ほんとにっき

身辺雑記、本の紹介、日々の徒然、サッカー、映画など。。

試み十八

2008-02-27 10:20:59 | 試み
そんな時、救ってくれたのも、やはり女性だった。
陽が顔を見せ、その体を空中に放射し始めた午前7時頃だろうか、
一人の女子高生が、こちらに眼差しを向けた。
遊びつかれて、芝生に横になり、寝言を言ってたらしいから、当然かもしれない。後で、聞いた話だが。
その娘は、その日一日中、僕と付き合ってくれた。一日限定の「彼女」として。
幸いなことに、二千円程、持ち合わせがあったので、ランチをご馳走するくらいは出来た。
その分、ファミレスで、豪勢な夕食を頂くことになるのだが。
 どのような言葉で会話をしていたか、正直なところ、よく覚えていない。
よく間が持ったものだなと自分でも、思う。いろいろな話をした。
過去の話、今現在の話、両者を覆う悩みの話が大半だったが、不思議なことに
そんなに後ろ向きな気分にはならなかった。その内、僕が陥った、
実存の不安のようなものも、雲散霧消していった。丁度その日の快晴のように。
 彼女の言った幾つかの言葉は、覚えている。
「君を助けてあげたいとは思うけど、出来ないと思う。
そうしたら君は君じゃなくなると思うし、私の言ってること分かる?」
夕食をオーダーした後、何気ない瞬間に、彼女がふと言った。
僕はその一言で元の沈黙に戻ってしまった。
「そんなんじゃなくて、今の君のままでいいの。君と一日過ごして、私も少し自信ついたし」
 2人は、朝、出会って、夜、別れた。そこには感傷性や寓異性みたいなものは
一切介在しなかった。愛すべき、簡潔な事実。
 
 あの時、2人に足りなかったものはなんだろう。感動するような物語か、それとも
単にお金か。
僕らは、どうすれば、あの時別れて別の道に行かなくても良かっただろうか。
一番の基本、お互いの気持ちが、擦れ違っていただけなのだろうか。
僕とあの娘は、違う景色を見て、お互いに求めるものに落差があったということだけなのか。
今からでも間に合うだろうか。
 わからない、わからないことが多すぎる。



 ラブソング。ラブソングは叶わぬ願いのためにうたわれる。そんなうたを、
彼女が歌っているのは違和感があるし出来ればやめてほしかった。
まあ、鼻歌なのだが。
 今日は、初めて、公園以外で2人で食事することに決めていたのだが、結局、
コーヒースタンドで、コーヒ-とベーグルを買って2人で食べることになった。
「最近どう、よく眠れている?見たところ調子良いみたいだけど」
「まあね。上手くいってるほうかな」
彼女と喋っていると気を使わなくてもすむ。彼女も無理に言葉を継ぐようなことはしない。沈黙はそのままにお互いを共通する。
 そんな中、彼女は再び鼻歌を歌う。こちらは知らない曲をなぞっているようだが、
なんとなく、街頭で耳にした音楽のような気もする。
「この曲、知ってる?」
彼女はいたずらをした後の子供のように無邪気に笑いながら言う。
「いや、知らないけど。曲名はわからないけど、聴いたことあるような気がする」
「また、嘘言って。駄目だよ」
「なんで?いやほんとに聴いたことあるから」
「だって、いま私が適当につくったうただもの」


 趣味や、情熱を傾ける事柄で共通するものは、ほとんどない。
でも、なぜ、こんなに楽しいのだろう。彼女のひとつひとつが、どうしてこうもかけがえのないのだろう。
 新しい現実の再発見。
救われる自己を越えて。掬われる空と共に。
 きっと、ゆける。 
                             完    

試み17

2008-02-18 13:44:24 | 試み
まだ、肉体による運動が何物にも代えがたい喜びだった時分。
明け方の公園で、缶けりをしたことがあった。あれは、
初夏の湖に面した公園でのことだ。勿論、
人の姿を目にすることは、ほとんどなかったが、ただ一人湖を
見渡せるベンチで座って、コンビニ弁当を食べている若い男がいた。
ともかく、缶けりの人数は6名。その内訳は女子3名、男子3名。
飲み会で盛り上がっての、唐突な遊びとして、明け方の4時の缶けりを
選択したのだった。全員、意気軒昂な学生だった。

