羽鳥操の日々あれこれ

「からだはいちばん身近な自然」ほんとうにそうなの?自然さと文化のはざ間で何が起こっているのか、語り合ってみたい。

SPレコード鑑賞会

2017年08月11日 20時00分48秒 | Weblog
 何十年ぶりだろうか。
 井の頭線・駒場東大前駅におりたった。
 蝉時雨、雨上がりの樹木の匂い。
 旧前田公爵邸の脇に、お目当ての日本近代文学館は、ひっそりと建っていた。
 
 8月とは思えない涼しい日和。
 落ち着いた環境のなかで、SPレコードとお話を聞く会が開かれた。
 正式には『音楽で出会う 芥川龍之介 ー蓄音機とSPレコードで聴く』
 大正時代はデモクラシーとともに西洋の芸術や文芸がどっと日本に入ってきたことが伺える。
 
 横浜市立大学の庄司達也先生は、ご自身が収集されたSPレコードと蓄音機を運び込まれて、お話と音楽鑑賞を楽しませてくれた。明治中期以降からの日本における西洋音楽史の講義のようだった。

 明治の開国、欧化政策からたかだか半世紀にも満たないうちに、文人たちはこうした芸術を嗜好するだけでなく、創造の源としていかす力をつけていた、というから驚きであった。

 さて、レコードコンサートのプログラムをご紹介しよう。
 すべて芥川龍之介が聞いていた演奏者と曲であるという。

 三浦環       「蝶々夫人」プッチーニ
 柳兼子       「Ich Liebe Dich」ベートーヴェン
 アドルフォ・サルコリ「リゴレット」ヴェルディ
 梅蘭芳       「三本楊貴妃」京劇
 ミシェル・ピアストロ「モスクワの思い出」ヴィニヤスキー
           「ファウスト・ファンタジー」グノー
           「ツィゴイネルワイゼン」サラサーテ

 蓄音機は HMV157 英グラモフォン社   
      VVI−90  日本ビクター社

 鉄レコード針は一回ごとに取り替え、ぜんまいも毎回巻きなおす。
 1枚のレコード演奏時間は、3分から4分なので、長い曲は裏返して聞くことになる。

 とくに、ロシア音楽界の巨匠・ヴァイオリンのピアストロは、素晴らしい演奏だった。
 ヴァイオリンはおそらく現代に換算すると5億とも6億円とも言われる名器だそうだ。
 だからというわけではない? だからかもしれないが、SPレコードであることを忘れさせてくれる音なのだ。
 低音から高音まで伸びやかで、華やかで、憂いがあって、ヴァイオリニストの情感を、倍増させる表現力をもった音なのだ。名器と名演奏家が当時としては最高の演奏を披露したのに違いない。
 それを楽しむ芥川を創造すると、やっぱり!とさまざまなことを納得してしまう。

 さすがに大編成のオーケストラには多くの困難があって来られず、ソリスト中心に来日していたその演奏を直に聞いているという。

 作家の価値観、美意識、創作の糧となった芸術のなかに、西洋音楽・中国の京劇等々、色彩豊かな音楽の世界があると知っただけでも作品の読み方はかわるはずだ。
 芥川の時代には、日本に居ながらにして海外の名演奏を聴くことが叶ったのだ。
 
 庄司先生のような研究をしておられる方がいらしたのねー。
 お宅にはどれほどのコレクションをおもちなのだろう。想像もできない。

 さて、終了してから伺った。
 何十年も埃をかぶっている我が家のSPレコードはおそらく黴だらけではないか。ふと伺ってみた。
「黴は大丈夫です。綺麗に拭き取ってください。LPレコードと違ってSPレコードは頑丈に出来ますから、大丈夫ですよ」
 教えてくださった。
 たいした枚数はないが、たしかラベルが指揮をしている「ボレロ」があったような記憶がある。

 コンサートが終わってから、芥川特設会場で、ギャラリートークを聞いた。
 併設されている明治からの小説の歴史も面白かった。
 言文一致運動のなかで、落語を聞き書きし参考にした、という話は説得力があった。

 なかなか文学とは面白し!
コメント
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