虹色教室通信

遊びや工作を通して 子どもを伸ばす方法を紹介します。

自閉症の子 と 子どもの興味を保障すること 2

2014-12-28 20:00:18 | 自閉症スペクトラム・学習が気がかりな子

 先日、『ピッケのつくるえほん』のアプリの制作者の朝倉さんといっしょに開いた、

このアプリを使った絵本作りのワークショップに、いつも教室のレッスンに通って

くれている自閉症スペクトラムのAちゃんも来てくれました。

 

Aちゃんはこれまでも虹色教室で何度かこのアプリに触れたことがあります。

教室でのAちゃんは、機械の操作にすぐ慣れて、

自分でキャラクターやアイテムを画面に置けるようになりました。

ところが残念なことに、作るのは毎回、同じシーン。

 テーブルといすと食べ物をセッティングしてから、

「ピッケ、すわる? ピッケ、すわる?」とたずねながら、

子ブタのピッケを椅子に座らせるのです。

ピッケの足を動かして座っている格好に近づけるのは、毎回やりたがる作業。

Aちゃんは、こんなふうに一つのやり方にこだわりだすと、まるで儀式のように、

そればかり繰り返して、ほかの提案をいっさい受け入れられなくなることがあるのです。

 

遊び方が固定されてしまうので、

「Aちゃんが自由にアプリを使ってピッケを椅子に座らせる時間」と

「先生(わたし)が提案する方法で遊ぶ時間」をはっきり分けて、

Aちゃんにはそれぞれの時間に伴う約束事を言い聞かせました。

ところが、Aちゃんは毎回毎回、「ピッケを椅子に座らせること」だけに強いこだわりを

示して、わたしが見せるお手本は片っ端から画面の外に出して消してしまいました。

それでも、「先生が提案する方法で遊ぶ時間」には、わたしは繰り返しAちゃんが

喜びそうなアイテムを画面に出して見せ、Aちゃんはその都度、あっという間に

それらを消し続けていました。

 

傍から見ると、Aちゃんが嫌がっているのに、

しつこくお手本を見せ続けているように見えるかもしれません。

でも、こうした根競べは、わたしとAちゃんの間のお互いへの信頼感の上に成り立っている

一種の遊びでもあって、それをしているAちゃんの姿からは安心感や喜びが感じられました。

また、これまでした遊びでは、そうして自分のやり方にとことんこだわった後で、

ある時、一気に自分の殻を壊して、こちらの提案に柔軟に対応するようになったり、

興味の幅を大きく広げたりしてきたのです。

 

ワークショップに参加したAちゃんは、初めての場に少し興奮した様子で、

ニコニコしながら、「ピッケ、たたく?ピッケたたく?」と何度も聞いていました。

Aちゃんは、緊張している時、ニコニコしながら、「たたく?たたく?」と

たずねて、軽く相手を叩く真似をすることがあるのです。

 

 

この日、Aちゃんは画面にさまざまなアイテムを置いていました。

楽器、乗り物、食べ物など……。

「椅子を向かい合わせにもう一脚置く」という提案も、すんなり受け入れて、

椅子の向きを変える方法も覚えました。

 また、ピッケが主人公になっている短い動画を視聴した後で、

自分からそれに出てきたお店屋さんを再現し始めました。

 

自分でワゴンを見つけてきて、パンを並べてお店屋さんを作っていました。

こんなふうにある時、ふっと、こだわりが消えて、新しいさまざまなものを

受け入れ始めるから、目に見えた進歩がない期間も、その子の興味を保障し

働きかけていくことが大事だと感じています。

 

教室でのAちゃんは、絵具を使って絵を描いたり、

簡単なカードゲームやボードゲームをしたり、

ままごとや人形ごっこをしたりして遊んでいます。

Aちゃんが色鉛筆やクレパスで描く絵はハッとするほどカラフルで美しいです。

教室に通い始めた頃は、次々と物を床にぶちまけることと、

絵カードの名前を言ってもらうことだけに強いこだわりがあったAちゃん。

混沌とした時間も長かったけれど、その時間から生まれたこと、

その時間が育ててくれたものはたくさんあったな~としみじみ感じました。