すきま医学(niche medicine)

日常診療で気付く、成書では解決されない、医学・医療のニッチな疑問点をエビデンスを基に考察します

加齢に伴い味覚は低下するのか?

2017-06-26 21:24:50 | 基礎医学

私は食べることが大好きなのですが、味覚の低下を年々自覚しております。ところが世間では、年配の食通の方々がたくさんおられます。味覚も五感の一つですから、「加齢に伴う衰えがあるのでは?」と疑問に思い調べてみました。

 

味覚とは、水溶性の味物質が舌や口、喉の表面に分布する味覚受容器(味蕾)の味受容体を刺激することにより生じる感覚のことです。「甘味」、「旨味」、「塩味」、「苦味」、「酸味」の5種類の基本味(「脂肪味」を6番目の味覚に加えるべきという意見もあります。ちなみに「辛味」は痛覚の一種です)がそれぞれの受容体に与えた情報は、神経を介して脳の大脳皮質にある「第1次味覚野」まで伝達され、味の質や強さが認識されます。

 

同時に、「第2次味覚野」にも送られ、嗅覚、視覚、触覚、温度覚等の情報とも統合され、味物質が総合的に認知されます。さらにその情報は「扁桃体」にも送られて味の好き嫌いの判断やその学習が行われます。受容体以降の神経生理学的詳細は成書を参照して下さい。ちなみに、味蕾は全ての味を感じることが出来るので、今日では、場所による味覚の偏在を示した「味覚分布地図」説は否定されております。

 

動物にとって味覚とは、生きるために必要なものを取捨選択する能力の一つです。「甘味」はエネルギー、「旨味」はタンパク質、「塩味」は体液バランスのためのミネラル、「苦味」は毒性、「酸味」は腐敗の存在を示す味の信号とも考えられます。味蕾の数は生後3カ月がピークで成人の約1.3倍(ちなみに高齢者は成人の約0.5倍)です。食物情報のない乳児は味覚が鋭敏で、舌で判断することで、危険な食品を避けることが出来るのです。乳児が「苦味」に嫌悪感を示すのもよく分かります。

 

逆に高齢者は「苦味」に寛容で、「濃い味付け」を好む傾向にあります。味蕾は舌の上に残るだけになるので、味覚がやや鈍感になるのと知識や経験を使って脳で味わうことが出来るからかも知れません。食通と呼ばれた人々を対象とした味覚テストの結果に愕然としたTV視聴者の方もたくさんいらっしゃるかと思います。「目隠しをされては、彼らの舌も宝の持ち腐れ」です。

 

もともと人間は本能的に「甘味」や「塩味」、「旨味」を好みます。これは母乳やミルクの栄養成分であり、他の味覚に比べて早く発達していきます。その反対に「苦味」や「酸味」は本能的に嫌うように出来ているのです。しかし、本能的に嫌っていた味も味蕾が減るに連れて刺激が和らぎ、同時に慣れてくることによって味覚が発達していき、人によっては好物へと変わっていきます。つまり、経験や学習、記憶によって新たに得られる後天的な味覚があるのです。

 

 



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