崖っぷちロー

チラ裏的ブログ。ここは「崖っぷち」シリーズ・あん○ーそん様とは関係ありません。レイアウト変更でいろいろ崩れ中

フジテレビと韓流偏重問題

2011-08-24 19:58:59 | ニコニコ動画・ネットとか

 8月7日と21日のデモを頂点に、高岡蒼甫さんの発言に端を発するフジテレビと韓流偏重問題に対する盛り上がりがようやく落ち着いてきたようだ。この間、肯定・否定、批判・擁護含め様々な議論があったが、どうも一面的なものが多かったように思う。

 ある人はフジテレビ批判を韓流批判と捉え、嫌韓国・韓国差別の問題としてのみ考え、またある人はフジテレビ批判を公共の電波を独占(寡占)する放送局への批判の問題としてのみ捉える。

 だが、そのように一つの論点だけを取り上げて片付けることは適切ではない。インターネット上で盛り上がる言論一般に言える事だが、批判派も擁護派も決して一枚岩ではないからだ。今回の問題は多くのレイヤーが重なった問題であるということを、自分用のメモもかねて。(なお、このエントリは実証的ではないので要注意。)

1)韓国に対する差別感情・愛国運動
2)広告代理店・流行プロモーション批判 →ステルスマーケティング批判
3)マスメディア批判・地上波放送局批判
4)商業主義拝金主義批判 →行き過ぎた資本主義批判



1)韓国に対する差別感情・愛国運動
 これが最もピックアップしやすいく、分かりやすい論点だ。だから、気をつけないとこの論点が今回の問題の全てだと勘違いしてしまうことになる。反対に、この論点を見落としてしまっても綺麗ごとにしかならないだろう。注意すべきなのは、フジテレビ批判派やデモ参加者は一枚岩ではないということだ。

 デモの参加者の間でも、日の丸を掲げ、君が代を歌い、天皇陛下万歳を叫ぶ人もいれば、それは今回のデモには関係が無いとして批判する人もいる。フジテレビ批判派の中にも、韓国や韓国コンテンツそのものを批判する人もいれば、そのような姿勢を差別的だとして再批判する人もいる。

*追記
 江川紹子さんの「韓国の経済や、アジア市場への文化展開がうまくいっていることへの嫉妬の表われでしよう。文化的に偏狭な日本人の存在を内外に知らしめたのは非常に恥すかしい現象だと思います」というような意見もこのカテゴリの一種だろう。紙面の都合上その他の理由については省かれてしまっているのかもしれないが、ここに引用されている限りでは、やはり論点の単純化・矮小化と言える。
 参照:http://blog.livedoor.jp/newskorea/archives/1569037.html


*追記
 中村うさぎさんの記事は途中まではいい感じだが、最期の「それにしてもなぜ、今このタイミングで、韓流ブームヘの嫌悪が一気に高まってきたのだろう?ここで思い出すのは、関東大震災後の「朝鮮人虐殺事件」。震災後の不安が、異分子を排除する方向に向かっているとしたら…。うわ、似てる!何だかヤな感じがするぞ!」は妥当ではないし、蛇足。「韓流ブームヘの嫌悪」というまとめ方が誤りの原因。
 参照:http://raicho.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1314953895/

2)広告代理店・流行プロモーション批判 →ステルスマーケティング批判
 これは「韓流ゴリ押し」に対する批判なのだという形で、フジテレビ批判派によく取り上げられる論点だ。ここでは、「ゴリ押し」される対象が何であるかは問題ではなく、「ゴリ押し」されることそれ自体が問題になる。だから、「韓流コンテンツ」以外であっても、「ゴリ押し」があればそれは批判するという論理になる。(広告代理店批判はお決まりなので省略)

 これについては逆に、「ありとあらゆる主体がありとあらゆる物をゴリ押ししてきたのだから、フジテレビ/韓流だけを取り上げて批判するのはおかしい」というような反論があるが、それは小学生が叱られて「皆もやっている」と言い訳するのと同じである。

 だが、「ゴリ押し」批判には、普通の営業(プロモーション)と「ゴリ押し」をどこで区別するのか明確ではないという弱点があり、これは今のところ克服できていないのではないかと思う。批判者が「ゴリ押し」だと主観的に感じたら「ゴリ押し」だということでしかない。(だが、その主観的な違和感がこの運動に多くの人を動員する力になっているようにも思う。)

 そこで、ある時期からステルスマーケティングが悪いのだという方向に移ってきたようだ。これについてはMIAUの小寺信良さんがまとめている。
 参照:フジテレビの韓流ゴリ押しは事実か
 

3)マスメディア批判・地上波放送局批判
 これは最近目立つようになってきた論点だ。ビートたけしさんや岡村隆史さんのような有名人が「嫌なら見るな」という旨の発言をしたことに対して、作家の深水黎一郎さんがその論理は通用しないと批判したことで注目を集めている。(従来からあるマスメディア・マスコミ批判は略)

 参照:「韓流が嫌なら見るな」は間違っている 作家・深水黎一郎がフジ騒動を分析
 

 これに対してはさらに、元フジテレビ関係者の岩佐徹さんが再反論している。
 参照:「深水ツイート・考~リモコンの8を押さない選択も~」 
 

 深水さんはテレビ局が公共の電波を独占(寡占)していることを理由に「嫌なら見るな」は成立しないとしているのに対して、岩佐さんはその寡占によっても代替手段はなお残されており、命にはかかわらないことをもって「嫌なら見るな」は成立しているとしている。(テレビ局を一私企業として、経済合理性の観点からのみ論じるのは公共の電波論を見過ごしている時点で失当。)

 だが、岩佐氏の代替手段があるからテレビ局は何をしてもいい、見たくないなら見るなという理論は、あくまでもテレビ局(事業者)対視聴者(消費者)という構図によるものだ。これは深水さんが依拠するところの、テレビ局(事業者)対視聴者(国民)という構図に対する正面からの反論にはなっていない。

   視聴者(国民) → 国・政府 → テレビ局(事業者)
                        テレビ局(事業者) → 視聴者(消費者)


