虹色教室通信

遊びや工作を通して 子どもを伸ばす方法を紹介します。

自閉症の子のコミュニケーションしたい気持ちを育む 2

2012-03-18 18:17:11 | 自閉症スペクトラム・学習が気がかりな子

★くんがわたしと打ち解けて遊びはじめたのは前々回のレッスンからです。

また会話らしきものや非言語のコミュニケーションが続くようになり、

自分の方からわたしと目を合わせよう、いっしょに遊ぼう、という意欲を見せてくれるようになったのも

その日からです。

お母さんに席をはずしてもらうことは、その数回前のレッスンからしていたのですが、

その日までは、お母さんが見えなくなったとたん、

お母さんが近くにいる時に「してはダメ」と言われていることを

一通りやってみるような様子で、同じアニメのせりふをしつこいほど繰り返しながら、グルグル回ったり、

列車のおもちゃをテーブルに置いて、目の高さをその列車とテーブルの隙間に合わせて、

ずっと列車を動かし続けていたりしました。

わたしが何か話しかけると、「○○って言って!」とわたしに言ってほしいせりふを指示する返事が返ってきて

会話に発展することはありませんでした。

 

それが前々回、次のような出来事があって以来、★くんのわたしへの態度は

急速に変わり始めました。

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(過去記事です)

 

★くんと、長いボールコースターを作って遊びました。

この遊びの最中、★くんはこれまで見たことがないほどのはしゃぎっぷりで、

ピンポン玉サイズのボールが筒に入った瞬間、その地点で数回回転することが

うれしくてたまらないようでした。

「見て!ねっ!見てよ。ねこのボールがくるくるってまわるん?トンネルで。

ねぇねぇ、ピタゴラスイッチかくめい~くるくるビーダマ~♪」と途中までは私の方を見て、

途中からはひとりで歌うように言いました。

私も真似て、「ピタゴラスイッチかくめい~くるくるビーダマ」とふしを付けて言うと、

「それ、ぼくが作ったんだよ。名前!」と返ってきました。

「★くんが作ったのね。くるくるまわるもんね。くるくるっとね」と返すと、

「どう?これねぇ、くるくるってまわるんだよ。すごく。今から、ここから転がすからね」と★くんは

満面の笑みを浮かべて、ボールをスタートさせました。

このボールコースターで遊ぶ間中、★くんは私のまなざしの先や表情を見て、

ちゃんとボールを見ているのか、自分と同じように喜んでいるのか確かめるような様子でした。

また、心から打ち解けて、満面の笑みを浮かべていました。

どうも、このボールコースターを作る前の

クーゲルバーンで遊んでいた時から、私が急速に楽しい遊び相手と感じられるように

なったようなのです。

気にいった理由は、

★くんのお母さんが外に席をはずしてくださっていたこともあって、

私はわざと★くんの遊び方に合わせて、荒っぽい口調で「バーン!」とか「ドカーン」とか、「もうっ!★くん、やめてやめて!グラグラ

ドッカーンってこわれちゃうよ。あ~あ、こわれた~ハハハハ~(大爆笑)」と言ったりして、

★くんのはちゃめちゃな遊びっぷりと同調して遊んでいたからのようです。

 

★くんは、おなかがよじれるほど笑い転げてました。

その後★くんは私の一挙一動に好奇心いっぱいのまなざしを向けながら

目と目が合うと、いたずらっぽく笑いかけてきたのです。

その後、長いボールコースターを作ってからは、★くんの方から積極的に私に話かけては、私の返事を聞いて、

それに返事を返す……という会話の中身は同じようなことの繰り返しなのですが、

心と心でずっと長い間、キャッチボールをし続けることができたのです。

こんなに楽しく★くんと遊んだのは初めてでした。

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今回のレッスンでは、★くんはこれまでのレッスンのように、

「わたしと遊ぼうとする意志や遊んで楽しいという様子はあるものの、

コミュニケーションとしてはぎこちなくて一方通行」という態度ではなく、

驚くほど自然に、心を通い合わせてピタゴラスイッチ作りしていました。

 

