虹色教室通信

遊びや工作を通して 子どもを伸ばす方法を紹介します。

『9歳の壁』でつまずくか つまずかないか を左右する抽象概念の理解力 1

2015-08-21 19:56:15 | 教育論 読者の方からのQ&A

(途中までしか書いていない記事は近いうちに続きを書かせていただきますね。)


20代の子を持つ親(1040名)を対象に実施された

「難関突破経験と子育ての実態」に関する調査によると、

いわゆる難関突破した経験のある子の親とそうでない親の間に

子育てスタイルに大きな違いがあることがわかったそうです。

その違いとは、難関突破した経験のある子の親は、そうでない親に比べ、

遊びを重視する傾向があることです。


就学前の遊ばせ方の特徴として、

 子どもの自主性、思いや意欲を大切にして遊びの主導権を子どもに与えています。

また、親もいっしょに遊んだり絵本の読み聞かせなどで、

ていねいに関わっていたお家が多いようです。

 

こうした調査をしているプロジェクトのメンバーである

お茶の水大学名誉教授・内田伸子先生は、

<今回の調査から、大学受験や資格試験などの難関を突破する力や夢を実現する力と、

就学前の遊ばせ方には相関関係があることが示唆されました。

子どもは、五感を使うことで脳が発達するため、

ちゃんと遊んでいないような子どもは“9歳の壁”に突き当たりやすいのです。>

とおっしゃっています。


9歳の壁とは、学習内容が具体的なものから抽象的なものへと変わる9歳の時期に、

勉強がわからなくなる子が増えることから呼ばれる言葉です。

調査結果を長年にわたり研究している内田先生によると、

難関突破経験者の親の3人に2人が、子ども自身が考える余地を与えるような

援助的なサポートをする共有型

逆に難関突破未経験者の半分以上が、大人目線で介入し子どもに指示を与えてしまう

強制型の子育てスタイルなのだそうです。

このことから、「遊びは量よりも質が大事で、特に親との関わり方は大切」

とのことです。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

話が少し飛ぶのですが、普段のブログで遊びの大切さはさんざん書いているので、

今回は、抽象概念の理解力についての話を……。

 

 

 ユースホステルでのレッスンでこんなことがありました。

朝食時に5歳の自閉症のAくんが、「なおみ先生、なおみ先生」と繰り返しながら、

わたしのそばにやってきました。もう食事はすませた様子。

 

わたしがお尻をずらして席を半分あけて、

「Aくん、ここに座る?椅子の半分をあけたよ。ここに座る?」とたずねると、

わたしの隣に座っていた他の子のお母さんも反対方向に身体をずらして、

「Aくん、こっちにも半分、席があるよ。半分座る?」と、

茶目っ気たっぷりにたずねました。

 

わたしが、Aくんの目の前に半分ずつできた椅子の隙間を順に指さして、

「半分と半分、あっ、ひとつになっちゃった!」と告げると、

Aくんの表情が好奇心と喜びでパッと輝きました。

そこで、Aくんをその半分席に座らせて、朝食のソーセージを半分に切り分けて、

それぞれをフォークにさしてみせました。

「半分と半分……あっ、ひとつになっちゃった!」と言いながら、

切り分けたソーセージを元の一本に戻すと、Aくんはゲラゲラ笑いながら、

「半分、半分」と繰り返しました。

Aくんの心に、「半分」という言葉と概念が強く響いているようだったので、

皿にあったハッシュポテトでも「半分と半分、あっ、ひとつになっちゃった!」を再現。

それから、塩の小瓶を手にして、「半分だねぇ」と告げました。

 

白い塩の粒が瓶の半分ほどを占めているのを目にしたAくんは、

そこにできた空白部分と白い部分と半分という言葉のつながりに気づいたのか、

深く感動したようでした。

塩の小瓶を持って、「半分、半分」と言いながら、

他の子や親に見せてまわっていました。

 

 Aくんについて前日の勉強会で、Aくんのお母さんからこんな話を伺っていました。

 

「とにかく同じことを何度も何度も言い続けます。

絶対、違うに決まっているでしょってことでも、ちがうよ、こうだよ、と説明しても、

少しすると、また同じことばかり言うので、返事をするのもうんざりしてしまいます。

他所の家の前に自転車が置いてあると、Aが「忘れているの?」と聞くので、

「忘れているんじゃなくて、置いているんだよ。あそこのお家の人の自転車だよ」と

説明するのに、

それからもその家の前を通る度に、毎回、「自転車、忘れているの?」と聞くんです。

それとか、道に鳥の羽根が落ちているのを見て、

「鳥が落としていったのね」と言うと、「取りに来る?」とたずねるので、

「鳥は落としていった羽根を、人間の落し物みたいに取りに戻ったりしないよ」

と説明しても、何度も何度も「取りに来る?」と聞くので、もう、どう答えたら

いいのかわからなくてイライラして、きつい言い方で返してしまうんです」とのこと。

 

