連続といったように高度難易度が上がれば必然的に
リスクも上がって行きます。
リスク低減のためジムにも通い続け、心肺機能と筋力の向上維持に努め、食生活にも気を使い…
ここ数年で我ながらストイックな生活習慣が身につきました(笑


そうそう、リスク低減と言えば山岳保険とヘリの遭難捜索サービスにも加入しました。
山岳事故で私に万が一の事があっても普通の障害保険は適用されません。
ヘリコプターでの捜索、救助、最悪の場合は遺体搬送とかなりの金額になりますから、
家族に負担を掛けない最低限の義務だと思っています。




ほぼ毎週、天気さえ良ければ何処かしらの山に登っております。
今年も冬山から春、夏、秋と様々な山に登りました。
本格的な冬装備も一式揃い、今年は様々な美しい雪山も楽しんできました。





登山をするようになってこの夏始めての幻覚を見ました。
栃木でも屈指の難関ロングルートで行動時間14時間の長丁場の中、下界の気温39度という猛暑日
あまりの暑さに水の消費が激しく、ルート終盤でついに飲料水を切らしてしまい、
ルートを変更して水場に向かう途中の事でした。
頭の中は水場から湧き出る冷たい水のことで一杯。
すると見えたんです…前方の樹林の中に茶色の壁と青い屋根の木製のペンションが見えました。
水場まではまだ遠く、これは助かった!と水を分けてもらおうと近づいて行くと
すぐにペンションは消え、そこには樹林以外何もありません。
瞬時に 「あ、幻覚だ」と気付きましたが、怖かったのはそれまで自分の目にはハッキリとペンションが
見えていた事です。ペンションの壁には四角いガラス窓があり、その中で給仕している
メイドさんの姿まで認識していました。
初めての体験ですが、疲れてはいたけど意識がハッキリしているのに鮮明な幻覚が見えたという事実。
これは怖いです。ゾクッとしましたね。
山行歴が長いベテランの人に言わせれば、幻覚幻聴はよくある事で驚くに値しないとの事ですが
初めて経験すると怖いものです。


最後はちょっとサイコな話でしたが、近々また更新したいと思います。

次回は
単独山行だからこそある一期一会の出会い…の中でもかなりのインパクトがあった人とのお話しです。
強烈な出会いの後、不思議な共感から行動を共にし、最後は運命共同体の夜間下山まで。
人間として不思議な魅力を持った登山青年のお話しです。

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年末

2017年12月26日 | ディスカス濾過

クリスマスも終わり、仕事も佳境。
年末恒例のスパートをかけているところです。
長期スパンの設計に加え、中期短期の仕事が重なり年末は大晦日までフル稼働。
振り返れば今年も仕事に恵まれ、忙しいと言ってるうちにあっという間に過ぎ去った1年でした。
ありがたい事ですが年々、月日の流れるスピードが加速度的に増してる気がします。
来年は子供も大学3年生…そりゃ年取る訳ですね。



趣味の登山も今年は登山地図に無いバリエーションルート踏破や連泊縦走など、レベルアップ
できたと思います。
今シーズンの雪山も始まっていて、11月と12月で既に4回登りました。
年明けには、もういちど自分の雪山登山を基礎から見直すために雪山講習にも参加します。



まあ、忙しいと言いつつしっかり登山の日程は組んでいるわけです(笑)
最近はすっかり、こちらのブログ更新をさぼってしまい、過去を読み返せば前々回の記事は
GW残雪の同じような雪シーン…
ずっと更新が滞っているにも関わらず毎日多くの方に見ていただき、何か申し訳ない気持ちです。

というわけで、来年はもっと更新頻度を上げたいと考えています。
こちらは登山ブログではないのですが、時々載せる山の写真に加えて生活、仕事の事、
登山で変わった自然観など思いつくまま気負うことなく書ければ理想ですね。

それではみなさん、少し早いですが良いお年を。

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不思議な体験

2017年06月15日 | 登山

関東が梅雨入り宣言してから数日経ちますが、あまり雨が降りません。
梅雨でも天気の良い週末は相変わらず山に登っております。
毎週のように山に登っているものですから、数足持っている登山靴の中でも一番使用頻度が
高いサロモンがついに駄目になってしまいました。
経年劣化なのか酷使し過ぎなのか?靴紐を掛ける金具がブチッと切れてしまい完全に
御釈迦。
仕方なく新しい靴を新調しました。
サロモンはスポルティバよりも使用頻度が高く、同じように汎用性の高い、適度に柔らかく且つ耐久性
のある靴を探していたのですが、検討の結果イタリアのアゾロというメーカーの靴を購入。
試し履きに辛抱強く付き合ってくださったモンベル小山店のお姉さんに感謝です。
おかげで古賀志山のテスト山行でもまったく問題無くフィット感は抜群で、長い相棒になりそうです。


お気に入りとなったアゾロのフィット感を更に上げ、足に馴染ませる為に長距離山行を計画。
…と言っても、トラブルがあっても対処出来そうな(?)地元の奥日光の山域です。


立木観音駐車場~半月峠~社山~黒桧岳を縦走し中禅寺湖畔周回ルートで戻る26kmコース。
急登有り、降りては登り返しのロングディスタンスです。
今まで一度はチャレンジしようと思いながら、コースタイムを考えるとなかなか踏み込めなかった
コースでもありす。
靴の慣らしだけでなく、これから夏にかけての立山や八ヶ岳縦走、北アルプスを睨んでの
体力テスト的な意味合いもありますね。
今回はここでちょっと不思議な体験をしました。