そういえば、月が綺麗な夜だった。湖面に月が映って、自分と宇宙が直接
繋がっている様な印象さえ受けた。あのときの空気感は今でも忘れない。
あのときの悔しさと孤独は忘れようがない。

試み17

2008-02-18 09:48:50 | 試み
生活はどうしているのかだって?当然の疑問であり、直面する最大の障壁だろう。
具体的な解決策はひとつを除いてない。日によって街をぶらついたり、
図書館で過ごしたり・・・でも昼食は彼女と共にするようになった。
それに、毎日、千円札をくれる。少なくない金額だ。
初めは、僕も拒絶したが、そのうち彼女の真意が理解できるようになった。
「これで新しい生活を始めなさい」ということだろう。
街で一人で出来ないことも多い。
一人で出来ることも、勿論、ある。

「鬼決めジャンケンしようぜ、ジャンケン」
公園でうとうとしていると、元気一杯な声が聞こえてきた。
公園で鬼ごっこでもするらしい。
 全く迷惑な連中だ。子供というのは・・・。

試み16

2008-02-17 14:55:44 | 試み
閉じこめていた記憶・感情が今、蘇ってくる。
 この街で、初めて仕事をした時の、あのつらさ。何も劣悪な労働環境だった訳では決してない。
それでも、労働というものが持つ、その不均等性。
一生、これを続けることは、つまり、自己にとって、どのような意味を齎すのか。
 そもそも、僕の人生とは?
そこで出会う人を極端に限定することにならないのか。
そんな訳で、働き始めて16日目の昼休み会社を抜け出して、二駅離れた公園で昼食を摂るようになった。
 そして帰宅するまでそこで過ごした。
今まで何が、僕をここまで連れてきたのか。暫し考えた。
やはり、恐れだろうか。他人から蹴落とされ、見向きもされなくなるだろう恐れ。
最愛な人が、離れていってしまうだろう不安。
決して、それは正のエネルギーではない。前へ進むためなら、
他人を蹴落とし、嘲り、道路を塞いだ。そして、
我が物顔でそこを歩いた。
 何故だろう。なんでそこまでしなければいけなかったのだろう。
本当は、君と友人になりたかった。競争相手としてではなく、手を取り合える
友人として、話したかった。話した傍から価値を失うようなことは口にしたくなかったんだ。
 それなら、取って代わる夢や理想、信念を自分の人生の中心に据えるには、
もう、年を取りすぎたのかもしれない。

 そんなわけで、その日から、僕は社会に背を向けた。僕の大半を捨て去った。

試み16

2008-02-17 09:12:48 | 試み
広がりを取り戻した。世界に対する広がり、空間的な、時間的なあらゆるものに対しての。
気付いたのは一瞬だった。彼女と何気ない会話をしている間、ふと現実が、
一段高くなり、それにつれて自らの世界に対する眼差しが変容したように感じられたのだ。
彼女もそんな僕の変化に気付いたようだった。

目の前の風景をこれ程ゆっくり眺めたことがあっただろうか。時間はあった。
それこそ、売る程あった。でもこうして眼前の光景に、
身を委ね思いを馳せたことなどなかった気がする。
何もかもが美しい。

夜の街をうろつく。あてもなくふらつく。
そこでは僕は、町の一部であり、全体でもある。
絶え間ない運動と、熱気を持って夜の街は欲望に満ちている。
そんな他者のざわめきを聞くのが好きだ。通りすがりの人と目が合う。
連れ立って歩いている人々の断片が聞こえる。
そこでは、僕は何も考えなくてもいいし、何も憶えなくてもいい。
僕自身へも、僕の生活にも・・・。

試み15

2008-02-16 15:30:48 | 試み
具体的な話しをしよう。人間が住んでいるこの世界について。
この場所について、僕の場所について。
昼は公園にいる時間が多い。あと散歩とか・・・
木製のベンチは丁度いい背もたれの傾斜で、座るのも
横になって寛ぐにも、快適性は抜群だ。
公園の中心には、噴水がある。その周りにベンチと花壇が同心円状にある。
大体想像できた?平日でも、人が溢れている。
特に晴れた日は、笑顔が気持ちいい。
これも、都市の存在事由の一つ。笑顔が溢れていること。
少なくとも、僕の住んでいる街はそうだ。
周りにいる動物。犬を連れている人達も多いが、何と言っても
その中でも一番愛くるしいのは鳩だ。
餌を求めてか休息を求めてか僕の周りに寄ってくる。
何かを求めて歩く姿は、ただ、可愛い。

