羽鳥操の日々あれこれ

「からだはいちばん身近な自然」ほんとうにそうなの?自然さと文化のはざ間で何が起こっているのか、語り合ってみたい。

滅び……ほろび

2009年03月05日 09時21分08秒 | Weblog
 先日、日本泳法を指導できる方と、歓談する機会をもった。
 国内5千人のうち、最高齢は96歳の御仁で、若い人が入ってくれないことが問題。
 この世界も先細りが目に見えているのだとおっしゃる。

「ところで、大学の授業としては、どんな出で立ちで稽古されるんですか」
「もちろん水着を着用して、紐を一本巻きます」
「やりにくいでしょ」
「えぇー、仕方ありません。随分前からビーチでも褌は使用禁止されています。特別な祭祀や伝統的な祭りでしか許されません」
 しかし、学習院だけは昔の伝統を守っているとか。
「特例ですか」
「ふふふっ」
 彼は言葉で答えず、微妙な笑いの陰影を頬に残した。
 その話の後も、しばし、語らう。

 中締めで、その会場を私はお暇した。
 そして乗り込んだ電車の窓に、かつて房総の浜辺で見かけた男性の幻影を見た。
 腰には褌。あらわになっている肌には見事な文様が、海の青さに映えていた。
 腕・背中から肩にかけて、臀部から太腿にかけて、空間を埋め尽くすジャワのバティックのように刺青が施されていたのだ。

 夏の日に輝く日本の美は、そのころを境に失われてしまったのだろうか。
 かれこれ四十年以上も前の一服の絵が甦った。
 その日、冷たい雨が春雪に変わりそうな夜道だったが、からだの芯に熱いものを感じつつ家路についた。
 文化とは、滅びによって、その真の美しさを神話へと昇華する運命にあるものを指すのかもしれない……。
 滅び、ほろび、なんといい響きだろう。
コメント
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