現在は、「子どもになりきる」まなざしが
なくなりやすい環境です。
情報が多すぎるし、携帯電話やテレビやベビーカーといった
大人と子どもの間に見えない壁を作ってしまいがちな道具があふれていますから。
また子どもの側に、生まれたときから、
大人を不安にさせたり、挑発したり、無関心にさせたりするような
素質があった場合、いくら親御さんが良い親になりたいと考えていても、心優しい性格だったとしても、
しだいに親御さんの自信がくじかれていって、そうしたまなざしになれなくなるのも
仕方がないことです。
ですから、「子どもになりきる」まなざしになれない自分は
悪い……と捉えるのではなしに、
ちょっと自分の心のチャンネルを子どもサイド見方に切り替えるくらいの
気楽な気持ちで、この状態を意識的に作るようにしていると、
子どもの言葉の遅れが劇的に回復することもよくあるのです。
言葉の遅れのある子のなかには、
一方的に単語を言ったり、要求を口にすることはできるけれど、
相手からたずねられたことに返事をすることがなかなかできない子がいます。
★ちゃんにしても、「これなあに?」とか「じいじいは?」とたずねても、
自分に向かって何かをたずねられているということがわかっていない
様子でした。
また、たずねられたことに自分から応じていこうという
意志が感じられませんでした。
そんなときに、もし★ちゃんのお母さんが、完全に★ちゃんになり変わって返事をするのでもなく、
「じいじいはお外っていいなさい」と指示を出すのでもなく、
★ちゃんが主体であることをわかった上で、
★ちゃんになりきって、
そっと★ちゃんの身体をたずねた相手の方向に向けながら、身体そのもので言葉を受け入れる態勢を作ってあげながら、
「りーんーご」とか、
「じいじいは、えーと、どこかなどこかな、あっち」と身振りもまじえて
いっしょにお返事してあげると(最初のうちは大人だけの返事になるでしょうが)
★ちゃんが言葉を覚えていきやすいように思いました。
「子どもになりきる」というのは、絵本を読むシーンでも
大事です。
★ちゃんは、絵本を手にして「読んで」という素振りをします。
でも、ただ絵本の文字を読んであげるだけでは、
2ページ目に移る前にふらりとその場を去ってしまいます。
それを繰り返していると、★ちゃんのお母さんも拍子抜けして、
「~してよ」と能動的な★ちゃんの働きかけに対して、
「どうせちゃんと聞かないんでしょ」といういやいや
従うような態度で応じることになりがちです。