「ちょっと、大きいかしら」
三角形のお菓子を、半分に切り分けて、食べ始めた。
「ムゥ ムゥ」
一気に、ほほばってしまった。
久しぶりに、おいしいお菓子をいただいた。
絹のように滑らかな求肥は三角形に切られている。なんでも卵が使用されているらしい。そこに豆が入っている。牛皮と豆の食感の違いがいい。説明書を読むと、豆は虎豆。
「まぁ、贅沢な」
全体に、黄な粉がまぶしてある。
甘さは控えめで、あっさりしているが、一切れを食べ終わるころに、ちょうどよい甘さになる。
その甘さに、お茶の味が引き立つ。
「冬はちょっと熱目がいいわね」
このお菓子、かなり無造作に箱に詰め込まれている。三角形もアバウトな切り方で、多少の大きさの不ぞろいがあるが、気取ってなくていい。
目白「志むら」の新味の和菓子・九十九餅である。九十九はつくもと読む。
同窓の友人と共通の知人の書道展を見て、その足で野口先生のお墓参りをすませた帰りに戴いたお土産だった。
帰宅し、夕飯の後、家人に今日一日の出来事を話しながら味わった。
墓石を水で清め、花を手向け、線香を供え、三人揃って手を合わせた。
晴天に恵まれ、風もおだやかだった。よく手入れされた墓所に来るのは、昨年の春以来だ。お盆も秋の彼岸もご無沙汰してしまった。
「いい時間を過したわ」
そう話しながら、もう一口、九十九餅をいただく。
「書道展に墓参りなんて、ちょっと老人っぽい。あなたもそんなお年頃になったわけ」
皮肉っぽい調子で、言葉が投げられた。
「何をおっしゃる。白髪がちょっと気になる年だから、和菓子の味もお茶の味も、わかるようになってきたのよ」
やり返すが、ちょっと苦しい。
それから気になって、広辞苑を引く。
九十九髪という言葉があった。なんと白髪のことらしい。
ツクモとはツグモモ(次百)の約で、百に満たず九十九の意と見、それを「百」の字に一画足りない「白」の字とし、白髪にたとえたという。また白髪が江浦草(つくも)に似ているからともいう。
百年に一とせ足らぬ九十九髪 我を恋ふらしおもかげに見ゆ
伊勢物語の歌だそうな……ふふふッ。
冬の上野は、なかなかの風情あり
三角形のお菓子を、半分に切り分けて、食べ始めた。
「ムゥ ムゥ」
一気に、ほほばってしまった。
久しぶりに、おいしいお菓子をいただいた。
絹のように滑らかな求肥は三角形に切られている。なんでも卵が使用されているらしい。そこに豆が入っている。牛皮と豆の食感の違いがいい。説明書を読むと、豆は虎豆。
「まぁ、贅沢な」
全体に、黄な粉がまぶしてある。
甘さは控えめで、あっさりしているが、一切れを食べ終わるころに、ちょうどよい甘さになる。
その甘さに、お茶の味が引き立つ。
「冬はちょっと熱目がいいわね」
このお菓子、かなり無造作に箱に詰め込まれている。三角形もアバウトな切り方で、多少の大きさの不ぞろいがあるが、気取ってなくていい。
目白「志むら」の新味の和菓子・九十九餅である。九十九はつくもと読む。
同窓の友人と共通の知人の書道展を見て、その足で野口先生のお墓参りをすませた帰りに戴いたお土産だった。
帰宅し、夕飯の後、家人に今日一日の出来事を話しながら味わった。
墓石を水で清め、花を手向け、線香を供え、三人揃って手を合わせた。
晴天に恵まれ、風もおだやかだった。よく手入れされた墓所に来るのは、昨年の春以来だ。お盆も秋の彼岸もご無沙汰してしまった。
「いい時間を過したわ」
そう話しながら、もう一口、九十九餅をいただく。
「書道展に墓参りなんて、ちょっと老人っぽい。あなたもそんなお年頃になったわけ」
皮肉っぽい調子で、言葉が投げられた。
「何をおっしゃる。白髪がちょっと気になる年だから、和菓子の味もお茶の味も、わかるようになってきたのよ」
やり返すが、ちょっと苦しい。
それから気になって、広辞苑を引く。
九十九髪という言葉があった。なんと白髪のことらしい。
ツクモとはツグモモ(次百)の約で、百に満たず九十九の意と見、それを「百」の字に一画足りない「白」の字とし、白髪にたとえたという。また白髪が江浦草(つくも)に似ているからともいう。
百年に一とせ足らぬ九十九髪 我を恋ふらしおもかげに見ゆ
伊勢物語の歌だそうな……ふふふッ。
冬の上野は、なかなかの風情あり