魔法使いの物語
これの続きです。
魔法使いの物語3
いつからだろう。心にポッカリと空いた穴を埋めるかのように。
アクセサリー作りに没頭した先に。
あの方のリクエストを全て作り終えた先に。
浮かんできたアイディア。
それは、私にとっては素晴らしいものに思えた。
愛するあの方の面影を、雰囲気を感じられるものが作れたら。
私には、写真も、映像も、その姿を確認できるものは、何一つ持って無かったから。
あの方を感じられる持ち物といえば、私が手にしていたのは、ただ、一つだけ。
私が贈り、そして…あの日、私の元へ去る時に返された、ルビーのペンダントだけ。
それを、指で弄んで、見つめながら。
それでも、これは…。
ただ、私が…あの方の為に作ったもの。ただ、それだけだ。
と…何度も、何度も、胸が押しつぶされそうになった。
あの方の面影を、雰囲気を少しでも感じられる何かを作りたかった。
それは、自分の為に。
せめて、それを大切に胸に抱いていたかった。形にしてみたかった。
しかし…そんな動機で作り始めたものは、全くと言っていいほど上手くいかなかった。
作っても、作っても、それは、何一つ、あの方の面影すら、見出せない。
何度も、何度も失敗を重ねながら。
やがて…経験が足りないのか。
それとも、技術が足りないのか。
と。いても立ってもいられず、誰かの、お客の依頼を受けて実験的に作るようにもなった。
不思議な事に、その依頼を受ける度に、技術も、アイディアも、経験も、上がっているのを自ら感じていた。
なのに、あの方の面影を捉えた何かは、簡単には作る事ができない。
それでも、いずれ。
この先に進めば、作れる日がくるのかもしれないと。
ただ…繰り返し、繰り返し。私は作る事に没頭していた。
結婚式の指輪も、恋人へのプレゼントも、大切な誰かに贈るアクセサリーも。思い出にと残したかったペンダントも。
私以外の、他人のものならば、全て。
その、大切な人の面影を、思い出を捉えた、アクセサリーを作る事ができていたようだった。
どうしてなのだろう?
それは、依頼者に渡した後になってようやく解る事で、私にはその雰囲気が、面影が、正確に再現できているのかもわからないで作っているのに。
依頼した客は、制作したアクセサリーを見るや否や、喜んでその思い出や、大切な人の面影や雰囲気の共通点を、嬉しそうに語ってくれた。
それなのに。
やはり…私には、あの方のものだけは、どうしても作る事が出来なかった。
自然と、それから…あの、ルビーのペンダントを見つめる日が多くなった。
写真すら、映像すら何一つ無いのに。
脳裏には、ハッキリと、その姿が浮かび上がってくる。
花びらの舞う、あの宮殿で見せてくれた笑顔。
虹を閉じ込めたペンダントを作ってと言った時の、子供のようにワクワクしていた顔。
自分を見つめてくれた時の、あの真っ直ぐな瞳。
このペンダントを手渡した時に見た、少し切なげで、嬉しさと寂しさが入り混じったような表情。
そして、さよならを告げた時の、泣きそうな表情を押し殺したような、気丈な笑顔。
あの方はもう居ない。
あれから月日はさらに流れ、あの、最後に交わした言葉に従って続けてきた事、作り続けてきた事さえも。
最近では、だんだん、どうでもいいと…思ってしまいそうだった。
いずれ、この記憶も、あの笑顔も、その言葉も。私の中から薄れ…消えていってしまうのかもしれない。
それが…怖かったのだ。
僅かでさえも、一緒に居た事。それさえも消えてしまいそうな気がした。
私の時間は止まり。そして、世界はどんどん、動いてゆく。
進む事も戻る事も…できなくなっていた。だとしたら、せめて。
大切な何かを抱いていたかった。
いつの間にか、ルビーのペンダントを握りしめて。涙をこぼしている自分がいた。
会いたい…。
だけどきっと、そんな想いが、強い強いその想いが…あの方の面影を捉える事も、何もかもを遠ざけてしまっているのだろう。
