ユースホステルでのレッスンの様子を書いた過去記事を、いくつか紹介します。
記事中に登場する5歳の★くんは、現在、小学生。
就学前、教室の就学準備グループに一年間通っていただきました。
その間、★くんは精神面でも知力の面でも目覚ましく成長し、
学校に上がる直前には、教室の片付けや学習態度でほかの子らの模範となるほどでした。
就学準備グループを始めた当初、★くんといっしょにふざけたり反抗したりしていたある
男の子は、自分の行動を律してテキパキと活躍する★くんの姿を見て、それまで頑として
やろうとしなかったおもちゃの後片付けを進んでするようになりました。
親御さんはいつも優しく根気よく愛情をたっぷり注いで育てているのに
子どもの困ったちゃんぶりが日増しに強くなっていく場合があります。
前回のユースホステルのレッスンでも
今回のユースホステルのレッスンでも
そんなわが子の態度に戸惑う親御さんの姿がありました。
親御さんからの承諾を得て、5歳の★くんのケースを紹介します。
★くんはユースホステルの異年齢レッスンに初めて参加してくれました。
目がクリッとした茶目っ気のある男の子です。
運動神経がよくて活発な明るい子です。
発達面で気がかりなことはなさそうなのですが、
わかっていても大人の声かけを無視することがたびたびあって、
危険なことをしている時に注意しても知らんふりしていて
制止がきかない様子は気になりました。
また本人に十分できるレベルの課題も嫌がってやろうとしなかったり、
質問を聞こうとしなかったりしました。
ちょっと考えなくてはならないような知的な課題全般に
耳を傾けることさえ拒否するような、意欲のなさが目立ちました。
「聞く」こと自体を拒絶して、
憎まれ口をたたいて逃げてしまうので、
語彙の量や語彙の理解力などに問題がないか
お泊りレッスンの間、★くんの言葉に注意を傾けていました。
「見る」作業中、たちまち落ち着きなく視線が泳ぎだすようだったので、
見る力についても、何か問題が感じられないか注意していました。
★くんは人が好きな快活な子で、誰とでもすぐに仲良くなれる一方で、
年上の力のありそうな子を足で蹴ってちょっかいをだしたり、
友だちが集中して何かしていると邪魔したり、
理由もなくお母さんを叩いたりする
人との関わり方の幼さがありました。
★くんのお母さんもお父さんも温和で常識的で落ち着いた方々で、
★くんにたっぷり愛情を注いで育てています。
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記事の内容とは関係がないのですが、ついでに
今回のユースホステルでのレッスンの様子を紹介します。
1枚の紙に切り込みを入れるだけで、立体があらわれる様子に
4~6歳の子らはため息を漏らして感動していました。
さっそく見よう見真似で創り出す5歳の◎ちゃん。
↑◎ちゃんのお絵かき作品も素敵ですね。
押し入れのなかで上映会。熱中症にならないように注意がいります。
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教室外の子どもたちと接する機会があると、
発達障害などのハンディーキャップがないにもかかわらず
★くんのような気になる態度を示す5、6歳の子とたくさん出会います。
「どうしてそうした困った態度を身につけてしまうのか」のもとをたどると、
2、3歳という自我が生じはじめて、自己統制力が育っていく過程で
周囲の接し方がまずかったり、環境に少し問題があったんじゃないかな、
と思われることが多々あります。
過去の原因探しばかりしていても仕方がないのですが、これからどのようにして
気になる行動を克服していくといいのかを話題にする前に、
2、3歳児を育てている親御さんたちに学んでいただくためにも
そうした困った態度が生じてくる仕組みについて説明させてくださいね。
山梨大学の加藤繁美先生は、次のようにおっしゃっています。
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「自己チュー児」などと呼ばれる「超わがままタイプ」の子どもは、
「しつけ」ができていないというよりも、
自分の言葉を聴き取られ、自分の思いを受け止めてもらう心地よさを
知らない子どもが、「荒れ」た行動をとっているのである。
その理由は、子どもの自己統制力が育っていく道筋が、
実はそうした構造をもっているからにほかならない。
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子どもは最初に、大人と親密なコミュケーションの過程で、
愛されることの心地よさを獲得していきます。
加藤繁美先生によると、一口に「愛されることの心地よさ」と言うけれど、
実は乳児期に体験する大人・子どもコミュニケーションの質は、
その後の子どもの育ちを規定するくらい大きな意味を持つものなのだそうです。
大人たちは子どもが自分でも自覚していない要求を読みとり、
ていねいに「意味づけ」し続けます。