試み14

2008-02-11 09:10:51 | 試み
気持ちのよい昼下がりだった。そうやって彼女にからかわれた後、
僕は意地になって、パンにかじりついた。
彼女は驚く風でもなく、ただ、優しげな表情を浮かべていた。
その後五僕らは色んなことについて話した。お互いのこと、
お互いの過去について、未来について、自分の事をこんなに開放して話すのは
初めての経験だった。
「ほんとのところは分からないんだ。今、何故、こんな生活をしているのか。だって、
誰かに決められたわけでも、こうして生活してて何らかの目的が定まっているわけでもないし、今はもう・・・」
彼女はただ、聞いてくれた。そこには、余計な音も、余計な沈黙も一切なかった。
「でも、何らかの意味は生まれてくるように感じている。こうして君にも会えたし」
「それで、あなたはこれからどうしたいの」
「わからない。正直言って、ほんとに分からないんだ。どうやって生きてゆけばいいのか」
「でも君が傍にいてくれれば、僕はどこだっていいような気がしている」
「それって、告白?」
彼女はそうやって笑った。笑ってくれた。

試み14

2008-02-11 08:56:52 | 試み
「おはよう。元気だった?」
僕はあいまいに返事する。まさかいきなり「君のことばかり考えていた。」とは言えないだろう?
彼女の声をずっと聞いていたかった。だから、一所懸命、僕は喋った。
彼女がしまいにはふきだしてしまうくらいに。
「どうしたの?さっきから本当に大丈夫?」
「いや、ただ話したいことが沢山あるだけなんだ。あれだったら聞き流してほしい」
「あれって?」
「いや、つまんなかったり、訳わかんなかったら聞き流してくれてかまわないってこと」
「まあ、たしかに、そういう部分はないとはいえないけど・・・でもあなたがそういう風に喋れるのわかって安心した」
「そう、ありがとう」
「いつも、そんなんじゃ困るけど」
そして彼女は少し待つようにいって、コンビニで昼食を買ってきてくれた。
パンと牛乳
時間にして5分位だったろうか。それらを僕は眺めていた。幸福だったのだ。
「やっぱり」と彼女は笑った。
「食べ方は変わらないんだ。目で味わってから、実際に口にする」
「なんで?」
「なんでって、」彼女はそうやってまだ笑っていた。
僕はそんな姿をしげしげと眺めていた。


試み13

2008-02-10 09:27:18 | 試み
時々、今何故こんなことをしているのか、自分でも分からなくなることがある。
どうして僕は、この目の前と直面しているのだ、一体。
何故、ある人に恋して、それは、この後も変わらないなんて信じているんだ。
僕はこれから何処へ行こうとしているのだろう。
 そういう不安は、いつもそばにある。
真昼の空は、どこまでも高い。僕の自己憐憫を溶かすようにある方向から、
ギターの音が聞こえる。どちらかというと伝統的な演奏で、歌声は伴わない。
 その音は、こんな僕さえ包んでくれる。
音楽は優しい。

音と声。現実の声というのは、どちらかというと凡庸だ。
それでも、他者が交わす日常性に溢れた会話は、しばしば、彼女のことを思いださせる。
それは、父親が子供を叱る声だったり、友人同士であろう会話だったり。
 声と音で世界は包まれている。
愛するもの達の。

試み12

2008-02-10 09:05:54 | 試み
人の声が聞こえる。大切な人の声が、全て大切な声だ。
今まで、僕は叫んできた、又、黙したままだった。
誰にも言葉が伝わらないと感じていたから。でも、
違うんだ。僕はあなたの声が聞きたいからこそ話すんだ。
僕は、君と話しているんだよ。多分、君と同じように。
そして、ある人の声が耳に残っている。実体がある、現実的な肉体を持ったある人の声が

君の考えていることは、少しは分かると思う。
僕も同じ悩みを抱いているから。多分、こういうことだろう?
 一体、どうすればいいんだ
次の瞬間、今、この瞬間も現実は続いているし、ありとあらゆる機能は働き、
社会は動いている。でも肝心な僕が動かなきゃ何も始まらない。
答えはないのだろう。たとえ、あったとしても、それは、自らは知覚しえぬものだろうと思う。
君と同じことを、僕はしたい。
なんでもいいから