あの方の面影を、雰囲気を感じられるものを作れる時が来るのだとしたら。
それは、きっと。
あの方の事を忘れるという事なのだ。
依頼されて作るようになってから、経験と技術を重ねる度に、薄々、その事に気づきはじめていた。
自分以外の、他人の大切なものなら作りだせるということ。
だとしたら、私が何より大切にしている面影を、形にしてしまったら。
私の中では、あの方は他人と同じになってしまうのかもしれない。
その面影は…手にする事はできたとしても、その瞬間、私の中で消えてしまうのと同じではないのかと。
手詰まりだった。
どうあがこうとも、もうこれ以上、進む事も、戻る事もできない。
どちらにせよ。
また、私の中で…今度こそ貴女を失うのだろうか。
泣きながら、工房でルビーのペンダントを叩き割った。
貴女を護れるアクセサリーになるようにと作った、大切な思い出の品。
別れ際に返された、苦い苦い、思い出の品。
あの時に…告げられた言葉。
変わらないあの方の姿が、自分の中で、消えてしまうのかどうか試したかった。
数日後。
割れたルビーの欠片を拾い集めて。
小さな小瓶に詰めて、そっと…机の引き出しの1番奥に隠した。
最後にもう一度。作ろうと思った。例え、私の中から消えてしまっても。あの方の面影を感じられるものを。
沢山の思い出を、それに込めて。
自分の中から、なくなってしまってもいいと。
ひとつひとつ、思い出しながら。
大切に、大切に。
脳裏に浮かび上がるその姿を。面影を。雰囲気を、笑顔を…。
「貴女を作ろうなんて、あまりに突拍子も無かったのかな…。思えば、私が自発的に作るもので、上手くいったものは、これまであまり…無かった気がするよ。いつも、貴女の、そして、お客のリクエストに応えていたのだから、それは当然だったのかもしれない」
まるで、側にあの方がいるかのように、独り言をつぶやいていた。
「貴女を失った寂しさや、切なさが、私を駆り立てていたんだろうね…。何か目標が無ければ…と。私はもう…どうしようもなかったのさ。きっと、貴女に会いたくてね」
もうすぐ、完成しそうだった。
いつもの調子で、心はやけに平穏で、静かだった。
「だけど、それも…私のただの、エゴだったのかな。貴女を思い出として閉じ込めて、無くしたくなかっただけなのかもしれない。
貴女が居ない事が、平気な自分になる事が…許せなかっただけなのかもしれない」
出来上がったアクセサリーを、そっと手にとった。
やっぱり、あの方の面影は、微塵も感じられない。私にとっては、これは、ただのアクセサリーだ。
「だけど…、それでも。大切にするよ。例え私の中から、その記憶も面影も、全て薄れて、消えてしまったとしても。その欠片が、わずかな断片が、私の中に存在する限り」
そう言って、完成したばかりの指輪をはめた。それは、あの方の面影も、笑顔も、雰囲気さえも何一つ感じられない。
ただの、なんの変哲もない指輪だった。
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まさかの魔法使いの物語3
寝る前にイメージと、断片的な映像や情報を組み合わせてあとは創作のご都合主義です。
過去生とかに近いのかもしれんけど、それよか、何か意味やメッセージがあるんじゃないかと思って記録中。
急に思い出したらだーーーっと書けちゃうので、なんかやっぱり意味はあるんだろうな。私的には、魔法使いが、錬金術とかで死んだ王女を作ろうとしなくて本当に良かった←wと。
スプラッターな展開になったら超怖えなと思ったけど大丈夫でした。(ほっ)
現実にはこれほど強く想い続けるなんてことあんのかなーと思って、やっぱだんだん、想いは薄れてしまうものなんじゃねーの?とか。現実の私には経験が無いので、創作ちっくだなぁーと思うんですけども。
それでも、書いてる時に切なさでいっぱいになって涙が出て来るので。
やっぱりそういう意味でも、何か意味があるのかなーと思います。