羽鳥操の日々あれこれ

「からだはいちばん身近な自然」ほんとうにそうなの?自然さと文化のはざ間で何が起こっているのか、語り合ってみたい。

「無の境地」への軌跡 

2013年11月22日 09時18分34秒 | Weblog
 明日の朝日カルチャー「野口体操講座」では、先週から続けて、再度、丁寧に取り上げたい動きがある。
 それは「腕立てバウンド」と「上体のぶらさげ(やすらぎの動き」の二つである。

 どのように文章化しようか、と一週間近く悩んでいるが、ともかくも書き出してみないと輪郭すらつかめない。書き言葉にするととても複雑で煩雑になるもの。実際にレッスンを受けていただくと、明快な世界!なんですけれど。

 まず、いちばん面倒な「腕たてバウンド」から。
 レッスンのすすめ具合で、残り時間がある時には、床にうつ伏せ状態で、動きの順序を確かめたり、床からふわっと浮き上げたりする基本から始める。
 もっと時間がある時には「膝立ち」の姿勢から、力が抜けた腕を真下について、脚を後ろに伸ばし、「腕立て伏臥」の姿勢をとって、全体を「いーち、に~~の、ふわゎ~ん」というリズムで「腕立て伏臥の弾み上がり」を行う。
 それがつかめたら、いよいよ「腕立てバウンド」にまでつなげていく。あとはいろいろなバリエーションをちょっと息が弾む程度まで行っているのが通常の在り方だ。

 さて、先週の土曜日のこと、次のような試みをしてもらった。その発想のきっかけになった動きがある。それはピラティスなどで行われているひとつの方法だ。やり方を書いてみよう。
『仰向け姿勢で膝を立てる。そこから尾骨→仙骨→腰椎→胸椎の順番で床から離し、頸椎の始まりあたりまで背骨を意識しながら上体をあげていく。
 その後は、胸椎→腰椎→仙骨→尾骨の順に、背骨を一つずつ意識しながら床に戻す。戻ってきたら、両脚を踵が床を触れないようにしながら伸ばす。伸ばし切ったら、アキレス腱をしっかり伸ばして、踵を前に押し出すようにしながら、ふくらはぎが床につき、最後に踵を床に委ねる。するとそれまでの緊張に対して体全体の力が抜け弛緩感覚がつかめる』。つまり「背骨の意識の覚醒」が得られる運動と私は捉えている。
 
 そこで思いついたのが、野口体操の「腕立てバウンド」を再考することだった。
 野口体操の「腕たてバウンド」に独特の号令、というかかけ声というか、イメージを伝えるオノマトペがある。
「いーち、に~~の、ふ~わんッ」
 この最後の「ふ~わんッ」の瞬間的に、殆どの人が、腰だけ高くあがってしまう。腰を中心にした「山型」の形になる。しかし、野口先生が求めていたのは、次々順々の伝えられて、全体として波の動きが生まれるような在り方だった。腰椎から胸椎にかけての背骨が棒状になりやすいので、ある一瞬を見るとはっきりした「山型」が生じる。
 
 およそ40年前にはじめて野口体操の教室で、この「腕立てバウンド」の動きを見た時の衝撃は、今でも鮮明に覚えている。
「いったい、何がおこっているの?」
 気を取り直して「さぁ~、やってみよう」意を決しても、どこをどう動かすと、それらしい動きになるかもわからないまま、数年以上が経過してしまった。最初から出来てしまう人もいる中で、私はいつまでたっても『からだが重い。腰が重い」ばかりで、最初の伏臥姿勢すらまともに維持できなかった。
 ある程度動けるようになっても、「重さ」との戦いは、いっこうになくならなかった。この動きを行った翌日の腹の内側の筋肉痛に悩まされて、嫌いな動きの筆頭だった。
 それから諦めずに続けていると、次第に左右の肩甲骨の間の力が抜けて、それをきっかけとして何となく出来るようになってからは、からだの重さの感覚はおおいに変化してくれた。

 先週になって、ふとピラティスの“背骨意識覚醒”を、「腕立てバウンド」の前の段階で行ってみあたらどうなるだろうかと試みた。
 やり方を書いておこう。
《うつ伏せ姿勢→頭→胸→鳩尾→臍→臍下三寸→恥骨の手前の腹部分→みもね・さもね付近→大腿骨→膝関節→脛の順に、ゆっくり丁寧にあげていく》これが前半。
 ここからが正念場だ。
《つま先→膝→床に立てているつま先を床にするりと伸ばす→大腿骨(一本の棒ではなく、背骨のような小さな骨のイメージにかえて)→ひとつ一つを丁寧に床に返す→特にみもね・さもねに近づいたら、できるだけ速度を落として恥骨あたりが床に触れてくるところを味わう→両手を床からまっすぐに伸ばし上体を支えながら、上体が無理なく反っているところを味わう→下腹全体がゆったりと床に委ねられる前に、実は腹直筋に意識を集中してみる。腹直筋は、鳩尾から恥骨に向かう縦に長い大きな筋肉である。
 床から離す時、床に戻ってくる時、双方ともに腹直筋に意識を集中してみる。
 さらに意識を拡大して、臍下三寸、腹横筋、内腹斜筋、外腹斜筋等々、内側の筋肉にも集中する》

