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油圧リフターの記事でプッシュロッドの調整を解説しましたが、今回は掲示板の記事の件もあり、その補足になります。
エンジンの異音のトラブルは誠に厄介で、その音を聞く人によっても感じ方は異なるし、音は見えないだけに発生源の特定は掴みにくいですね。
勿論、異音の原因は大した事がないものと、大トラブルの症状の一つの現れとがありますが、原因が分からないうちはドチラも不安を掻き立てます。
ワタシ達の仕事は、修理したバイクが又暫らくノートラブルで調子よく乗れることになるのが目的ですが、それを最低限のコストで行うには、余分な仕事は避けなければなりません。
余分な仕事をして過剰な代金を請求すればクライアントに信用はなくなるし、心にシコリが残ります。かといって請求できなければ経営に負担が掛かります。
ワタシ達と違い、アマチュアの方が自身のバイクを修理するメンタリティはどうなのでしょうか?モチベーションにもよりますが、考えようによっては(手間のコストは考えなくても良いので)クオリティの良い仕事が可能ですね。気力の問題は同じですけれど。
さて横道に逸れましたが、余分な仕事をしないで済むのには経験が必要です。まず手をつける前の状態の確認ですね。どうせバラしてしまうのだからと、闇雲に始めてはイケマセン。2次災害が起っても原因が分からなくなってしまいます。
ココで本題ですが、ショベル以前の油圧リフターは構造や傾向を良く把握していないと、生き物のような微妙さがあります。まあ、エンジンて皆そうであり、ソコが堪らないところ?かな。
プッシュロッドの調整は?
まずプッシュロッドの調整ネジのピッチを測定しました。一山は測っても正確ではないので、10回転させてその差は7.9mmですから、ピッチは0.79mmという事になります。
前回ワタシの調整方法を紹介しましたが、リフターの中にオイルが入っている調整方法で、矢印のスプリングの遊びが無いところから4回転プッシュロッドのアジャスターを回転させて伸ばすというものでした。
これは’70年~'78年のサービスマニュアルに記載されている方法と同じものです。
ところが’78年~’84年のマニュアルにはドライでの調整方法しか記載がありません。
ドライでの調整方法はプランジャーを脱脂して、全屈(下の写真の状態)から11/2回転伸ばしてロックです。しかし’70年~'78年のサービスマニュアルのドライ調整は13/4回転です。
ここでプランジャーのストロークを測ってみると、上の2枚の写真の計測値の差は52.65-46.15=6.5mmです。
調整回転に置き換えると6.5÷0.79で約8.2回転になります。
ココで疑問
ウエットでの調整は上から4回転で、ドライでの調整は下から1.75回転ですから加算しても5.75回転で、全ストロークの8.2回転と帳尻が合いません。
ここでの辻褄合わせで最終版のマニュアルでドライでの調整に統一したのか、他の理由があるのかは推測するしかありません。
プッシュロッド長の調整は、油圧リフターのオイル室容積とスプリングの張力を変更するだけですから、通常のOHCエンジンなどのバルブクリアランスの調整とは意味合いが異なります。
要はプッシュロッドが長すぎて、バルブの突き上げをおこしコンプレッションの低下を招いたりしなければよい訳ですから、それほど厳密な数値を要求されるものではありません。
そう考えると上からの4回転の調整方法は、バルブを突き上げないためのセイフティマージンかな?それとも8.2-1.75の約6回転半ではバルブをピストンに当ててしまう可能性を見たのか、6回転も伸ばすとオイルが抜ける時間が長すぎると思ったのか?
理由はともかく最終版のマニュアルでは、ドライでの調整方法だけになっています。
音がでたら
油圧リフターが原因の異音は思いのほか音量が大きく聞こえます。そして回転を上げると更に大きくなる事が多いですね。
ワタシの「ガソリンを適温のオイルに見立ててのチェック」でOKになったプランジャーでも、時には大きな音を発生することがあります。プランジャー自体が音をだすわけではありませんが。
何らかの理由でプッシュロッドを調整しなおした後で音の発生があったら、ドライでの調整でやり直す事をお勧めします。
それでも音が消えない場合は全屈状態からほんの少しだけ縮めただけで試してみると良いでしょう。ソリッドタペットでもエンジンが暖まる前は音はでないので、コレで音が消えない時は違う場所に原因があると判定できます。
前屈状態からほんの少し戻すのは、ロックナットを締めると反力でロッドが僅かに伸びるからです。
30年以上も整備の仕事をしていても、時にはマシーンに騙されることはあります。
タブン向こうには騙す意図はないので騙されるワタシに原因はあるのですが、ソンナときには「良い勉強をさせてもらった」と咀嚼しております。