 岩佐さんの論理でいくならば、例えばテレビ局が過剰な量の広告を放送しても、視聴者は嫌ならば見なければ良いというだけの話になるはずだ。だがそうではない。例えばBSデジタルでは、総務省が放送時間の3割を超えて広告放送をしてはいけないとする。決して、広告を見るのが嫌なら見るなと言う話ではないわけだ。

 参照:○放送法関係審査基準の一部変更案
 

 これは国・政府によるテレビ局に対する規制だが、当然、国・政府というものは国民に依拠する。つまり、主権者国民である視聴者は、国・政府を通して、テレビ局に対して意見を言える(その内容を規制として実現でき得る)ということだ。

 そして、そのように民主主義の過程においてテレビ局に対して意見を言う/実現するためには、広く一般における言論が重要であることは言うまでもない。

 つまり、一視聴者として特定のテレビ番組を見る/見ないに関わらず、主権者国民として、本来的には国民の/公共の財産である電波を寡占的に使わせているテレビ局に対して、その放送内容等に対して意見を述べて良いということだ。

 もちろん、そのような過程を経てテレビ局への規制を実現するということは、表現の自由を侵害する危険性を帯びているのであり、最大限の注意をする必要がある。国民の望みによる(という形での)テレビ局規制が結局は国民の不利益になるということだってありえるのだから。

 今回のフジテレビはどの法律や規則に照らして妥当ではないのか、あるいは、どのような規制を新たに作るべきだというのか。そして、そのような運用や規制の制定にはどのようなメリット・デメリットがあるのか。そのような議論が今回のフジテレビ批判派には(もちろん擁護派にも)欠けているように思う。

 過去に韓国が行ってきたような、外国映画規制や日本の大衆文化の流入制限のようなことをやりたいのかどうか。

4)商業主義拝金主義批判 →行き過ぎた資本主義批判
 お決まりなので略。

***追記
「テレビ局の売上高が減少傾向にあることは承知している」フジテレビデモ総務省からの回答
 参照:http://getnews.jp/archives/139658

東日本大震災・災害派遣現場自衛官によるネット投稿記事

2011-04-14 11:58:59 | ニュース系
 最近、「災害派遣、現場自衛官から上がる悲痛な声 なぜ政府は現場が活動しやすいように手を打たないのか」という、現役の自衛官が書いたとされる一本の記事が話題になっているようです。
 見出しは以下の通りです。

1.被災地の実情
 被災者に生活物資を法外な値段で売りつける輩/少し力をかけただけでボロボロになる遺体
2.相変わらずの装備品不足
 ケガをしても抗生物質がない!/私物の携帯電話で連絡を取り合う隊員たち/懐中電灯も自衛隊員の私物/民間の建設機械を貸与してほしい/自衛隊に災害救助の予算はほとんどない/放射線防護服も絶対的に不足
3.10万人体制に問題あり
 10万人体制の結果、交代部隊が確保できない/陸路で東北と九州を何度も往復する自衛隊員
4.装備品は能力に適した使い方を(74式戦車と無人機の例)
 喧伝されたブルドーザーには向かない74式戦車/強力なサーチライトを生かすべし/米軍に頼らず自前の情報収集力を
5.隊員の生活例
 現場で活動する自衛官のためにお願いしたいこと


 著者は藤井源太郎と言う方で、この方はJBPRESSには3月18日付けと4月14日付けの計2本の記事しか投稿されていませんし、プロフィールにも「現役自衛官」ということしか書かれていません。所属も階級も不明ですし、そもそも「藤井源太郎」という名前も仮名でしょう。

 JBPRESSはその正体を知った上で秘匿されているのだとは思いますが、その正体が「現役自衛官」では無い可能性等も完全に否定できるわけではありません。そのような可能性にも留意して読む必要があるだろうと思います。

 とはいえ、その内容は読ませるものがあり、自衛隊の活動について多くの問題点が指摘されていて示唆に富んでいます。また、「1次派遣中に陸上自衛隊でも死者が出ました。災害派遣中に大量のご遺体を見て、いたたまれなくなっての自殺です。 」という情報はおそらく一般には報道されていないものであり、もし本当だとすれば重大なニュースだといえるでしょう。

 自衛隊には何ができて何ができないのか、今回の大震災に際して使えた装備必要な装備は何で使えない装備は何か、課題と対応策は何か等。防衛省自衛隊は政府に対して適宜報告し、要望を出していることと思われますが、広く国民の間で認識を共有する必要があります。そのためには、以前のエントリでも書いたように、いわゆる公刊戦史を作成し公開するべきではないでしょうか。
 参照:自衛隊「地下鉄サリン・イラク派遣・阪神大震災」関連書籍読了


***
 この記事が掲載されたJBPRESSは論考型の記事がメインのインターネットメディアであり、国防カテゴリには将・将補クラスを含め多くの自衛官OBが記事を寄せられています。例えば今回の記事の一つ前の記事を書かれたのは岡俊彦元海将です。

 もちろん記事の質にはバラつきもありますし、ある種のバイアスがかかっているものも多いとは思いますが、それでもなお自衛官OBがどのようなことを考えているかということを知る上で貴重なメディアだと思います。

東日本大震災と国家公務員のボランティア

2011-03-30 18:15:05 | ニュース系
 松本龍防災担当大臣が国家公務員に対して、「休日を活用して積極的にボランティア活動に当たるよう求めた」というニュースには驚かされました。「被災地では壊れた住宅の後片づけなどに人手が足りないからだ」というが、発想が根本的に間違っているのではないかと思います。
 参照:“国家公務員はボランティアを”

 この国家的な緊急事態において、国家公務員は全力でその業務に取り組んでいることと思います。休日をボランティア活動に費やしてしまうと、十分な休息ができなくなり、本来業務に支障が出るのではないでしょうか。このような緊急事態においては、適切な休息を取ることも仕事の一環だという認識が必要でしょう。

 ですが、もしも暇な国家公務員(部署)があるというのなら、その部署や人材をマンパワーが不足している部署に投入し、組織力の回復・向上を図るべきです。被災地の関連部署や地方自治体への応援などのために、組織的に国家公務員を派遣することは有用かもしれません。

