〈朝鮮大学校創立60周年・世代を超え活躍する人々(2)〉
弁護士・金銘愛さん
「闘ってくれ」ハルモニの思いを胸に
1999年、朝鮮大学校政治経済学部に法律学科が創設されてから17年。昨年も6年連続となる弁護士(1人)と司法書士(3人)の合格者が出るな ど、同胞社会の生活と権利を守る法律専門家たちが同学部から数多く輩出されてきた。現在、法律学科の司法試験合格者は15人(男子8人、女子7人)、司法 書士試験合格者は8人(男子6人、女子2人)に及ぶ。
同学科を卒業し2014年に弁護士資格を取得した金銘愛弁護士(法律学科8期生・28)もその一人。
2013年当時、金弁護士を含む法律学科8期生3人が司法試験に見事「一発合格」。同じ志を持った同級生が同時に3人も弁護士資格を取得したというニュースは、当時、大きな注目を浴びた。
「拉致問題以降、『万景峰92』号の入港禁止措置や、チマ・チョゴリで通学ができなくなり第2制服が主流になったり。今まで当然の権利だと思っていたものがすごく揺らいでいた。法律って重要なのかなという漠然とした思いだった」
法律学科の同期たちが、弁護士など明確な人生設計を決めて入学するなかで、「これからは法律の知識が必要かな」という軽い気持ちで入学したという。当初は、地域の活動家として行政書士の資格を取得し、同胞たちの生活面をサポートしていければという思いでのスタートだった。
そして大学3年のときに行政書士資格を取得。金さんが弁護士を志す大きなきっかけとなったのは、他でもなく3年時の祖国研修で日本軍「慰安婦」被害女性と出会ったことだった。
「ハルモニとの出会いは、自分じゃなくてもいいという思いが、自分がやらくてはという思いに変わる瞬間だった。ハルモニは多くを語るわけでもなく在日朝鮮人学生の私たちに『闘ってくれ』と。その一言がずしりと重く響いた」
金さんにとって、そのハルモニの姿は、非識字者の1世で、女手一つで父親を育てた自身のハルモニの姿を思い起こさせた。
「私にとってハルモニは一番尊敬する人だったから。『闘ってくれ』 ―この言葉が、日本の地で民族教育を守ろうという決意へとつながった」
大学4年になり、学部の先生たちに頼み込み急きょ弁護士コースへ。それから3年、同級生たちが卒業し社会人として働くなか、来る日も来る日も机に向 かって参考書をひらく日々が続いた。受験期間、朝鮮高級学校の「無償化」除外は不当だとして、すでに後輩たちが自ら原告になり、各地で裁判に訴えていた。 金さんにとって「彼らを守りたいという思いがモチベーションになっていた」という。そしてその思いがかない、13年度の司法試験で合格。
その一方で、人一倍民族教育への関心が大きいのは、編入生としてウリハッキョと出会った経験からでもある。
「元々新潟に住んでいて当時は日本の小学校へ入学した。それから、親の仕事の関係で愛知に住むようになり通ったのが旧愛知第2初級。日本学校から編入して、民族教育のもとで初・中・高を経て朝大を卒業したことが、在日朝鮮人として生きていくうえでの軸を作ってくれた」
朝大は「守り継承されてきた大事な学びの場」だと話す金さん。現在は、一般民事、刑事、少年事件など通常の案件を受け持つ一方で、愛知中高の在校生と卒業生が、日本国に対し慰謝料の支払いを求めて起こした「無償化」裁判の弁護団の一員としても尽力している。
「こうして弁護士になってみると、朝大当時の集団生活がすごく役立っていると身にしみて思う。裁判は主観のぶつかり合い。依頼者との関係においても、相手が何を思うかが一番重要。その部分への洞察力やコミュニケーション能力は朝大の時期に培った部分が大きい」
「いま朝鮮学校を守ることが大事」。そう力強く話す彼女の言葉には、1世たちがすべてを投げうってでも守り続けてきた民族教育への思いがあふれている。
「訴訟を通じてこんなにも自分が植民地支配と近い存在なんだと思い知った。今、確実に日本政府は民族教育をなくそうとしている。1,2世が築いた歴 史があって今があるからこそ、守らなきゃその方たちに顔向けができない。朝大は、民族教育を受けることの出来る最後の場。自分にとってもそうだったよう に、在日の子どもたちの背中を力強く押す場所であり続けてほしい」
3月16日の午後、名古屋市庁舎前では、河村市長の名古屋初級に対する補助金停止発言の撤回を求め、抗議の声をあげる同校教員や保護者たちの姿、そしてその参加者のなかに金さんの姿もまたあった。
「闘ってくれ」。ハルモニたちの思いを胸に、金さんは「民族教育を守る闘いの場」に、頼もしく、そして心強い朝鮮大学校卒弁護士として居続けるだろう。
(韓賢珠)
【プロフィール】
1987年生まれ。愛知中高、朝鮮大学校政治経済学部法律学科8期生(在学3年のときに行政書士の資格取得)、南山大学法科大学院を卒業後、2013年度の司法試験に合格。その後、1年の司法修習期間を経て弁護士登録。ラヴィーダ法律事務所勤務。