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生誕百年の文豪たち

2009-07-21 13:40:00 | 読書



 『一応の推定』 広川純 06年6月 文藝春秋社

 第13回松本清張賞受賞作品を読んだ。
3000万円の傷害保険に加入したばかりで轢死した老人には、多額の金が必要なのっぴきならない事情があった。
事故ならば保険金が支払われ自殺ならば支払われない。
定年を控えたベテラン保険調査員の主人公が、長年培ってきた経験と勘で地道に事実関係を明らかにして、二転三転の末に真実にたどり着く。
信念に従い適性な判断をしようとする主人公の姿勢が気持ちよい社会派ミステリーで、松本清張の作風を彷彿とさせる作品だった。

 今年は松本清張生誕百年の年。
書店や図書館では記念コーナーが設けられているのが目につくし、清張原作のTVドラマ化も盛んである。
実家の父も大ファンで、古い本棚には松本清張の全集が並んでいた。
「貧しくて学校に行けなかったが、独学で勉強して立身出世した立派な作家なんだよ。」
と、子どもの頃よく父に聞かせられていたものだ。
他にも探偵・神津恭介や検事・霧島三郎の名キャラクターで知られる高木彬光全集も揃っていたから、相当なミステリーファンだったと思われる。
(余談だが高木彬光は旧制青森中学で太宰治の後輩)

 今年はいずこも文豪フェアが目白押しで、松本清張の他にも太宰治、大岡昇平、中島敦などが生誕百年を迎えている。


 近所にある安売りで有名なファッションマートA店が
太宰治生誕百年記念 100円均一セール】をやっていた。
なぜ文学とは無縁の安売り店がこんなセールをやるのだろうと不思議に思ったら......

『当店は太宰治と同じ青森県・金木町出身で、旧店舗も太宰の生家斜陽館から100メートルの同じ町内にありました。当社社長は結婚式を斜陽館で挙げています。当社もお客様に喜んでいただける企画を出したいと思いました。100年に一度だけのセールです。ぜひご来店ください』
との宣伝の文面には笑ったが、これは足を運ばない訳にはいかないだろう。
店内アナウンスは『太宰治百周年』の連呼、連呼で大賑わいだった。
100円均一品はあっという間に売り切れて、私が手に入れることが出来たのは韓国のりとパンストだけだった。


 


 地元では『走れメロスマラソン大会』の実施や、太宰の銅像が↑建ったりして、大いに盛り上がっているらしい。
この大騒ぎに利用されていることを、太宰はどのように感じているだろう。
「恥多き人生でした(人間失格)」と我が身を振り返って呟いた太宰は
「罪多き者は、その愛深し(春の枯葉)」とも書いている。
案外ニヤニヤしながら面白がっているかもしれない。




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6 コメント

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Unknown (およよ)
2009-07-21 19:01:33
ん~。。と。
太宰さんは あまり得意な人では無いのですが…小説はちょっと読んだかなって感じです。
よく自殺したがった人ってイメージですが時代が時代なので仕方ないかもしれませんね。

郷里愛溢れるファッションマートA社長の 100均、100メートル、100年に一度の…のコピーが笑えます。
きっと太宰も喜んでるでしょう♪
喜んでる (燃える闘魂)
2009-07-21 19:50:39
勿論、照れるでしょうけれど、滅茶苦茶に他人の評価、ヒトからどう見えるか、思われるか、を気にした人だったと思いますから、きっと喜んでいるでしょう。

私の感ずる「太宰を一言で表せば」は、『自意識』です!
およよさんへ (nihao)
2009-07-21 21:24:18
太宰は好き嫌いがはっきりと分かれる作家ですね。
私は結構夢中になって読んだ方ですが、太宰ウイルスのようなものがあって厭世観が伝染して辛くなってしまうんです。
でもそれがまた癖になる.......。
今読んだら絶対に伝染しないと思うから、百年を記念してまた読んでみようかな。

ファッションマートA社長に、百年に一度の大セールと言われたら......便乗セールと知りながらも、なんか覗きたくなる。
太宰も苦笑いだと思います。
燃える闘魂さんへ (nihao)
2009-07-21 21:41:05
>ヒトからどう見えるか、思われるか、を気にした人
ホントにそうですね。
そこが『自意識過剰の饒舌の文学』と言われる所以なんでしょうね。

「生まれてきてすみません」だなんて.......
自虐的だけれど限りない自己愛を感じるし、何度も死に損なったけれど、本当は最後まで死にたくはなかったのではないかなと思ったりします。
当時の女性たちは甘え上手の太宰の虜になってしまいましたが、現代なら絶対にもてないタイプの男子ですね。
闘魂さんも斜陽館を見学されましたよね。
あの時代、あんな恵まれた家で生まれ大切に育てられるということは、一種の特異なケースとはいえ、天才が生まれる土壌となったことは納得させられますね。
Unknown (panco)
2009-07-24 07:17:52
松本清張が、生きていればもう100歳!
なんだかそんな年なんだぁ・・・
と、生存中を良く知っている我が身を振り返って愕然・・・
しかも太宰と同じ年なんて、ちょっと意外でした。
早くに亡くなった人なのでその辺の時代の感覚が曖昧なんですなぁ・・・

松本清張賞の作品は、どれもきちんと正当な評価がされていて、松本清張を彷彿とさせる作品になっていますね。
「一応の推定」も是非読んでみたいです。

ところで直木賞、以前nihaoさんが話題にしていらした北村薫さんに決まりましたね。
大ファンの私としては嬉しい限り!
pancoさんへ (nihao)
2009-07-24 09:05:34
>太宰と同じ年なんて、ちょっと意外でした
そうなんです。
私も松本清張の方がずっと若いと思っていました。
とても印象的な風貌でしたね。
太宰の生前に関しては私も何も知りません。
長生きしていたら、案外メディアに出たがる人だったかもしれませんね。

松本清張賞の作品は今回初めて読みました。
乱歩賞や横溝正史賞とは作品の雰囲気が違いますね。
最近社会派ミステリーが少なくなっているので新鮮でした。

北村薫さん、直木賞とりましたね。
大ファンであるpancoさんのことをすぐ思い出しましたよ。
早めに受賞作を予約しておかなければ!

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