 既に現地からはそのような応援の要望もあり、片山総務大臣は以下のように呼びかけています。
「被災地への国家公務員の派遣について、各府省に一層の協力をお願いしたい。日常業務に支障が出ない範囲でということではなく、ある程度日常業務に支障が生じても、職員をできるかぎり派遣してもらいたい」
 参照:“被災地に国家公務員増派を”

 あるいは、被災者支援・復興計画等を考えるため、現地に対する理解度を上げるため、邪魔にならない範囲で現地を視察することも意味があることかもしれません。

 しかし、それはあくまでも組織的な計画に基づくべきものであって、国家公務員個人を徒に住宅の後片づけやがれきの処理などに投入することとは全く異なります。そもそも、国家公務員は組織として機能すると絶大な力を発揮することができますが、ボランティアになってしまえば人間一人分の肉体労働しかできません。

 国家公務員が個人でボランティアをすること/させることは、精神的肉体的な満足感を得ることができるかもしれませんが、それは自己満足にすぎません。むしろ、国家公務員としての/国家公務員を率いる者としての職責の放棄といってもいいでしょう。

 松本防災担当大臣には以下の言葉が当てはまるのではないでしょうか。
 

 無能な働き者。これは処刑するしかない。
  ―働き者ではあるが、無能であるために間違いに気づかず進んで実行していこうとし、さらなる間違いを引き起こすため。

※追記
参照:こんな時に防災担当大臣が「更迭」された理由
「松本氏がやるべき仕事は、ほとんど仙谷氏がやっている。被災者支援の業務で官僚を呼びつけ、指示を出しているのは仙谷氏。松本氏は単なるお飾りと化しました」(官邸スタッフ)
という記事がある。
 事実関係はまだ明らかではないが、これが本当だとすると、無能な怠け者の代わりに無能な働き者がいるということか。

***
 この問題については、先のエントリにも書いたとおり、民主党全体が勘違いと自己満足に充ちているのではないかという懸念があります。国会議員等がするべきことは政策や法律を議論し、作ることです。肉体労働で自己満足させるために選ばれたわけではありません。

参照:宮城にボランティア派遣=民主
民主党は24日、被災地に党所属議員や秘書らをボランティアとして派遣することを決めた。まず27日に宮城県松島町へ30~40人を送り、津波の被害を受 けた公共施設の泥の撤去や大型資材の搬出を手伝う。これに併せてトイレットペーパーやプラスチック製バケツなど生活支援物資を届ける。

東日本大震災と亀井氏「軍政」発言

2011-03-29 01:06:23 | ニュース系
 国民新党の亀井代表の「誤解があるかもしれず、物騒(な言葉)だが、『軍政を敷く』くらいなことをやった方がいい。一番頼りになるのは自衛隊、警察、消防だ。そうしたことがしっかりした中でボランティアも機能する」という発言には驚かされました。その意味は自衛隊等のしっかりとした組織により強い主導性を発揮させろということであろうし、亀井氏本人も慎重に前置きをしてはいますが、『軍政を敷く』という言葉はやはり重いものがあります。
 参照:亀井氏、物騒だが「軍政を敷く」くらいなことを


 ここで『軍政』といわれると、まずは「戦争・内乱などに際し、軍が行政を担当すること」を意味すると考えるのが自然ですが、亀井氏としては関東大震災時の旧日本軍による戒厳をイメージしているのでしょうか。日本国内の災害に対処するという点では今回の大震災と共通しています。
 参照:デジタル大辞泉

 もっとも、戒厳では地方行政事務と司法事務の軍事に関係ある事件が軍隊によって掌握されますが、亀井氏も司法事務については考えていないでしょう。他方、今回の大震災に対応するための「軍政」であれば地方行政事務の掌握では全く不十分で、その意味では「軍政」に国家レベルでの行政事務の掌握を含ませているのかもしれません。

 そうすると、『軍政』の意味のうちの「軍事政権」という意味に近づくのかもしれませんが、もちろん、このような体制は現行憲法の下では許容されることはありません。

 また、そもそも現代のように極めて複雑化した国家の行政を自衛隊(や警察消防)が担うことには無理があります。太平洋戦争についても、戒厳令ひいては軍隊には、「進歩して複雑な機構となっている近代国家の運営を統制することは困難」であり、「特に総動員態勢業務の遂行には不適」だったという評価があります。(宮崎弘毅「日本・旧軍」大平善梧他『世界の国防制度』) 

 自衛隊は決して万能の組織ではありません。仙台の災統合任務部隊司令部では東北方面総監以下600名近い数の幕僚が集まっているということであり、今回の大震災に対して絶大な効果を発揮していますが、これ以上となるとかなり厳しいのではないでしょうか。

 政治(家)は自衛隊や警察消防に全てを押し付けて投げ出すのではなく、彼らが最善の活動をできるようにサポートをするべきでしょう。行政府立法府として、やるべきことは多いはずです。

 また、中長期的には、このような広域にわたる大災害に対応するためにどのような国家制度・地方自治制度を作るべきかということも問題になるでしょう。政治家はボランティアや募金活動などの肉体的なパフォーマンスをするのではなく、頭を働かせるべきです。

 参照:宮城にボランティア派遣=民主
    民主党は24日、被災地に党所属議員や秘書らをボランティアとして派遣することを決めた。

○道州制について
 おそらく、このような大災害に対しては、市町村レベルはもちろん都道府県レベルでも力が足りないのではないかと思われます。今回自衛隊が組織としてその力を発揮している要因の一つには、方面隊という広域を管轄するレベルが存在していることがあるといえるでしょう。

 また、地方行政としては、関西広域連合による支援が話題になっています。直接の被災地でない自治体も、都道府県市町村レベルではなくこのように広い範囲にわたって力を集めることで、より協力な支援に繋がっているのではないでしょうか。

 将来的には、このような関西広域連合の仕組みをより強化するため、道州制を導入するべきでしょう(もちろん道州制にすべき理由はこれだけではありませんが)。

 そして、その道州制の区分に応じて、警察や消防も広域にまたがる統制態勢を強化すべきでしょう。最終的には、道州区分と警察(管区)、消防(広域)、自衛隊(方面隊ないし師団等)が一致することが望ましいのではないかと思います。

