魔法使いの物語2
これの続きです。
魔法使いの物語
墓標の前に佇み、魔法使いは静かに懐から小さなケースを取り出した。
「覚えていますか?…貴女のリクエストは突拍子もなく、無理難題で…いつも私を困らせていた事を」
魔法使いはそう言いながら、ケースからペンダントを取り出した。
ダイヤモンドを使ったシンプルな形をしたペンダント。
「私は今でも、覚えていますよ。貴女は、いつも…いつも…そんな困った表情をした私を見て、笑っていた事を」
今は亡き、王女の墓標でひとり。
魔法使いは独り言のようにつぶやいた。
思い出はいつも、とめどなく溢れ。
未だに何一つ、消えてくれそうになかった。
それ程に大切な思いを抱えて、
王女を自ら手放した罪悪感に苛まれ、それでも最後に託された言葉に従ってきた。
「今日は、あの時のリクエストの品を届けに参りました。……我が愛しの…王女よ…」
王宮に仕えていた時のように、魔法使いはうやうやしく頭を下げた。
………
「雪の結晶をアクセサリーにしたら、素敵だと思いません?」
王女のリクエストはいつも、無理難題だった。それはいくら王宮仕えの宮廷魔導師だったとしても、希望を叶えるのは非常に骨が折れる事ばかり。
一瞬、表情が固まり、苦虫を噛み潰したような顔をする魔法使いを見て、王女はいつも、ふふっと笑っていた。
その王女の表情は、まるで魔法使いを困らせる事を楽しんでいるようだった。
最初こそ、王女の命令だからという事で研究し業務のように応えていた魔法使いだったが、いつしか王女のリクエストは、命令でも業務でもなく。
この上もない難易度の高いゲームのように、魔法使いの心を捉えはじめていた。
いかにして王女の無理難題なリクエストに応えるのか。
それは、魔法使いにとって、最高に楽しいゲームになりはじめていた。
そのリクエストに完璧に応え、さらに王女の意表を突く。
その時王女の表情は、驚きと、喜びにあふれ、その姿を見る事は魔法使いにとっての一つのステージのクリアだ。
それは…えもいわれぬ満足感だった。
他者との関わりを避けてきた魔法使いにとっては、こんな関わりしかできなかったのだ。
孤独だった魔法使いは、他者との関わりには何一つ踏み込まず、また踏み込ませることもなかったのだが。
この王女との関わりだけはほんの少しだけ…今までとは違っていた。
そんな楽しいゲームの最中。
夕暮れ時の、雨上がりの虹が出ている庭に。王女が急ぎ魔法使いを呼びつけ、連れ出された時の事だった。
「あれ!あれを見てご覧なさい。あの虹を閉じ込めたペンダントなんて、素敵だと思わない?」
いつもの王女の無理難題なリクエスト。
これもまた、気が遠くなるような、そんなリクエストだった。
「そうですね…作れたとしたら美しいでしょう」
今回ばかりは…簡単には応えられそうにない無理難題だった。
「残念ながら魔導とは、そのような言葉一つで叶えられるほどには、単純なものではないのです」
いつものように、苦虫を噛み潰したような表情をしていたのだろう。
それを見て、王女はまた、ふふっと笑った。
「貴方は、きっと叶えて下さいますわ。私はそう、信じてるもの」
いつも王女の目は、真っ直ぐだった。疑いようもないほどに信じているとでも言いたげな。
いつもその目に射抜かれ、魔法使いの心は何故か叶えなければと駆り立てられる。
だがしかし。
「魔導とは、軍事の為、上層階級の便利な生活の為、研究されてきた、今ではただの技術です。誰かの願いを叶える魔法などでは…ないのですよ」
一言、哀しげに魔法使いがそう漏らした。
おとぎ話のような魔法など、今はもうほとんど存在しない。魔導師とは、魔導とは、所詮はただの戦争の道具であり技術だ。
それはもし王宮の誰かに聞かれれば、左遷されようが、追放されようが、何一つ文句は言えないような、そんな言葉だった。
暫しの沈黙。
魔法使いのその言葉に少なからず驚いたのだろうか。
王女は、空の虹を見つめながらこう言った。
「ただの技術なら、これほど心震わせる事も無かったのでしょう。貴方の作るものは、私にとっては、あの空の虹と同じ。青い空と、雨と、太陽の光が織りなす奇跡のようなもの。
いつか…作ってくださいませんか?あの虹を閉じ込めたペンダントを」
王女は最大級の微笑みで、振り返ってそう魔法使いに向かってお願いした。
魔法使いが、ただ一言漏らした苦言でさえも、それすらも、笑顔で却下と言わんばかりに。
宮廷魔導師ではなく、誰かの、王女の願いを叶える魔法使いになれと、そう言われたような気がしていた。
「…お望みとあらば」
魔法使いはうやうやしく頭を下げた。
涙が滲むのを必死で隠しながら。
思えばこの時に気づいたのだ。
私はこの方を慕っていると。
………
魔法使いはダイヤモンドのペンダントを、空にかざした。
雲一つない晴天。晴れやかな空。
途端に、ダイヤモンドのペンダントにクッキリと虹が浮かぶ。
「随分と時間がかかってしまいました」
虹が浮かんだダイヤモンドのペンダント。
それをかざした空にも、一つ虹がかかっていた。
雨雲も何もない晴天の空に咲く虹。本来ならばあり得ない事だ。
あれから何十年も研究してできた一つの成果。
ペンダントをかざした空に特殊な虹がかかる魔法をつけて。
それは、軍事にも、上層階級の便利な生活にも、何一つ役に立ちそうに無かった。
一つ、二つ、三つ…
だんだんと空にはあり得ない程の数の虹がかかり、虹が空を埋め尽くしていく。
魔法使いがこの日の為に、同じ効果のペンダントを大量に作り、お店のお得意様全てに贈っていたのだった。
このペンダントを今日の空にかざして下さい。きっと、素敵な奇跡が起こりますよ。
そんな手紙を添えて。
「魔導師ではなく、貴女の魔法使いからの、最後のプレゼントです。出来れば貴女が生きてるうちに、これを作り渡したかった…」
墓標にそっと、ペンダントを置いて魔法使いはきびすを返した。
あの頃の王女であったなら、きっと、喜びに目を輝かせていただろう。
どれほど驚かす事ができただろう。
罪悪感は消えない。
思い出も消えない。
だけど空は虹色で…それはまるで空に花をばら撒いたかのように美しかった。
…………。
という事でなぜか浮かんだ魔法使いの第二話。
相変わらずご都合主義です。
ていうかイメージだけ先にくるのでそれをつなぐ様に言葉を入れてるので、小説ってよりも物語なんでしょうなー。
この辺も過去生とか事実とかじゃなく、色々と比喩なんでしょうが。
魔法使いはきっとペンダントばらまく為に、今までのお店の蓄え全部使っちゃって、さーてどーしょっかなー。
とかこのあと考えてたみたいです。←
なんじゃそりゃぁぉぁwww