その様子をたまたまカセットテープに録音していたのですが、

最初のうちに一度だけ、ふざけて大きな声を出しただけで、

その他の時間はずっと自然なコミュニケーションが持続していました。

「○○って言って!」とわたしの言うせりふを先に決めたがる癖もなくなり、

わたしが何か話すたびに、それは面白そうに聞いていて、

わたしの言う通りにやってみたり、指さす方を見たり、返事をしてから、こちらに何か話しかけたりしていました。


幼稚園でひとりで遊ぶのを見るのが辛い

2012-03-18 17:37:43 | 自閉症スペクトラム・学習が気がかりな子

過去記事です。この記事後、家族の関わり方の改善や働きかけで、☆ちゃんは目覚ましく成長し、

物作りが好きな魅力的な女の子に成長していきました。

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もうすぐ5歳になる☆ちゃん。2歳になる弟くんといっしょに
遠方から親子レッスンに来てくれました。

☆ちゃんのお母さんの話によると、知能の遅れもさほど感じられないし、
園の先生にも問題はないと言われるものの、
呼びかけても反応が遅く、
お友だちの輪に入れなかったり、遊びについていけなかったりすることが
気にかかる…ペーパーのプリントはこなせるものの、
この2年ほど、おしゃべりや遊び方に成長が感じられず
何だか心配でなりません…
というお話でした。

☆ちゃんとりんごの木からりんごを摘み取るゲームをしたところ、
ルールを理解する力や
りんごを数えてバケツに入れたりする数学的な力は
きちんと身についていることがわかりました。
しかし、
座り方がぐにゃりとしていて、姿勢を保つのがしんどそうだったことと、
ルーレットを回したり、りんごを木からはずしたりする作業を、
お手本に注目できず独特の奇妙な手つきで繰り返したり、
年齢にしては不器用すぎるところ、
一回、何かするたびに私の顔を無表情のまま何十秒も見つめる癖など
気になることもたくさんありました。

また、耳で聞いたことが、それとわかるまでに
ずいぶん時間がかかるように見えることも気になりました。
動きのひとつひとつが弱々しくて、子どもらしい活気が伝わってきません。

私には☆ちゃんのお母さんの心配が、
ただの思い過ごしや悩みすぎのようには思えませんでした。
「私の接し方がまずいのでしょうか?」とおっしゃるお母さんの育て方が、
☆ちゃんから受ける弱々しくて、不安定な様子の原因だとも思えませんでした。
☆ちゃんは、ただ発達がゆっくりなだけなのでしょうか?
個性なのでしょうか?

これから☆ちゃんにどのように接していけばよいのでしょう?

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5歳の☆ちゃんの話にもどります。
☆ちゃんといっしょにドールハウスで遊んだのですが、
☆ちゃんはまるで自分以外にだれも人がいないかのように
無言のまま、ひとり遊びをしています。
お友だちといっしょのときも、同じような態度なのだそうです。

その遊ぶ姿は、砂場に集まった1歳、2歳の子が、
いっしょに場を共有しながらも
相手のすることに無関心なままひとり遊びを続ける姿に似ています。

私は☆ちゃんにちょっとした人形劇を見せました。
雪だるまの人形に「わーい、ケーキだ。ここに隠しておこう」と
タオルの下にケーキを隠させて、「ちょっとお出かけしてくるね」と雪だるまを
遠くにおきました。

その後、別の人形が、タオルの下のケーキを見つけ、
「わーい、いいもの見つけたよ。そうだ、あっちに隠しておこう」と隠させました。

「帰ってきた雪だるまは、どこにケーキが隠してあると思うと思う?」
と☆ちゃんにたずねてみました。

すると、☆ちゃんは、少しの間、ポカンとして考えていましたが、
「ここ」とタオルの下を指差しました。

私が☆ちゃんがそうしたクイズを通して、理解しているかどうか知りたかったのは、他者のこころの内容をどれくらい理解しているかです。
「こころの理論」という概念の発達具合を調べる
サリーとアンの課題を模した問題をたずねてみたのです。
すると、
☆ちゃんの表情や遊び方、人への接し方を見ていると
すごく意外だったのですが、
☆ちゃんはすんなり正しい答を指差すことができました。

☆ちゃんは広汎性発達障害ではないのでしょうか…?