※3月29日追加
軍事アナリストの小川和久さんのツイート
御意。日本版FEMA(危機管理庁)のブロックごとの出先が消防、警察、自衛隊を調整すれば実現します。 RT @j760339: @kazuhisa_ogawa 自衛隊とは別に、日本の各ブロック(関東、近畿、九州など)単位で編成される災害救助部隊が必要だと思いますが、どうでしょうか?
http://twitter.com/#!/kazuhisa_ogawa/status/52731430605819904

○戒厳について
 なお、戒厳等の制度の整理は北博昭著『戒厳その歴史とシステム』が分かりやすいと思います。

 まず大枠として、軍隊による治安維持全体を指す「非常警察」という概念があり、それが「戒厳」と「治安出兵」に分かれています。この「治安出兵」は軍隊が地方行政にも司法にもかかわらないもので、今日の自衛隊法78条以下における「治安出動」に引き継がれていると言っていいのかもしれません。

 他方、「戒厳」は、戦時等に使うための「戒厳令」に規定のある「真正戒厳」と、平時の緊急事態に対応するための「行政戒厳」に分かれます。この「行政戒厳」は法令等に直接の規定がなく、「戒厳令」を目的論的に(苦しい)解釈をして正当化されるものです。

 関東大震災に対しても、この「行政戒厳」が使われました。
 
非常警察
 ├戒厳
 │ ├真正戒厳
 │ └行政戒厳
 │
 └治安出兵

東日本大震災と犯罪

2011-03-21 19:00:35 | ニュース系
***6月9日追加
以下のような報道がなされました。
福島県の侵入盗42%増=原発事故が影響か-警察庁
東日本大震災以後の3~5月に、福島県で発生した侵入盗事件が、前年同期比42.4%増と急増したことが9日、警察庁のまとめで分かった。警察当局は、福島第1原発周辺で住民が避難した無人地帯などのパトロールを強化している。
 同庁によると、震災で甚大な被害を受けた岩手、宮城、福島の3県で3~5月、住宅などに侵入した窃盗事件は、前年同期比17.5%増の1664件。このうち、原発事故で周辺住民が避難するなどした福島県では、同42.4%増の695件だった。
 強盗や強姦(ごうかん)などを含めた3県の刑法犯認知件数全体では、16.7%減の1万394件。同庁は「全体として治安が大幅に悪化している状態ではない」としている。


***4月1日追加
警察庁がデマについて以下の様な文章を公開しました
○ 被災地では強盗や強姦が増えている?!
  →デマ 被災地で強盗や強姦が増えたという事実はありません。
○ 被災地では、ナイフで武装した外国人窃盗グループが荒らし回っている?!
  →デマ 被災地に窃盗グループが大挙して入り込んでいるような事実はありません。
○ 被災地で殺人や誘拐が起こっている?!
  →デマ 現在までのところ、被災地で殺人や誘拐は起こっていません。
 参照:震災に関する不確かな情報の具体例とその対応策


***以下、本文です
 東北地方太平洋沖・中越地震(東日本大震災) 発生後の日本人の行動については、その秩序だった様を賞賛する意見が多く見られます。確かに、救助物資や炊き出しを配る際にも大きな混乱はなく、また、救援活動に携わる自衛隊が自衛のための武器を携行する必要が無いことは事実です。

 参照:「米国は日本から何か学ぶべき」 米ニューヨーク・タイムズが論評


 しかしながら、数日たって、少しずつではあるが被災地等で犯罪(的)行為が行われているというニュースが出始めています。これらの行為については、何通りかのカテゴリーに分類することができるように思われます。(以下は全て可能性にすぎず、より詳細な検証が待たれます。)

(1)生命を維持するためにやむを得ない行為

参照:【地震】倉庫から食品等を盗む人たち / 持ち主の前で堂々と盗む

この記事では、宮城県・仙台の倉庫から粛々と食料等を盗む人々の様子が動画で紹介されています。

参照:物資不足で被災地の盗難増加 ガソリンや食品など被害
宮城県北部の被災地では、男子高校生4人が、自動販売機を壊し、ウーロン茶やコーヒーを取り出しているのを記者が目にした。4人は避難所に持って行き、高齢者らに配って回っていた。当時、食料も水も行き渡っていなかった。

 詳しい状況は分かりませんが、これらの行為の中には当該犯罪的行為に出なければ生きることができないという場合、言い換えれば、生きるためには他の適法な行為をする余裕が無い場合が含まれていると考えられます。このような場合には、詳細な検討が必要ですが、適法行為の期待可能性がないと評価する余地があるかもしれないでしょう。

(2)震災に乗じた行為
参照:東日本大震災:八戸、留守被災宅で窃盗被害11件 /青森

津波被害を受けた八戸市内の住宅地で14、15日に盗難被害が11件相次いだことが県警の調べで分かった。大型テレビや貴金属など32点が盗まれ、被害総額は計約60万円。県警はパトロール回数を増やして警戒している。

参照:略奪相次ぐ、石巻署が警戒 貴金属やレジの現金、食料品
貴金属店では、浸水がなくなった後、残していた大半の貴金属や高級腕時計などが盗まれた。

参照:倒壊の信金支店から4千万円窃盗 気仙沼(22日追加)
22日午前10時ごろ、宮城県気仙沼市松崎片浜の「気仙沼信用金庫」松岩支店の職員が「金庫から金が盗まれている」と気仙沼署に届けた。同署員が調べたところ、金庫から約4千万円が盗まれていた。同署が震災に乗じた窃盗事件として捜査している。

 これらは不要不急の行為であり、いわゆる「火事場泥棒」です。このような行為が正当化されることは無いと思われます。

 なお、今回のような大規模災害が起こると、決まって性犯罪が発生しているという噂が流れます。しかしながら、現在のところ確認できるのは「岩手県大船渡市の避難所では、少女がトイレに行こうとして、後ろから体を触られる事件」くらいではないでしょうか。

 阪神淡路大震災の際にも強姦等の性犯罪が多発したという噂が流れましたが、今日では否定する見解が強いです。全く無かったとはいえないでしょうし、警察が事件を認知しづらいという問題もあるでしょうか、噂ほどではないということでしょうか。
 参照:[日記]阪神淡路大震災の混乱に乗じた強姦はあったのかしらという話


