この春先、どこかで書評を読み興味が湧き、図書館で予約して待つこと3か月、こんなに待ったことはないというくらい待たされたのちに読んだ瀬尾まいこの新作は、思っていた以上にほのぼのと心を優しく包んでくれた。
結婚を目前に控えたさくらの前に、突如として現れる 「 お兄さん 」。
名前はもちろんのこと、その存在すら全く覚えがないさくらにとって、何が何だかわからず、しかも年齢も12歳年下と知るに至って、怪しさ満載。
だったはずなのに、付き合ってみると映画「フーテンの寅さん」の主人公の車寅次郎同様、とてもとても妹思いだし ( あっ、そう言えば寅さんの妹の名前もさくらだ! )、人を惹きつける愛嬌があり、さくらも婚約者の山田さんとその家族も、気がつけばいつの間にか、すっかり打ち解けてしまっているという展開に。
もちろん、実際の兄ではないことは最初から読者にはわかるし、だったら誰? といった興味を引っ張っていくこととなるのだけど、それよりも何よりもさくらの周りの人たちが何ら躊躇なくこの「お兄さん」を受け入れること自体、普通に考えればあり得ないのだけど、そこが瀬尾マジックというか、無理なく惹きこまれて読み進んでいくことに…。
そして、さくらのふとした心情吐露やさりげないお兄さんの気遣いなど、小気味よいテンポにのった愛おしさ感じる文章に時に心揺れながら、お兄さんの優しさの奥底にある思いの謎が解けるエンディングまで一気呵成、爽やかな感動が待ち受けていたのでした。
進学や就職、そして結婚など、人生にはいろんな節目がある。
その節目節目に立ち止り、自分の選択が正しかったのだろうかと思うことは誰にでもあるはず。
そして思わぬ失敗に対して蓋をして思い出さないようにすることもあるかも知れない。
そんな時、
「 思い描いたように生きなくてもいい、自分が幸せだと感じられることが一番 」
という言葉に、思わず感じ入る人も多いはず。
何気ない日常にこそ幸せはある、といった言葉は良く使われるけれど、ごくごく普通の人間の人生が等身大で描かれていく本作、いろんな節目に向かう人にも、そして日常にちょいと疲れた人にも是非読んでもらいたい作品だったのであります。
機会があれば是非是非!
方向性は全く違うけど、森絵都の「カラフル」くらいオススメです。
申し訳ありません、ペコリ。