「あきらかに間違っていることを何度も何度もたずねられる場合、

どう答えたらいいんでしょう?」という質問もいただきました。

 

「わたしは毎回毎回、初めて聞いたみたいに対応しています。

自閉の子の望む答えは決まっていることが多いですよね。

自分の言う通りに答えてもらいたがったら、相手の要望そのまんまに答えつつ、

毎回、少しだけ返事のバリエーションに変化を加えて、

こちらの伝えたいことを目でわかる形で示すようにしています。

すると、うんざりするくらい同じことばかり聞いていたかと思うと、

ずいぶん経ってからですが、あれっと驚くほど、

コミュニュケーション能力や語彙の理解力のステージが一段上がったのを

感じる瞬間が来るんですよ」と返事をしたところ、

いっしょに勉強会に参加していた支援級の補助のお仕事をしておられる方が、

相槌を打ちながら、こんなことをおっしゃいました。

「その通りですよ。わたしも、何度も何度も同じことを聞いてくるのに

本人の望むように答えながら、少しだけ新しいことを加えて返事を工夫するように

しているんですが、半年、同じことを言い続ける時期もありますが、

そうやって対応していると、ある時、劇的な変化の瞬間を迎えるんですよ。

本当に!」

 

その晩は、他の年齢の自閉っ子のお母さんとも、

ただのこだわりだと一蹴したくなる質問にも、毎回ていねいに答えることと、

そうした同じ質問だからこそ、こちらも知恵を絞って、

プラスαに創意工夫を加えてみることの大切さについて、話が盛り上がりました。

(詳しくは別の機会に書きますが、この回のユースには、次に食べたいものと

その値段の話題ばかり繰り返す自閉っ子の小2の男の子が参加していたのですが、

いつもいつも繰り返す食べ物と値段の話題にその子の望む返事をしつつ、

消費税の計算や場合の数の考え方など算数の世界の新しい話題を少し加えて応えて

いると、その都度、新しい算数の問題に思いをめぐらすことに夢中になっていました)

 

話が中途半端ですが、長くなったので、次回に続きます。

 


最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
素敵な2日間をありがとうごさいました。 (ここ)
2015-08-23 11:49:25
今回のユースホステルありがとうございました。
かわいい子ども達と出会い、とても楽しかったです。

毎日、仕事で子ども達と遊び、工作などをくり返す中で、数学的思考が発達の凸凹のある子ども達にとって、社会を生き抜いていく中で、重要な鍵になるのではないか‥‥と考えていました。

発達の凸凹のある子ども達は、あらゆる刺激の強さから、一対一対応でしか物事を認識できないこと‥少しでも違いがあると別の物として認識してしまうことが、多くありますよね。
様々な物が全く違った物として個別に存在しているので、分類遊びは自然発生的には、なかなか出てきません。

例えばよくある事例では、
・Aちゃんを叩いてしまった時、注意を受けてとても反省していても、Bちゃんは叩いてしまう。また注意を受けると「Bちゃんは叩いたらダメって言われてないもん!」と言う。
・「まっすぐ家に帰りましょう。」と言われると「そんなの帰れない!」と言い、なぜか聞くと「曲がらないと帰れないから。」と言う。

こういった彼らの性質上の特性として片づけられてしまっている事も、刺激の強さから抽象概念をとらえられず、遊びの中で充分に育まれにくい事から起こるのではないか‥と感じていました。

物事を抽象的にとらえられる様になると、帰納的な考えや類似的な考え、統合的な考えなどにつながりやすく、そういった考えは勉強だけでなく、人間社会に多くある暗黙のルールをとらえられやすくなったり、変化に対する耐性や柔軟さもでき、学校生活や社会生活の不安が少なくなるのでは‥と感じています。

発達の凸凹のある子ども達はくり返す事で(くり返すと思っていても、彼らには全く違うことなんでしょうね。自転車が毎日、場所が1ミリも、角度が1°も違わず置いてあることなんて、ないですもんね。違った状況を何度も照らし合わせて、様々な角度から擦り合わせていく事で)意味として、獲得していくんでしょうね。
そこに、彼らの苦手とされる抽象的な表現や変化やユーモアなど取り入れると、一対一対応ではなく大きな意味を持ったものとして、獲得していけるんだな‥‥と強く感じました。

‥‥心と身体を解放して、全身で自分が何が好きか、何が心に響いているのか‥‥を表現する子ども達。そんな子ども達に触れられて、とても幸せな2日間でした。
ご一緒させていただいたご家族のみなさん、ありがとうございました。
また、お会いできるの楽しみにしています。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。