試み11

2008-02-10 08:49:49 | 試み
人生への肯定を取り戻した近頃について。
相変わらず、生活は変わってない。だが、表面的なことは変わらずとも、今は、優しさに満ちていると
街行く人々と、話す機会があれば言われる事がある。

そんなものかな、と時々思う。
それは、昼下がりのサラリーマンが昼食を摂っている姿や、
夕暮れ時、恋人たちが連れ立って歩いてるときだ。
ふと、人生の豊かさについて、思いをはせる時が確かにある。
 いまこえをだして、自己の実感を語る。
僕はここにいていいんだ、ぼくはここにいる。
それは、以前のような無人島ではなく、他者が群れをなす現実世界においてだ。
僕らは同じものを見て、聞いて、味わっているのだ。

それでも、一人が続く。こうやって一人でいると
それが、この世界で最も崇高で気高く思われる。でも、
人間はそれを全て引き受けて生きれる程、強くはない。
ひとりきりの絶望。それを共有することは、誰であれできない。
ベンチに座って、こうやって一人でいると頭ではなく体で理解できる。
それは寂しくもあり、嬉しくもある。何とも形容しがたい時間だ。
僕は僕の存在事由を探し求めるだろう。

試み10

2008-02-09 17:08:12 | 試み
始まりは、いつも過去にあるのかもしれない。
そんなことを考えつつ、その柔らかな、午後を過ごした。
それは、眠りに似ていた。圧倒的な自己充足とそれに伴う具象性がいつまでも漂っていた。
何も考える必要も、思うこともなかった。
目覚めさせたのは、世界だった
現実だった
彼女が横にいた。

一人の女性を想い続ける。可能だろうか。自らが派生させる全てのものを
投げ捨て、一人を求め続ける。これまでも、これからも。
そこには、言葉はいらない。感情も、愛さえも、あるのは2つ肉体とお互いだけ
それ程、強く、彼女を思う。

そんな一日だった。少し話した後、別れただけだったが。二人を結ぶ何かは、
永久に続くようだった。まるで魔法みたいに、2人に夜が訪れた。
その時点で、実際の互いの距離は目に見えぬ程だったが。
恋に落ちている。まるで馬鹿みたいだけど。

試み9

2008-02-09 16:48:50 | 試み
おにぎりを百個買い求めることが、当事者のその後の人生に、どれだけの影響を
与えるだろうか。
僕には分からない。けど、
実際に僕と、悪友と呼べる人間でそれをやった。

「おにぎり強盗」
それが、奴の言い出した計画の1つだった。
夜、酒を飲みながらテレビを見てる時、突然奴が言い出した。
「コンビニ買い占めてえ」
僕は、現実的な問題点、買い占めても在庫は一人で処分できないのだから
結局、他者に譲渡するしかないことを指摘した。すると、一転
「じゃあ売らないのはどうだ。全く売らないのは」
勝手にしてくれと、内心呆れながら、僕は言った。
「それじゃあ、店長になるしかないな」
振り向きながら、奴は言い放った。
「いや、いまやるんだよ」

酔っていたことも手伝って、何が商品として一番インパクトがあるか、
2人の間で論争になった。
片方は「おでん」もう片方は「おにぎり」を推したが、
結局、僕が折れた。

犯行はその日の朝に行われた。奴は、片っ端から陳列棚から
おにぎりを持ち去っていった。
勿論、支払いは僕がすることになった。

「これだけじゃ、つまんねえな」
奴は不服そうに呟いた。サンクスのおにぎりをセブンイレブンでかえるようにすること
奴はひらめいたと同時に言った。
「コンビニ王への道はまだまだだな」

だが、酷い酔いと、疲労のせいで僕がその日一番仲良くしたのは、
コンビニのゴミ箱だった。吐いていたのだ。
その日は人生の中でゴミ箱と一番仲良くなれた。
そんなわけで、奴の計画がどうなったか、
その後のことを、僕は知らない。

試み000

2008-01-21 09:31:59 | 試み
朝日が、柔らかく射す。目覚めた実感はまだ、ない。
夢とうつつの間に、誰かがいるようにさえ感じる。

どれ程の時間が経っただろうか。言葉も全て流れてしまった。
僕に残されたのは、世界をのみこむような深い沈黙と、
おもかげ、それと中天に上がった太陽がつくり出す生命だけだった。

でも今は、わかる。自分の名前も、彼女の名前さえも。