※24日追記
参照:24時間警備、バリケードも=「自己防衛しかない」-震災乗じた窃盗対策-宮城
県警によると、震災後10日間の110番件数は平常時の2.6倍、店を荒らす窃盗は3倍に上っており、応援を含め約100人態勢でパトロールを強化している。
どこまで正確な数字なのかは分かりませんが、この数字を前提にすると、大震災の前後で犯罪件数に有意な差があるといえるでしょう。

一方で、以下の様な記事もあります。
参照:震災被災地、やむにやまれぬ略奪が増加
宮城県警によると、通報を受けて200件以上の盗難事件を捜査したが、そのほとんどが侵入しようとしているのは家屋や自動車の実の持ち主であった。

※4月13日追加
参照:【地震】停電の隙に住宅に侵入し女子学生に暴行
盛岡市で、7日の余震による停電の隙を狙って10代の女子学生の部屋に侵入し、乱暴をしたとして29歳の男が強姦などの容疑で逮捕されました。

参照:岩手の自警団 バール振りまわす火事場泥棒をボコボコにする
自警団5人は、男を取り囲んだ。すると男は手に持っていたバールを振り回す。
ただし、5人も護身用に鉄パイプを持っている。大立ち回りの末、男は自警団に取り押さえられたという。
問題はその後だった。
「男に対して5人は殴る蹴るの暴行を加えたんです。男は既に無抵抗だった。私は『もう、やめないと危ない』といったんですが、自警団のリーダーは『おう、こんな奴、死体にして転がしておいても、今ならわからんだろう』って。相当熱くなっていました」

 この記事がどこまで信頼できるものか分かりませんが、仮にこのような事実があったとすれば、自警団側も罪を問われる可能性がある事案です。記事によれば、警察はこのような自警団側の行為を見逃したということですが、正当防衛ではなく過剰防衛とされ得るのではないでしょうか。

(3)被災地とは無関係の行為
参照:遊ぶ金ほしい…女子高生コンビニ震災募金箱盗む
東日本巨大地震の被災者支援のため、コンビニエンス店に置かれていた募金箱を盗んだとして、相模原署は20日、相模原市中央区の女子高生(16)を窃盗の疑いで緊急逮捕した。

参照:大震災の義援金箱盗み2人組逃走 福岡の牛丼チェーン店
20日午後8時5分ごろ、福岡市城南区片江の牛丼チェーン店で、男が東日本大震災の義援金約2万円が入った募金箱を持ち去った。

参照:店内の震災募金箱が盗難 大分のスーパー・福岡の牛丼店

21日午前6時ごろ、大分県杵築(きつき)市山香町(やまがまち)のスーパーマーケットで店内に置いていた東日本大震災の義援金の募金箱がなくなっていると、出勤してきた社長(38)が近くの駐在所に届け出た。県警日出署が窃盗事件として調べている。

これらは普通の犯罪行為ではありますが、道徳的な非難が強いものと言えるでしょう。

※24日追加
参照:警視庁震災を口実とした「だまし・不審事案」事例!!
警視庁では、東北地方太平洋沖地震を口実とした「だましの電話や不審者の訪問」事案をまとめて公開しています。

***
なお、松島悠佐元中部方面総監は『阪神大震災 自衛隊かく戦えり』の中で以下のように書いています。

被災地の治安は全般的には守られていたが、地域によっては火付けや泥棒、あるいは婦女子を狙った通り魔などが横行していた。避難をして空き家になった所に入り込む泥棒も多く(略)。

避難所の状況も、管理がしっかりしている所と、そうでない所との差が大きかった。表面的には規律が守られているようでも、窃盗などがひんぱんに起こっている避難所もあり、また学校の避難所に集積していた被災者用の物資がゴッソリ盗まれたこともあった。そういう場所では自衛隊員による夜の巡回を頼まれ、実施しているところもあった。


***
なお、外国人犯罪者が多いという噂もありますが、そのような事実は阪神淡路大震災においても今回の大震災においても確認されていないのではないでしょうか。
関東大震災の例を出すまでもなく、規律正しい日本人と犯罪を行う外国人という構図は極めて危険です。

東北地方太平洋沖・中越地震(東日本大震災)について

2011-03-14 09:57:24 | ニュース系
平成23年3月11日14時46分頃に発生した東北地方太平洋沖・中越地震(東日本大震災)について

○自衛隊の動員について
 自衛隊の動員が遅い等の意見が散見されますので、阪神大震災時に自衛隊を指揮した松島悠佐元中部方面総監著『阪神大震災自衛隊かく戦えり』より、参考までに(162~163頁)。
 ※様々な条件により変動する

・部隊の出動準備に要する標準的な時間
偵察部隊(ヘリ・地上) 30分~1時間
中隊(人員100人、車両20両) 2~3時間
大隊(人員200人、車両40両) 4~6時間
連隊(人員500人、車両100両) 5~8時間

・集中に要する時間
師団(人員3500~4500人、車両800~100両)  約1~2日
方面隊主力(人員1万6000人、車両3500両) 約3~4日

 今回の大震災においては、「13日午前6時現在、被災地周辺で陸自約3万人、海空では約1万人。艦艇は43隻が現場海域に到着しており、航空機は準備中を含め約190機を動員している。 」というから、阪神大震災当時とは様々な条件が異なるが、かなり早くなったのではないだろうか。防衛省発表の数字ではこれよりも少ないが。

 参照:平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震に対する自衛隊の活動状況(06時00分現在)
 参照:自衛隊10万人「不可能」な人数を投入 (2/2ページ)


 総理大臣から命じられた10万人の動員については、そのモデルとなった「首都直下地震対処計画」 では「最大で陸自は約11万人の部隊などを被災地域に集中し、海自は最大艦艇約60隻、航空機約50機を、空自は偵察機、救難機、輸送機など約70機を運用する」こととなっている。
そのため、短期的には可能であるが、部隊のローテーションなどを考えると、長期的な持続は困難なのではないかと思う。