 骨の感覚をつかみつつ、そこを通り越したら、大きな筋肉が緊張したり弛緩したりする感覚を確かめる。
 とりわけ腹直筋等は、つかみやすい筋肉のひとつである。

 次に、野口体操の「上体のぶら下げ」と「前屈運動」の違いを腹直筋で確かめてみよう。
 腹直筋は、頭から上体を曲げる時に働く筋肉である。
 その意味からも「上体のぶら下げ」では、頭からおろさないことが大事となる。
 人によっては、従来のやり方で「前屈運動」をしているとき、体を曲げている間中までも、腹直筋が働いて緊張していることがある。したがって、起きてくる時には、頭からグイッとあげるようにしなければならなくなる。
 それに比べて「上体のぶらさげ」では、足の関節が支えとなって、股関節を軸として、骨盤全体を前方に円を描くように回転させる感じでおろしていく。はっきり自覚できるのは、臍下三寸から方向が変わりはじめること。順序を書いておこう。
《臍→鳩尾→胸骨の始まりの点→首→頭がぶら下げられる》である。起きる時はこの逆の順序になる。
 いちばんの違いは、頭はおろされていく最後の段階で首の力を抜いてぶら下げる点だ。
 この場合(私の場合)腹直筋はぶら下げはじめの段階でも、ぶら下げられてからも、緊張は殆どない、といってもいい。左右に揺するということが同時に行われていることも書いておかなければならない。

 このことは「やすらぎの動き」でも言えることである。
 一般に行われている方法、床に開脚長座して上体を床に倒していくやり方は、頭から前におろしていく。当然、腹直筋は緊張して、股関節周辺をロックするように働く。そこで深く曲げるには、力でグイグイと押さないと上体は床に接近してくれない。
 ところがクラシックバレーでは、野口体操の「上体のぶら下げ」同様に、股関節を軸にして骨盤を前方に回転させるように倒しているようだ。
 
 野口体操の「やすらぎの動き」は「上体のぶら下げ」と同じ要領で行う。この時も背骨を左右に僅かずつ揺すりながら、上下方向にかかる重さを、逃がすことで緩やかな刺激ののうちにおろしていく方法を大切にしている。この時、腹直筋は弛緩して、股関節周辺を固定することはない。

 話が、「腕立てバウンド」から「上体のぶら下げ」と「前屈運動」、「やすらぎの動き」へと渾然としてしまったが、これらの動きを通して、漠然としている腹の筋肉の緊張と弛緩の関係をつかんでみたかったわけだ。

 最後に話を「腕たてバウンド」に戻そう。
 これまでの方法としては、肩甲骨や背骨、腰、といった背中側(表側)に気持ちが集中していたのを、今回は内側の腹側に次々順々おこる変化に意識を持ってみる、という在り方だった。からだ全体の波・棒状につっぱった感じではなく、骨盤から腰椎そして胸椎の最後のあたりにこれまで以上に繊細な波があらわれてくる可能性が見えた。それが先週の土曜日のことだった。
 以後、日曜日の朝日カルチャーのクラス、若い学生たちにも試してみた。
 すると「腕立てバウンド」の経験が多く、動きがよい傾向にある方が、初心者よりもはっきりと結果があらわれた。「感覚こそ力」を活かすには、余分な緊張がないことが条件かもしれない。逆に余分な緊張がなければ、ある緊張に対して明確な意識を働かせることが可能なのかもしれない。漠然とした「面の緊張感」ではなく、ここぞ!という「点の緊張感」をつくりだせる、と言えるのではないだろうか。

 以上、野口体操の代表的な動きを取り出してみた。
*「上体のぶらさげ」と「前屈運動」
*「やすらぎの動き」と「開脚長座による前屈」(従来のやり方だが、最近は頭を下げないようにと注意を向けるようになってきた指導者もでてきた)
*「腕たて伏臥の弾みあがり」(1968年ころ、野口がつかっていた名称とやり方)
*「腕立てバウンド」
 これらの動きを「腹直筋」を中心に捉え直しをしながら、「感性の覚醒」をテーマに、明日の朝日カルチュアーレッスンをすすめてみたい。

『筋肉の存在を忘れよ そのとき筋肉は最高の働きをするであろう』
『意識の存在を忘れよ そのとき意識は最高の働きをするであろう』
 野口のことばだが、まず、鵜呑みをせずに自分のからだで「逆も真なり」として試みてみたい。
 最後に到達するのは「無の境地」であろうけれど……。それはまだまだ先の楽しみ!に。

注:「腹直筋」 Rectus abdominis 前腹壁の中を走る前腹筋の一つ。恥骨の恥骨結合部および恥骨結節上縁を起始として上方に向かい、第五~第七肋軟骨と剣状突起に付着する。
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