ネタばれ有。特に後半の【心に残ったシーン】は気を付けてください。
「怪盗ピーチッチvs名探偵アイリーン」
こういう、自分には一生書けないんだろうなっていう小説を読むとたまらなく嬉しくなります。一つ一つのトリックも面白いんだけど、なにより少年漫画チックな、隠した身分同士の心理戦や日常の心の通い合いに身もだえします。
嗣永さん、鈴木さん、矢島さん、石川さん、道重さんという登場人物の描き方も理想に近いものがある。道重さんに関して「CCCC」と比べても違和感を感じないのは時間の流れのせいなのでしょうか。
「CCCC」は個人的に魔法の回の最優秀作なので、まだ見たことのない方がいたら読んでみてください。
さらに、小ネタも効いています。出てくる宝石の名前は全部曲名、話のくだりで出てきただけなのに、自分に関係のあるワードがあると敏感に反応してしまう面々(特に石川さん)。この辺りは、娘。小説を読んでいてよかったなぁという気分にさせてくれます。
ちなみにこの小説、リレー小説なのですが、空気感を統一しようと作者の皆様が精いっぱい努力しているのが感じられます。それでも生じてしまう人物設定の齟齬や、作者本来の世界観を出しきれない部分がどうしてもリスク要素にはなってしまいますが、常に新鮮な話を読めるのは読者として最高の幸せです。
作者が多数いること、更新間隔が長いことなどから、今後の不安はありつつも、最近読んだ娘。小説の中では間違いなくベストに近い作品なので、是非これからも追い続けたいと思います。
最後になりますが、ここのあいももはほんとに理想的だよ。
【心に残ったシーン】
――噴水広場で待ち合わせ、なんて。
デートでもあるまいし、とピーチッチはひとりで笑う。
**
「愛理は最初からピーチッチを疑ってなかったってことでしょ? なんで?」
「……うーん、ピーチッチは、なんていうか、確かに人のものを盗む悪いやつだけど」
愛理はいったん言葉を切って、指先で前髪を分ける。
舞美が、そして桃子が気のないふりで続きを待つ。
「人を殴ってケガさせたりさ、ああいうひどいことはしないよ」
「おおおお! なんかいいね! 認め合うライバルって感じ!」
「そういうんじゃなーい! ピーチッチが泥棒なのに変わりはないんだから!」
そんなやり取りを背中で聞きながら桃子が出来上がったパフェを取りに向かうと、
カウンター向こうでさゆみがニヤニヤした顔で見つめているのに気づいた。
桃子は慌ててほころんでいた口元をへの字に返す。
「い、いい加減諦めりゃいいのに。ほんっとアイリーンって変な子!」
「ふふふ。今どき探偵と争う怪盗なんかやってる桃ちゃんがいちばん変なの」
**
名探偵アイリーンが一人なら、怪盗ピーチッチも一人。それが当たり前だと思っていた。
急に置いてけぼりを食った気分になる。愛理の眉毛はいっそう険しい「ハ」の字になる。
ふと、ここのところ関係がなんとなくギクシャクしている親友の顔が思い浮かんだ。
――あたし、桃だけじゃなくて、ピーチッチまで取られちゃったの?
いけないいけない、と慌てて首をブンブン横に振る。
ピーチッチを取られちゃうって、あたし何を考えてんだろ。相手は泥棒だよ、悪い人だよ?
「どうしたの愛理ちゃん?」
不思議そうに顔を覗き込んでくる石川警視に、愛理は力強く言い切った。
「大丈夫です石川さん、怪盗ピーチッチは、あたしが捕まえちゃうんだから!」
「怪盗ピーチッチvs名探偵アイリーン」
こういう、自分には一生書けないんだろうなっていう小説を読むとたまらなく嬉しくなります。一つ一つのトリックも面白いんだけど、なにより少年漫画チックな、隠した身分同士の心理戦や日常の心の通い合いに身もだえします。
嗣永さん、鈴木さん、矢島さん、石川さん、道重さんという登場人物の描き方も理想に近いものがある。道重さんに関して「CCCC」と比べても違和感を感じないのは時間の流れのせいなのでしょうか。
「CCCC」は個人的に魔法の回の最優秀作なので、まだ見たことのない方がいたら読んでみてください。
さらに、小ネタも効いています。出てくる宝石の名前は全部曲名、話のくだりで出てきただけなのに、自分に関係のあるワードがあると敏感に反応してしまう面々(特に石川さん)。この辺りは、娘。小説を読んでいてよかったなぁという気分にさせてくれます。
ちなみにこの小説、リレー小説なのですが、空気感を統一しようと作者の皆様が精いっぱい努力しているのが感じられます。それでも生じてしまう人物設定の齟齬や、作者本来の世界観を出しきれない部分がどうしてもリスク要素にはなってしまいますが、常に新鮮な話を読めるのは読者として最高の幸せです。
作者が多数いること、更新間隔が長いことなどから、今後の不安はありつつも、最近読んだ娘。小説の中では間違いなくベストに近い作品なので、是非これからも追い続けたいと思います。
最後になりますが、ここのあいももはほんとに理想的だよ。
【心に残ったシーン】
――噴水広場で待ち合わせ、なんて。
デートでもあるまいし、とピーチッチはひとりで笑う。
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「愛理は最初からピーチッチを疑ってなかったってことでしょ? なんで?」
「……うーん、ピーチッチは、なんていうか、確かに人のものを盗む悪いやつだけど」
愛理はいったん言葉を切って、指先で前髪を分ける。
舞美が、そして桃子が気のないふりで続きを待つ。
「人を殴ってケガさせたりさ、ああいうひどいことはしないよ」
「おおおお! なんかいいね! 認め合うライバルって感じ!」
「そういうんじゃなーい! ピーチッチが泥棒なのに変わりはないんだから!」
そんなやり取りを背中で聞きながら桃子が出来上がったパフェを取りに向かうと、
カウンター向こうでさゆみがニヤニヤした顔で見つめているのに気づいた。
桃子は慌ててほころんでいた口元をへの字に返す。
「い、いい加減諦めりゃいいのに。ほんっとアイリーンって変な子!」
「ふふふ。今どき探偵と争う怪盗なんかやってる桃ちゃんがいちばん変なの」
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名探偵アイリーンが一人なら、怪盗ピーチッチも一人。それが当たり前だと思っていた。
急に置いてけぼりを食った気分になる。愛理の眉毛はいっそう険しい「ハ」の字になる。
ふと、ここのところ関係がなんとなくギクシャクしている親友の顔が思い浮かんだ。
――あたし、桃だけじゃなくて、ピーチッチまで取られちゃったの?
いけないいけない、と慌てて首をブンブン横に振る。
ピーチッチを取られちゃうって、あたし何を考えてんだろ。相手は泥棒だよ、悪い人だよ?
「どうしたの愛理ちゃん?」
不思議そうに顔を覗き込んでくる石川警視に、愛理は力強く言い切った。
「大丈夫です石川さん、怪盗ピーチッチは、あたしが捕まえちゃうんだから!」