防衛白書22年度版
http://www.clearing.mod.go.jp/hakusho_data/2010/2010/index.html

○情報の入手先について
 これらの官公庁発表の情報にアクセスしていない人が意外と多いように思われます。
・総務省 「重要なお知らせ」にて消防庁の資料が随時更新、その他情報
 http://www.soumu.go.jp/
・防衛省 「おしらせ(報道資料)」にて活動の情報等を随時更新
 http://www.mod.go.jp/
・厚生労働省 TOPページから
 http://www.mhlw.go.jp/

 移動中などの事情によってテレビやラジオからニュースを入手できない場合、携帯電話を利用してニュースサイトを見たり、(携帯電話で)ツイッターを閲覧することが有用だと思われます。ツイッターを利用する場合、比較的信頼できるマスメディアや官公庁のアカウントのみをフォローするべきでしょう。

○デマについて
 ツイッターを初めとするネット上では、さまざなデマが流れている。中には、少し調べればすぐに嘘だと分かる物もあり、情報源や他の情報をきちんとチェックすることが必要である。
 例えば、支援のために日本に向かっている空母ロナルド・レーガン(CVN-76)の写真としてhttp://livedoor.2.blogimg.jp/newsjapanese/imgs/9/d/9d94f64f.jpgが出回ったが、艦橋に書かれた番号は73であり、空母ロナルド・レーガンのものではない。結局、この写真は空母ジョージ・ワシントン(CVN-73)が08年9月に横須賀に入港したときの写真であった。

荻上チキさんがデマをまとめている。
参照:東北地方太平洋沖地震、ネット上でのデマまとめ

***15日追記
独立行政法人 放射線医学総合研究所が今回の原子力発電所の事故について、対応策等を発表しています。お知らせ欄で赤字になっています。「ヨウ素を含む消毒剤などを飲んではいけません-インターネット等に流れている根拠のない情報に注意-」や「東北地方太平洋沖地震に伴い発生した原子力発電所被害に関する放射能分野の基礎知識」など。
独立行政法人 放射線医学総合研究所


漫画・同人誌電子化スペース「自炊の森」問題2

2010-12-30 16:30:47 | ニュース系
3.「自炊の森」とファイル交換
 このような「自炊の森」型サービスを利用するメリットとしては、利用者は適法らしいという一応の安心感を得ることが出来ること、ログから利用状況を追跡されないこと、ファイル交換共有ソフトを経由したウイルス感染のリスクがないこと、ファイル交換共有のネットワーク上には出てこないような専門書・古書の「自炊」がやりやすいことなどが挙げられる。

 反対にデメリットとしては、現実にその店舗まで足を運ぶ必要があること、店舗側が用意している範囲外の物は自分で現物を用意する必要があること、店舗側が用意する現物は徐々に劣化すること、自ら「自炊」作業を行う必要があること、有料であることなどが挙げられる。

 私の勝手な印象でしかないが、専門書・古書の「自炊」をするようなコアユーザー以外は、多くの場合「自炊の森」型サービスよりもファイル交換共有サービスを利用するのではないだろうか。また、「自炊の森」型のサービスがその事業規模を拡大するためには現実の店舗数を増やす必要がある。そうすると、著作権者に対する打撃は現実にはそれほど深刻なものにはならないのではないかと思う。

 むしろより深刻なのはネット上でのファイル交換共有サービスであり、これに対抗することができれば「自炊の森」型サービスにも自ずと対抗できるのではないだろうか。

4.対策としてのJコミ
 ファイル交換共有サービスに対しては、電子書籍・コミックの市場を適切に構築することがまず必要である。新刊コミックの電子化を望むユーザーはもちろん、専門書・古書の「自炊」をするようなコアユーザーをも正規の販売ルートに誘導することができるだろう。

 また、電子書籍・コミックの最大の弱点は有料だということであるが、これに対しては、漫画家の赤松健氏が主導する「Jコミ」というサービスが有力な対抗策になると考えられる。「Jコミ」は電子ファイルに広告をつけて無料で配布するサービスだから、有料であることに抵抗のあるユーザーも獲得できる。
 参照:Jコミコンセプト
 
 現段階では利用できる作品数は極めて少ないが、今後充実していくことが期待される。また、二次創作の同人誌と原著作物の著作者とを結びつけることも検討されており、その点でも期待される。

 実際に固まってはいないがこういうアイデアがあるというものがあれば教えていただきたいのですが。
赤松 前から言ってるのが「同人誌」ですね。

 参照:Jコミで扉を開けた男“漫画屋”赤松健――その現在、過去、未来(後編) (3/4)

 とはいえ、有料かつ新刊(古書)の電子書籍・コミックと、無料かつ古書(絶版)の「Jコミ」の組み合わせでは、無料かつ新刊の電子ファイルを望むユーザー層に対応することはできない。新刊書籍・コミックの電子ファイルを無料で配布するなら広告料に頼るしかないが、それは極めて厳しい。新刊書籍・コミックの電子ファイルをアップロードする大量の人間に対して刑事民事の両面んで迅速に対応できる体制を構築するほかない。

@Hideo_Ogura 小倉秀夫 (HIDEO OGURA)
おそらく、それが一番健全です。自炊の森のビジネスモデルって、Jコミには勝てませんし。RT @KenAkamatsu: Jコミの新型コミックビューワーで、「自炊の森」を倒したいです。(こちらは無料だし、作者がズルズル儲かるし)

参照:http://twitter.com/#!/Hideo_Ogura/status/20257864283066368

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漫画・同人誌電子化スペース「自炊の森」問題1

2010-12-30 16:23:13 | ニュース系
 2010年12月27日にプレオープンした「自炊の森」 という店がネット上で話題となっている。同店は、紙媒体のマンガ単行本や同人誌などを電子化するいわゆる「自炊」の場を利用者に提供するサービスを行うという。

 これに対しては、従来の「自炊」は一個人が自分の蔵書を自宅で電子化することを指していたのであり、公の場で店舗側から書籍を借りて電子化するのは「自炊」といえないのではないか、法的にあるいは道徳的に問題があるのではないか等の点で批判が集まっている。
 参照:店内の漫画を「自炊」するレンタルスペースが仮オープン、裁断済み書籍を提供、ネット上は懸念の声多数


