羽鳥操の日々あれこれ

「からだはいちばん身近な自然」ほんとうにそうなの?自然さと文化のはざ間で何が起こっているのか、語り合ってみたい。

『タコの心身問題』みすず書房

2019年01月22日 09時05分15秒 | Weblog

めっぽう面白い本に出会った。

読了するまで待てなくて、ブログに紹介します。

 

読むうちに、野口三千三が貝に興味を持った時、唐突にタコの足について熱っぽく語ったことを思い出した。

なぜ、貝類ではなく、頭足類なのか、などと質問することもなく、話に聞き入っていた。

「タコの足の動きは、私が言うまでもなく非常に巧みである」とか

「いかに愛情深い交わりを行うか」等々。

また、骨格を持たないタコが、もし立ち上がるとしたらどれほど大変か、実演を何度も拝見していた!

 

改めてお知らせ。

書名:『タコの心身問題ー頭足類から考える意識の起源』

著者:ピーター・ゴドフリー=スミス

翻訳:夏目 大

出版:みすず書房 (2018年11月16日)

本書は、「心は何から生じるのだろうか」と言う問いかけから始まる。

それに対して、進化はまったく違う経路で心を少なくとも二度、つくった、と考える。

1つ目は、ヒトや鳥類を含む脊索動物

2つ目は、タコやイカを含む頭足類

「目」がポイントですぞ!(読むとわかります)

 

進化の歴史を振り返りながら、神経系の発達、感覚と行動のループの起源、主体的に感じる能力や意識について等、探っていく。

随所に野口の発想を裏付ける話に出会うのである。

主観を思んじた野口。

感覚と行動の結びつきをできる限りの言葉で表そうとした野口。

行動が次の感覚に影響を与えるかにも言及した野口。

本書で語れている《実際には感覚と行動の間の行き来、相互の往復が重要》などは、野口体操の在りようを言い当てている。

進化の過程で、貝の殻を脱ぎ捨て、軟体動物のまま生きる道を選んだタコは、自由自在にからだの形を変えることができる。

「形の定まらない形」と「無際限な可動域」ゆえに、全身にニューロンが張り巡らされた生きものタコ。

すなわち全身に“脳”が広がっている生きものがタコであるこを解き明かしていく。

「ムムッ、そうだったのか」

つい唸った瞬間、思い出したのが「タコ足運動」だ。

野口は「皮膚は全身に巡らされた脳である」といった。「タコ足運動」とこの言葉はリンクしていた、と気づく。

 

どのページにも、野口の発想に通じる話が随所に散りばめられていて、“体操人”には必読書と申し上げたい。

「上体のぶら下げ」をはじめて目にしたほとんどの方々は、「骨がないみたい」とつぶやく。

私とて、かつて、同じつぶやきをした覚えがある。

「柔らかすぎるからだは制御が難しそうで、何やら不気味だ」

そう感じていた。野口体操への抵抗感は、この辺りにも在りそうだ。その謎が解けるのだ。

帯には『人間とはまったく異なる心と知性をもつ生命体ー頭足類。彼らと私たち、2つの本性を合わせ鏡で覗き込む』と書かれているが、そこに野口の発想を合わせ、三つ巴で読んでいくと、面白さは倍増する。

野口体操への「動きの進化の謎」が、解ける満足感が得られる。

思わず、私は、つぶやいた。

野口三千三は、少しだけはやく生まれすぎた天才だった!?

自然は驚くべき巧みさで、生命を生きながらえさせている。

 

「海の底で くねってくねって しばし人間を忘れさせてくれる野口体操はいかが」

この本を読むと、誘いの言葉に、素直に頷かれる方もありかと・・・・・

コメント
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