めっぽう面白い本に出会った。
読了するまで待てなくて、ブログに紹介します。
読むうちに、野口三千三が貝に興味を持った時、唐突にタコの足について熱っぽく語ったことを思い出した。
なぜ、貝類ではなく、頭足類なのか、などと質問することもなく、話に聞き入っていた。
「タコの足の動きは、私が言うまでもなく非常に巧みである」とか
「いかに愛情深い交わりを行うか」等々。
また、骨格を持たないタコが、もし立ち上がるとしたらどれほど大変か、実演を何度も拝見していた!
改めてお知らせ。
書名:『タコの心身問題ー頭足類から考える意識の起源』
著者:ピーター・ゴドフリー=スミス
翻訳:夏目 大
出版:みすず書房 (2018年11月16日)
本書は、「心は何から生じるのだろうか」と言う問いかけから始まる。
それに対して、進化はまったく違う経路で心を少なくとも二度、つくった、と考える。
1つ目は、ヒトや鳥類を含む脊索動物
2つ目は、タコやイカを含む頭足類
「目」がポイントですぞ!(読むとわかります)
進化の歴史を振り返りながら、神経系の発達、感覚と行動のループの起源、主体的に感じる能力や意識について等、探っていく。
随所に野口の発想を裏付ける話に出会うのである。
主観を思んじた野口。
感覚と行動の結びつきをできる限りの言葉で表そうとした野口。
行動が次の感覚に影響を与えるかにも言及した野口。
本書で語れている《実際には感覚と行動の間の行き来、相互の往復が重要》などは、野口体操の在りようを言い当てている。
進化の過程で、貝の殻を脱ぎ捨て、軟体動物のまま生きる道を選んだタコは、自由自在にからだの形を変えることができる。
「形の定まらない形」と「無際限な可動域」ゆえに、全身にニューロンが張り巡らされた生きものタコ。
すなわち全身に“脳”が広がっている生きものがタコであるこを解き明かしていく。
「ムムッ、そうだったのか」
つい唸った瞬間、思い出したのが「タコ足運動」だ。
野口は「皮膚は全身に巡らされた脳である」といった。「タコ足運動」とこの言葉はリンクしていた、と気づく。
どのページにも、野口の発想に通じる話が随所に散りばめられていて、“体操人”には必読書と申し上げたい。
「上体のぶら下げ」をはじめて目にしたほとんどの方々は、「骨がないみたい」とつぶやく。
私とて、かつて、同じつぶやきをした覚えがある。
「柔らかすぎるからだは制御が難しそうで、何やら不気味だ」
そう感じていた。野口体操への抵抗感は、この辺りにも在りそうだ。その謎が解けるのだ。
帯には『人間とはまったく異なる心と知性をもつ生命体ー頭足類。彼らと私たち、2つの本性を合わせ鏡で覗き込む』と書かれているが、そこに野口の発想を合わせ、三つ巴で読んでいくと、面白さは倍増する。
野口体操への「動きの進化の謎」が、解ける満足感が得られる。
思わず、私は、つぶやいた。
野口三千三は、少しだけはやく生まれすぎた天才だった!?
自然は驚くべき巧みさで、生命を生きながらえさせている。
「海の底で くねってくねって しばし人間を忘れさせてくれる野口体操はいかが」
この本を読むと、誘いの言葉に、素直に頷かれる方もありかと・・・・・