0.要旨
 1)解釈と事実認定により著作権法上合法であるとも違法であるとも言える。
 2)「自炊の森」モデルは利用者から見て無駄が多く、著作権者等に対する打撃も小さい。
 3)むしろ重要なのはWEB上での違法なファイルの共有への対抗策を考えること。
 4)違法なファイル共有に対抗できれば、「自炊の森」モデルにも対抗できる。
 5)赤松健が主導する「Jコミ」が有力な対抗策の一つである。

1.基本構造
 この「自炊の森」のサービスについては、「私的使用のための複製(著作権法30条)には該当しない違法なサービスであることは明白である」といった意見が散見される。しかし、これはそこまで単純な問題ではない。

 前提として、同店で提供されるコミック・同人誌は著作物(美術著作物、10条1項4号)であり、それぞれの漫画家が著作者・著作権者である。著作権には複製権(21条)が含まれており、著作物たるコミック等を複製することは複製権の侵害になる可能性がある(無許諾という前提)。
 
 対して、著作権法は著作権を制限する規定を設けている。30条1項により、「私的使用」目的の場合には適法に著作物の複製をすることができる。しかしながら、30条1項は同時に例外も設けており、公衆の使用に供することを目的として設置された自動複製機器を使って複製した場合(30条1項1号)は、違法となる。また自動複製機器を使用させた側は119条2項2号。
 ただし、附則5条の2により、「自動複製機器」には専ら文書又は図画の複製に供するものは含まれないとされており、コピー機やスキャナなどはこれによって適法となる。

 とすると、今回問題となっている「自炊の森」も、スキャナによる複製であるから、附則5条の2によってその行為は適法であるということになるはずである。当然、「自炊の森」経営側は、この論理で自らの行為が合法であると主張している。

 コンプライアンス的には、店内の書籍を利用者が店内で自分の体を使って複製する事については、問題無いという認識です。
 参照:http://twitter.com/#!/jisuinomori/status/19078686099644417
    http://twitter.com/#!/jisuinomori/status/19079066845974528

 原則:21条で複製権侵害で違法
 例外:30条で私的使用目的の複製は合法
 その例外:30条1項1号で自動複製機器による複製は違法
 その例外:附則5条の2でスキャナによる複製は合法

2.カラオケ法理
 しかし、上記の論理は、あくまでも複製の主体は個々の利用者であると考えた場合の論理である。著作権法の解釈では、演奏権等が問題なった事例を中心に、著作権侵害の主体を規範的に捉えて侵害主体の範囲を拡張するという論理がある。
 これが俗にいう「カラオケ法理」である。「管理・支配」性と「利益の帰属」性を要件として、それが満たされた場合には、現実に歌唱(侵害行為)を行っている利用者とは別にカラオケ店等の経営者を歌唱(演奏)の主体として捉えるというものである。
 この法理を更に推し進めて今回の問題にも持ってくるのであれば、現実に複製行為を行う個々の利用者とは別に、「自炊の森」経営者を複製行為(複製権侵害)の主体として捉える余地があるということになる。

小倉秀夫弁護士や福井健策弁護士もこの点を問題としている。
参照:Togetter「自炊の森」問題に関する専門家の見解
    

@Hideo_Ogura 小倉秀夫 (HIDEO OGURA)
唯一の争点はそこだと思っているのですが。そこで館内コピー論争が出てきます。RT @mohno: 自炊の森にはカラオケ法理を適用できる可能性があるということですか?

参照:http://twitter.com/#!/Hideo_Ogura/status/19955050478571521

@fukuikensaku 福井健策 FUKUI, Kensaku
ただ、貸与でないというならお店側が裁断本を管理していることになり、そこが書店店頭のスキャン機材と違う。機材も本もお店の管理下でお客にスキャンだけさせて料金を取るとなると、お客に歌わせるカラオケ店の商売と似るか。 自炊スペース http://bit.ly/heJqgw

参照:http://twitter.com/#!/fukuikensaku/status/20008728493293568


 ここで、小倉弁護士のツイートに「館内コピー論争」という言葉が出てきている。これは図書館内で利用者がコピー機を使って複製をする行為をどう捉えるかという問題である。一方で利用者が図書館による管理を離れて主体的に複製する場合には30条の要件を満たせばそれによって適法になるという見解であり、他方で図書館においては31条が優先するという見解がある。結論としては前者の見解でいいのではないかと思う。

 更に、31条で図書館が複製の主体となるにはどの程度の実体が必要かという問題もある。図書館の主体性の認定と、カラオケ法理による「自炊の森」経営者の主体性の認定とをどのように整合させるかが問題になるだろう。
 
 複製による電子化を直接の目的とした店舗であること、複製を強く勧誘していること、店頭に在庫してある本は予めスキャンしやすい様に裁断済みであることなどの、図書館内でのコピーとは異なる事情をどこまで斟酌するかによって結論も変ってくるのではないかと思う。

 なお、小倉弁護士は比較対象としてコンビニ内のコピー機も上げておられるが、これは「管理・支配」性の点でかなり大きな違いがあるのではないかと思う。

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東京都青少年健全育成条例と表現の自由問題6

2010-12-16 23:28:45 | ニュース系
 東京都青少年健全育成条例改正案可決に対しては、角川書店など大手出版社が東京国際アニメフェアへの参加拒否を表明していたが、更にアニメ制作会社へも不参加要請が行われるなど抗議活動の規模が拡大する様相を呈しており、これには菅首相も言及せざるを得ない状況となっている。

参照:アニメフェア、集英社が制作会社に不参加要請
参照:菅首相、ブログで都条例に言及 「アニメフェアが東京で開催できない事態にならないよう努力を」

 このような動きに対して、東京都の担当者は以下のような反応をしているとのこと。
 ニュース23クロス」の取材に対し、「アニメフェアへの参加拒否は理解に苦しむ。子供を守るための条例であって、このような形(参加拒否)になって非常につらい」と答えています。
 参照:http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye4601332.html(引用元記事消滅)
     →http://tokyo-ethno.jugem.jp/?eid=3536

 規制する根拠も極めて薄弱であると言わざるを得ない状況の中、本条例改正案は本当に子供を守るためのものだったのか。陰謀論に陥ってはいけないが、更に検証する必要があるだろう。その意味で、愛媛新聞社の下記の記事はポイントがまとめられている。

