わたしは、●くんのお母さんが●くんに話しかける時に、
●くんがつぶやいた言葉について「○○したいの?」などと問い返したり、
「そんなことないよ。お父さんのところへは行けないよ」などと間違いを正したり、
「○○してみる?」と誘ったりと、
●くんからの返事を期待する言葉や
●くんの態度の変化を求める言葉が多いことが気になりました。
といっても、どれも穏やかで優しい言い方で、
ほほえましいだけで、
本来、いちいち気にするような声かけではないのです。
それでも、●くんがとても過敏な子である以上、
そうした接し方は少し修正した方がいい気もしました。
言葉という点では、わたしにしても、●くんのお母さんと同じせりふを言っている場合も
けっこうあると思うのですが、
わたしが自閉症の子にかける言葉は、
言葉そのものの内容よりも、
不安を減らしたり、落ち着かせたりすることの方に重点を置いているので、
同じように聞こえても、過敏な子の受け止め方はずいぶん異なるのです。
相槌や絵本の中で繰り返される言葉のように
リズムのある言い回しだと、
自閉症の子の心に、自分が相手から何か求められているのではないか、
何を求められているのかわからない……といった不安感を生じにくいのです。
また、言葉をかけた際、それが伝わっていないように見えても、
聞こえていなかったようだから何とかわからせようと、
何度も同じことを告げるのは、不安をあおるように感じています。
わたしは、伝えたいことは、目で見える形で示して、一度言った後に
本人が聞いていないように見えても、そっとしています。
すると、たいてい、5分から10分すると、
それに対してきちんとした応答が返ってくることはよくあります。
●くんにしても、どんなに気づいていないように見える時も、
見せて声をかけたものは、5~10分ほどすると、
こちらが示したものを模倣して、それまではしなかったような新しい遊びを展開していきました。
そうした●くんの姿を見るうちに、
「どの言葉が正しくて、何がよくないのかわからない」と困惑しておられた
●くんのお母さんも、
ふっと腑に落ちるものがあったらしく、
「言葉がなかなか出なかったもんですから、●がちょっとでも言葉をしゃべると、
それに答えなきゃ答えなきゃとあせっていた気がします。
もう少し、ゆったり待つ必要があるんですね。
今日はほとんどエコラリアがありません。●が、本当にいろいろなことをして
遊んでいます」と言って、にっこり微笑まれました。