狸窪から半月峠に登ると気持ちの良い稜線歩きが続きます。南側には足尾に連なる山脈…


北側には男体山と中禅寺湖。
6月初旬だというのに早くもハルゼミが鳴いていて、初夏の奥日光の匂いを満喫しながら稜線を社山へ。
ここはいつ来ても気持ちの良い景色です。


社山山頂に到着…いつもならここまでですが、今回はまだロングルートの三分の一ほどの行程。
序盤の通過点に過ぎないので、一服して気合を入れなおし歩を進めます。


社山の樹林帯を下りると黒桧岳手前まで、視界が開けた爽快な尾根歩きが続きます。
少し風が出て来ましたが、快調な稜線。


社山から黒桧までの醍醐味は、この稜線歩きにあると言っても過言ではありません。
稜線の南側は栃木の山らしい熊笹の草原、北側は樹林帯…稜線を境に植生が全く違うのが面白い。
山頂が切れていますが、写真右上が黒桧岳山頂です。
ここで単独の女性登山者と出会い、少し挨拶を交わしました。
自分「このルートの笹道は迷い易いと聞きましたが…問題無さそうですね」
女性「以前、山岳会の人達と一緒に来たけど、稜線を外さなければ大丈夫ですよ」


そんな他愛も無い言葉を交わしてから彼女と別れたのですが、その直後見事に笹道のマジックに
はまります(笑)
腰まで繁る笹道の途中で分岐点があり、右に進めば正規の登山ルートと分かっていましたが、
ここはあえて地図に無い左の巻き道を選んで斜面の向こうから登ってみようと。
いざとなったら分岐まで戻ればいいやと、分岐の左をグングン進んで行きます。
登山道はやがて踏み跡も心細いケモノ道に変わり、ひたすら小ピークの外周を回るトラバースルートに。
斜面もきつくなり、足を滑らせたら滑落の危険も…
常に視界は開け、主要なピークの位置を確認していたので、道迷い遭難の心配は無かったのですが
腰を降ろせる小スペースに着き、休憩がてら自分の場所を再確認。
アナログな紙地図とコンパス、ハイテクGPSで正確な位置を同定すると、北に50メートルほどの稜線に
登山ルートがあるのを確認しました。
分岐まで戻るには時間を使い過ぎたのと、下山までの長い道のりを鑑みてそこから上の写真にある
笹の急斜面を藪漕ぎしながら直登です。
道無き道の藪漕ぎで1時間以上のロス…登山道のありがたみを改めて痛感しました。


正規登山ルートに戻ってからは快調です。
黒桧岳はルートからちょっと外れた脇道の先にあるのですが、そこで4~5頭のメス鹿の群れと遭遇
しました。出会いがしらだったので、鹿達は驚いて一目散に逃げて行きます。


黒桧岳山頂。樹林帯で展望はありません。
腰を降ろしてチョコレートと山専のコーヒーで一服。しばらく休んでいると、歩いてきた登山道から
ガサッガサッと何か近づいて来る足音がします。一発で他の登山者のものでは無いと分かりました。
「熊!?」と身構えた自分の前に現れたのは…


先ほど散り散りに逃げて行ったメス鹿の一頭。
鹿は私の姿を確認して一瞬立ち止まりましたが、尚も近付いて来ます。
今まで登山中に鹿を見かけたのは数え切れませんが、逃げた鹿が自分の後を追って来るのは珍しい
光景…と言うか初めてです。

鹿は自分から2~3メートルの至近距離で止まり、ジッとこちらを見つめています。
シカ代表として、人間代表の自分に何か訴えたい事でもあるのか?
最初は慌てて写真を撮ったりしていましたが、私も何だか落ち着いてしまい鹿の傍らで
コーヒーを満喫…気づくと鹿相手に話し掛けていました。
「人間怖くないの?」
「山で生きて行くってやっぱり大変だよね」
「いやあ、さっき笹原で道間違えちゃってさ…」

端から見れば鹿相手にブツブツ言ってる危ないオッサン(笑)
時間にして15分くらいで、その間鹿はずっとすぐそばに立ちこちらを見ています。
結構長い時間そうしていたように思いますがまるで野生動物と意思疎通をしていたような
不思議な時間でした。


体型からして妊娠しているようにも思えます。
左上に後から様子を見に来た仲間が、恐る恐るこちらを伺っているのが可愛いですね。

現在、奥日光で少し自然の中に踏み込めば鹿は珍しい存在ではなく、よく見かける大型獣です。
頭数が増えすぎで木々の皮を食べる食害も深刻になり、頭数調整の為に猟銃駆除も行われて
いますが、人間側の自分としては致し方ない事だと納得するようにしています。
けれども、自分が出会い、交流を持った(と自分が勝手に解釈してる)この母子には生き延びて
欲しいとも感じます。
この年になっても感情優先…普段、街で暮らしている時は微塵も感じないのに勝手な
ものですね。

この後、中禅寺湖畔に降り、立木観音の駐車場まで長い道のりを帰路につきました。
朝5時30分にスタートし、車に辿り着いたのは夜7時20分。
総距離26kmを道迷い、大休憩、小休憩込みで14時間近く歩き通した事になります。
さすがに疲れましたが、翌月曜日は筋肉痛にならず平常運転。
仕事も予定通り進め、まだまだイケルぞ自分!
新しい靴も良い具合で、次の登山がまた楽しみです。

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