だとすると☆ちゃんから受ける極端なほどの
コミュニケーション能力の低さはどこからきているのでしょうか?

☆ちゃんのお母さんは、「☆ちゃんが、お友だちの輪に入れずに
ひとりで遊んでいるのを見るのが辛い」と言います。
「小学校に入ったときに、いじめを受けるのではないか?」とも気にしています。

いったいどうすればよいのでしょうか?

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☆ちゃんに絵本の絵を見せて、いろいろと質問してみました。
その都度、☆ちゃんはポカンとしたままぼんやりしていたかと思うと、
じれったくなるほど時間が過ぎてから、
正確な絵の意味を説明してくれました。

広汎性発達障害の子に見られるような認知のゆがみや
細部へのこだわりはみられません。

私はふと、☆ちゃんのコミュニケーション能力の弱さ、
人と関わる能力の低さは、
2次的なものかもしれない…と感じました。
2次的なというのは、
聞く力や、察する速度などにLD(学習障害)などによる
弱さやゆがみがあって、
それが原因で、まるで自閉の傾向を持つ子のような対人関係のなりたたなさが
生じているのではないかと思ったのです。

まだ幼稚園児である☆ちゃんに、学習障害かもしれない…などという
余計な心配は無用なのかもしれません。
しかし、LDが原因で、2次的な問題が起きている子を放っておくと、
知的な問題がないにもかかわらず、
知的障害の子と同じように学校の授業についていけない事態が起こったり、
広汎性発達障害ではないにもかかわらず、
お友だちとうまく関われず、
いじめられることにつながるかもしれないと思ったのです。

 

広汎性発達障害など、自閉症の範疇にある障害によって
お友だちと遊べないのと、
LDなどによって、
2次的にお友だちと遊べないのとでは、
どのような違いがあるのでしょう?

あまりいい例とは言えないのですが、
食欲を感じたり、食べ物をかんだり、消化したりする力が弱くて
食べない子と、

食欲もあるし、食べ物をかめるし、消化する力もある…
でも、手の力が弱くて他人の力を借りなくては食べ物を口にうまく運べない…
そのせいで食べるという経験が減る
そのせいで自分は食べれないと思い込んだり、食べることに消極的になる

という子のちがいに似ていると思います。

また、理解する力が弱い、覚えられない、考える力が弱い…
だから勉強ができない子と

理解する力もあるし、覚えられるし、考える力もある…
しかし、さまざまな音から今自分にとって大切な音を拾う力が弱かったり、
察するのに時間がかかる。だから、集団に向かって、すばやく次々指示を出されると、聞くというインプット段階でつまずくため、
勉強ができなくなる…という子

のちがいと似ていると思います。
学校では、しばしばこの二つの異なるハンディーを持つ子が
同じ扱いを受けています。

広汎性発達障害のある子は、社会性の発達がゆっくりで、
認知のゆがみから細部だけしかとらえていなかったり、一方通行の関係を好んだりします。ですから、
無理に集団に入れようとせずに、ひとり遊びをそっと
見守ってあげたり、
同年代の子と遊ばせようと思い込まず、
その子がいっしょに遊んでいて心地よいと感じる少し年上の子や少し年下の子と
遊ばせてあげる方がよい場合があります。

しかし☆ちゃんのように、
認知の面できちんと発達している場合、
同年代の子の輪にうまく入れていない状況は、
本人の心を深く傷つけていたり、
自分に何か悪い部分があって遊んでもらえないのかもしれない…という
誤った考えを抱かせるかもしれません。

周囲の大人が、☆ちゃんの弱い部分を補ってあげて、
集団のなかで自然に楽しく過せるように
フォローしてあげる必要を強く感じました。

親御さん、幼稚園の先生、学校の先生が
相談しながら☆ちゃんのお友達との関係を1ステップずつ良いものに
変えていく努力がいると思うのです。