このグループの1年生たちは、教える上で少していねいにサポートする必要はあるものの
実際の学力は学年以上のものが身についてきてはいます。
この日も最レベ問題集1年生(奨学社)の総合実力テストをしたところ、
どの子もしっかり解けていました。
この1年で急速に知力が伸びてきたのです。
ただ、そのようにペーパー上のテストは良い成績を取れるようになったとはいえ、
それぞれの子が、ひとりひとり別の困り感を抱えてもいて、
今後もていねいなサポートを必要としているのも感じました。
特に気をつけているのは、
「教わったことならきちんとできるけれど、
初めて何かに取り組む時に
その年齢の子なら当然わかっているだろうと思われる暗黙の了解がわからなかったり、
直観的にわかるはずのことができなかったりする」という点です。
そのため、目新しい課題を前にすると、
今にも泣きだしそうにおろおろする子、何をしなくてはならないかということも
忘れて落ち着かなくなる子、トンデモな推理をしてお友だちに笑われる子、
どこから持ってきたのかわからないような答えを次々並べる子などが続出するのです。
「だいたい、こうだろう」と当たりをつけることが苦手なようです。
また、そうした体験の不足も気になります。
「だいたい、こうだろう」と当たりをつける体験の不足といえば、
先日もこんな気になる場面に遭遇しました。
小学3年生の知的障がいの女の子、◎ちゃんのレッスンでの出来事です。
(◎ちゃんは、今回の記事のグループではありません)
わたしは◎ちゃんが、できないことやわからないことにぶつかった時、どのような反応を取るのか
知りたいと思っていました。
ちょっと考えてみて、「わからない」と言うのかな?
しばらく考えこんで、「わからない」と言うのかな?
適当な答えでもいいから、「こうかな?」「ああかな?」と言うのかな?
イライラして怒りながら「わからない」と言うのかな?
お母さんに教えてもらおうとするのかな?
教えてもらうとしたら、どこがどんな風にわからないのか指摘できるかな?
ショックを受けるのかな?
けっこう強くて、教えてもらいさえすれば、再チャレンジしようとするのかな?
わたしに「先生、教えて」とたずねてくるのかな?
そうした「わからない!」という事態に◎ちゃんがどのように対応するのか
把握しておきたかったのです。
ところが、困ったことに、いつまでたっても、◎ちゃんが「わからない」に自分なりに
どう対処するのか把握できないのです。
◎ちゃんが、「わからない」ことに遭遇しないわけではありません。
それこそ、見るもの触れるものわからないことだらけではあるのです。
でも、どうしてわたしが◎ちゃんの対処法を把握できないのかというと、
◎ちゃんが、「わからない」ことを、自分で「わからないな~」と感じとるよりも前に、
◎ちゃんのお母さんが、「~しなさいよ」「~は?」「~して!」と
次にすることを教えてしまうからなのです。
◎ちゃんは、「お母さんの言葉」というスイッチで動いているかのように、
反射的には何かするけれど、自主的に何かする姿はありません。
でも、遊びの場面では、あれこれ思いついて好きなように振舞っています。
◎ちゃんのお母さんはとてもていねいに子育てをしておられる方で、
そのおかげで、就学した後も、2や3という数を認識することすら難しくて、
認知の歪みをたくさん持っていた◎ちゃんが、
今では
かけ算やわり算や国語の文章問題まで扱えるようになってきています。
ですから、これまでの子育てでは、◎ちゃんのお母さんの働きかけは
けっして間違っていなかったのだと思います。
でも、今、◎ちゃんはずいぶん考える力がついてきていますから、そろそろ、
「自分の頭で考えてみて、
やってみて、
結果を見て、
その良し悪しについて判断を下す」
という体験が必要なのかもしれません。
そうした自分でしてみた体験の積み重ねから、
目新しい課題にチャレンジする時も、「こうじゃないかな?」と当たりをつけてみる
こともできはじめるはずです。
そんな話を◎ちゃんのお母さんに伝えて、◎ちゃんに教える言葉を控えていただく約束をしてから、
わたしは◎ちゃんとゲームで遊んだり、勉強したりしました。
ゲームは『キティーちゃんのモノポリー』です。
◎ちゃんは、青いカートの絵があって、「もう一かいふる」と書いてあるマスに
止まりました。
わたしは、「◎ちゃんはどうするのかな?」と思いながら
黙って見ていました。
◎ちゃんは、「こうしなさい」と指示をもらえないので、一瞬、ボーッとしたまま過ごしていたのですが、
ひらめいたように、「も、う、いっ、か、い、ふ、る」とマスの字を読んで、
また、ボーッとしていました。が、こちらが何も言わないのに気づくと、
「あぁ、あぁ、サイコロをふることかな?もういっかい?」と言って、
サイコロではなくルーレットで遊んでいたのですが、そこには気にかけず、
ルーレットを回しました。
「◎ちゃん、よく気づいたね。ちゃんと、字を読んで、どういう意味かなぁって考えたら、
どうするかわかるね」と言うと、ニコニコしながら、コマを進めていました。
また、算数の学習では、「午前8時から 午前11時までは( )時間」とある問題で、
何も言わずにいると、「ご、ぜ、ん~」と問いを読んだ後で、指示を待つように
首をかしげていました。
そこでもわたしが、、「◎ちゃんはどうするのかな?」と思いながら
黙って見ていると、◎ちゃんはリラックスした様子で、問題のすぐ上にある
時間の帯を指しながら、「この8?これが8時?」とたずねました。
「そう、よくわかったね。わからない時は、近くにある図を見れば
わかる時があるね。8にしるしをつけておこう」と言うと、
8に丸をして、縦線を入れてから、またボーッとしていました。
が、それでもわたしが黙っていると、思い出したように問題を見て、11にも
しるしを入れました。
それ以上は難しかったようなので、8と11の間に色をつけてあげると、
それだけで了解した様子で、3(時間)と書き込みました。
次回に続きます。