 今回の改正論議が一貫して行政主導で進んだことから、摘発強化に重点が置かれたのは明白だ。条例を所管する都の青少年・治安対策本部は警察幹部OBがトップを務め、警察庁出向者もいる。
 親が有害と感じるものを子から遠ざけたい思いは自然だが、懸念はたいてい取り越し苦労である。表現物の性的描写と実際の性犯罪とは何ら因果関係 を見いだせないとするのが定説だ。何が有益かを判断する力は、家庭や地域が学びの機会を与え、多様な情報に触れる中で子自身が磨いていくものだろう。
 この条例が守るのは子ではなく、親のかりそめの安心、警察の威厳ではないか。

 参照:都の漫画規制条例 守ったものは子ではなく大人


 また、以下の記事では、都議会本会議に傍聴に来ていた14歳女性の意見が掲載されている。14歳女性といえば、まさに本条例が守ろうとしている「青少年」に該当する人間である。客観性のある資料というわけではないが、一つの参考になるだろう。
 「もうホント、ふざけるなって感じです。私は青少年っていうか未成年なので、本当に(私たちの気持ちを)無視しているとしか言いようがない結果ですね」
 参照:「ふざけるなっ」14歳女子も怒る都条例 「議会傍聴者」に意見きいてみた


*** 
 この都議会本会議でも傍聴者に取材した記事を掲載しているのは、総務委員会に引き続き、ニコニコニュースである。既存の新聞社や通信社ではなかなか配信しにくいであろう「やわらかい」記事であるが、こういう記事にこそ新しいニュースメディアとしての価値があるのではないだろうか。

東京都青少年健全育成条例と表現の自由問題5(可決)

2010-12-15 20:50:42 | ニュース系
 連日話題になっていた東京都青少年健全育成条例改正案は、2010年12月13日に都議会総務委員会で可決(賛成11、反対2 )、同月15日に都議会本会議で可決され、成立した。自民、公明、民主が賛成、共産党と生活者ネットワーク・みらいが反対。

 参照:青少年条例改正案 委員会で可決
 参照:性描写漫画販売規制 東京都の条例改正案が可決、成立

 可決に際しては以下のような付帯決議が付けられている。
 第七条第二号及び第八条第一項第二号の規定の適用に当たっては、作品を創作した者が当該作品に表現した芸術性、社会性、学術性、諧謔的批判性等の趣旨を酌み取り、慎重に運用すること。
 また、東京都青少年健全育成審議会の諮問に当たっては、新たな基準を追加した改正条例の趣旨に鑑み、検討時間の確保など適正な運用に努めること。

 参照:第百五十六号議案 東京都青少年の健全な育成に関する条例の一部を改正する条例に付する付帯決議


 この付帯決議は、「『表現の自由を侵す恐れがある』との批判を受け、慎重な運用を求める付帯決議が付けられた。 」(上記朝日新聞記事)などと説明されているが、このような付帯決議が付けられなければならないという事実が、本条例の問題点を明らかにしている。慎重な運用を求めるということは、裏返せば、慎重では無い運用も可能な条文であるということに他ならないからだ。

 条文が曖昧であるために、運用に幅ができ、そこに公権力の恣意が入る余地がうまれ、またどこまでが規制の対象となるか分からないために萎縮的効果が生じてくる。これこそ、規制反対派が問題視してきた点はないか。この付帯決議は、前回否決に回った民主党に依るところが大きいと思うが、ならば更なる議論を続けるべきではなかったか。

 付帯決議の前段は、これを条文に組み入れることはできなかったのか。改正案の公開から議決までの日数が少なかったことが影響し、より良い条例改正案の成立が阻害された可能性もある。
※追記
  民主幹部も「来春の統一地方選が控えており、PTAなど保護者の意向を無視して引き延ばすことはできない」と影響があったことを明かした。
  参照:都職員の説得奏功 性描写規制条例 石原知事「大人の責任」

 後段については、民主党小山有彦都議 が①審議会委員が内容を吟味できるよう、対象漫画本を委員に事前配布すること、②審議会の公開ことを要求したという。特に後者は、審議会の公平性透明性を担保する意味でも極めて重要な要求である。都民・国民に見られて困るようなことをやっていないのであれば、広く公開するべきである。
 参照:都青少年健全育成条例改正案:都議会委可決 付帯決議で慎重運用要求 /東京

 (11年1月12日追記)
 審議会の公開という点について、東浩紀氏は審議会等のネット中継及び視聴者の意見のフィードバックを東京都副知事の猪瀬直樹氏に提案している。先に行われた事業仕分けの<UST中継+ツイッター>の組み合わせに近い発想であるが、東氏はこれをルソーという古典の読み替えを行うことで根拠付けようとしている(現在雑誌『本』紙上にて連載中の「一般意志2.0」)。
 この提案が実際に都政に反映されるかは不明だが、まずはネット中継だけでも導入されるべきである。
 参照:Togetter-東氏、猪瀬氏に提案をする

***
 本問題に関しては、ニコニコニュースも踏み込んだ記事を配信している。総務委員会を傍聴していた人について記事にしたのはニコニコニュースくらいではないだろうか。また、都議会総務委員会のインターネット生中継が拒否された経緯についても書かれている。
 傍聴していた女性は「私たちはがんばって想いを届けてきたので、聞いた瞬間に悲しくなりました」「この件はむしろ女性に与える影響が大きい」と涙をこぼした。また別の女性は「何か私たちが悪いことをしているのかな」と目に涙をためながら、うつむいた。
 参照:都条例改正案、総務委で可決 「私たちが悪いのかな?」傍聴女性の目に涙
  

***
札幌税関事件判旨PDF(最高裁判決昭和59年12月12日)
「表現の自由を規制するについては、基準の広汎、不明確の故に当該規制が本来憲法上許容されるべき表現にまで及ぼされて表現の自由が不当に制限されるという結果を招くことがないように配慮する必要が」ある。

 なお、今回の都条例問題について、「検閲」という概念に言及される場面が散見される。判例上「検閲」の概念はとても狭いので注意する必要がある。
 「憲法二一条二項にいう『検閲』とは、行政権が主体となつて、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査した上、不適当と認めるものの発表を禁止することを、その特質として備えるものを指すと解すべきである。」