子どもはそうやって繰り返されるコミュニケーションを通して、
自分の要求と音声が対応していくことを知っていきます。
そうして乳児期に獲得した「愛されることの心地よさ」をベースに、
音声で表現できることを知った要求世界を
自分の興味・関心にひきずられるようにして、どんどん表現するようになります。
それが「自我」の誕生と呼ばれるものです。
要求を主体として成長していくこの時期に、
大人が子どもの発するものを受け止め、同時に方向づける
という対応を辛抱強くていねいに続けていくことで、
子どもは言葉で表現するようになった世界を大人と共有することに
幸福を感じるようになるそうです。
そして2歳半を過ぎる頃から、大人と共有した価値の世界がはっきりしてきて、
知性として形成される「第二の自我」の芽となるのだとか。
第二の自我とは、
「社会的存在としての自分がどう行動すべきか」という形で
知性として認識される「規範的自我」「理想的自我」である点を、
特徴としているそうです。
3、4歳とは、身体が求める要求世界としての「自我」の世界と、
知性として育てた「第二の自我」の世界の間に生じる、
矛盾と葛藤を生きている時期で、
やがて4歳半を過ぎる頃から「自己内対話」をしながら生きていくようになります。
現在は「自己内対話能力」がうまく育っていかない子が
急速に増えているといわれています。
5,6歳という幼児後期になっても「自我」の世界だけは出し続けるけど、
「第二の自我」が育っていかないという、困ったちゃんが増えているのです。
5歳の★くんにしても、自分の要求はいくらでも出すのですが、
「社会的存在として自分がどう行動すべきか」に気づいて、
自分の内面でそれと折り合いをつけて行動に移すことができません。
「欲しい」とか「したい」とか、自分から要求を出すこと以外に無関心で、
外からの要求には無視するか、憎まれ口をきいて相手もやりこめるかの
どちらかで対応しているのです。
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↑ ユースホステルのレッスンで。
回転すると模様がどのように変化するのか確かめています。
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★くんのお母さんもお父さんも★くんを心から可愛がっている方々です。
愛情をたっぷり注いで、しょっちゅうギューッと抱きしめています。
それにも関わらず、
「★くんがこれまで自分の言葉を十分に聴き取ってもらえず、
自分の思いを受け止めてもらう心地よさを知らないから、荒れた行動をとっている」
と捉えるのは、親御さんたちに対して失礼にあたるかもしれません。
とはいえお母さんが近くにいるときの★くんは
まるで聞き分けのない2歳児のようにわがまま放題に振舞っているのも事実でした。
そこでいったんお母さんに離れておいていただいて
わたしと★くんがペアになって行動することにしました。
すると★くんは「こういうことがやってみたい」というチャレンジ精神が薄いわけでも
大人の指示に素直に従えないわけでも、
見たり聞いたりすることが苦手なわけでもないことが徐々にわかってきました。
もちろんふたりで過ごしだしたとたん、★くんの「困ったちゃんモード」が
「いきいきしたしっかりさんモード」にコロッと切り替わったわけではありません。
でも、最初はこちらの声かけを無視したり、
憎まれ口を返したりして対応していた★くんが、
★くんの本当の気持ちに光を当てるうちに自ら進んでお手伝いをしたり、
一度は放りだした課題に再度取り組んだりするようになってきました。
そうするうちに★くんの内面には、
個性的なさまざまな良い資質が潜在しているのに、それを発揮する機会がないために
わがまま放題な態度に終始しがちになっているのが見えてきました。
続きを読んでくださる方は、下のリンク先までどうぞ。
愛情をかけて可愛がって育てているのに困った言動が増えてくるとき (ユースホステルのレッスンから)4
愛情をかけて可愛がって育てているのに困った言動が増えてくるとき (ユースホステルのレッスンから)5
愛情をかけて可愛がって育てているのに困った言動が増えてくるとき (ユースホステルのレッスンから)6
愛情をかけて可愛がって育てているのに困った言動が増えてくるとき (ユースホステルのレッスンから)7
愛情をかけて可愛がって育てているのに困った言動が増えてくるとき (ユースホステルのレッスンから)8
愛情をかけて可愛がって育てているのに困った言動が増えてくるとき (ユースホステルのレッスンから)9
愛情をかけて可愛がって育てているのに困った言動が増えてくるとき (ユースホステルのレッスンから)10
愛情をかけて可愛がって育てているのに困った言動が増えてくるとき (ユースホステルのレッスンから) 11
(12は、補足記事だったので削除しています)
愛情をかけて可愛がって育てているのに困った言動が増えてくるとき (ユースホステルのレッスンから)13