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フォーンとかクォーンとかのサウンドも余りウルサイと世の中に嫌われて、騒音規制のレベルアップとバイクの性能向上とともに大きくなってきました。初期のものは①のようにまるでドラッグパイプのように径がそのままのパイプに単純なバッフルが挿入されただけであり、そのうちに②のような小型のアルミサイレンサーが装着されるようになりましたね。
大径のカーボンパイプが普及してからは一挙に大型サイレンサーが大勢を占めるようになり、暫らくはバイクとスペシャルパーツとしてのマフラーはセットで買う時代が続きました。
ワタシの知り合いの某マフラーメーカーは1月に4000本の注文が舞い込み、大ブレークして瞬間的にオカネモチになったとか・・・・(今は昔の物語り?)。
大型サイレンサーも性能向上には大きな貢献もいたしましたが、音量を下げる能力には欠け、音量を下げるためには④の赤線で示すようなバッフルも必要です。ただしこの方式は音量を下げる効果の割に性能低下が著しく、音量の低下に比例するが如くパワーも低下してしまいます。音質も如何にも苦しそうでした。
とココまでは日本製4気筒バイクのマフラーについて軽く考察いたしましたが、これらを参考にハーレーのマフラーについて考えてみましょう。
4気筒と2気筒の根本的な違いをもう一度羅列してみると、
- 単シリンダーあたりの行程容積が違う。
- 上記の理由にも起因してストロークが違う
- ストロークと回転域の違いでピストン速度が違う
- Ⅴツインでは燃焼行程の間隔が不均等
- 4気筒は連続音で可、2気筒は歯切れの良い低音と、求められる音質が違う。
日本語のウエブ上では、中々学術的なマフラーの理論は見つけることが出来ませんが、us05 1200Rさんが見つけていただき見解を示してくださった英語の論文があります。
これを要約すると、
現在のコンピューター解析はかなり正確にマフラーの性能を予見する事が出来る事が判ります。これは有限要素法とか境界要素法と呼ばれる手法で複雑な形状や組み合わせの解析が可能なのですが計算には未だ時間を要します。とはいっても最近のコンピューターの進歩により長くても数十時間かと予想しています。これらの高度な解析をする前に簡易的に予見を行おうとする試みもなされTM法(トランスファー・マトリクス法)は実験結果に対して多少狭い範囲では有りますが実用的な予見が出来ると報告されています。
TRIZという比較的新しい信頼性の為の技法がマフラー設計の考察をしているものがあります。これは2つ以上の相反する要求事項に対しちょっとパズルの様に答えのヒントを出す・・・あちらを立てればこちらが立たずの比較のために記載されている表が色々なマフラー構造のTL(トランスファー・ロス)特性を整理していて見易く出来ています。
コンピューター解析は人間が作った条件を解析するだけですので、限られたコンセプトの中での適正化は可能でも究極の答えを与えてくれるものでは有りません。只、実際のエンジンの音源とマフラーの寸法、構造を入力すればどの音がどの程度出てくるかは可也正確に予知できると報告しています。
当然の事ながら、自動車で使われる3室型のマフラーで十分な消音効果が得られるために殆んどの学術(算術)的手法や研究は3室型の実際の性能とモデルをいかに合わせるかに焦点が有るようです。依って、バイクもこのモデルに従う事が多いのかと思います。
調べる限りでは容量=長さ×径に関して2つの物理的(音響的)性質が有ります。1つはヘルムホルツ共鳴と呼ばれギターの胴やオカリナに代表される共鳴。もう一つは管楽器などの気柱共鳴です。昔のオーディオスピーカーはヘルムホルツ共鳴で容量を上げて全域で特性が出る・・やわらかいアコースティックな音色を持ち、最近の細長いスピーカーは気柱共鳴をデジタル的に調整し全域で(見かけ上)フラットな特性を持たせている・・・らしいです。一般的にハーレー辺りのマフラーのサイズは気柱共鳴に対しては低音を出すのに十分な長さを持っていますがヘルムホルツでは大太鼓の容積を必要としますので現実的では無いようです。
排気ポート部では音源としてのガス流が同時に流れほぼ同じ物と考えがちですが、音波と排気ガス流速の違い(数倍)に依ってマフラー部では別物となってしまいます。コンピューターモデルでも”排気管内は有るガスがあるスピードで流れている”と定義してその中の音の伝わりのみを解析しています。まあ、どうって事も無いのですが性能を上げるための流路の働きと、消音の為の音響的働きは違う物理現象である事が再認識出来ます。
消音の手法としては;
- 吸音材
- 膨張、圧縮による強制的な流速、流路の変化での(摩擦的?)減衰
- 反射による打消し効果
- アクティブコントロール
等が扱われています。最終的にはアクティブコントロールを除く組み合わせで全域に渡る減衰量が確保されるようです。ブロワーなどの単一な周波数のアクティブコントロールは自動車などよりは一般的な様ですがコスト、複雑さ、容積、エネルギー源などの問題から自動車への適応は考察程度のようです。
- Boundary Element Analysis of Reactive Mufflers and Packed Silencers with Catalyst Convertersは2003年に発表された境界要素法(コンピューター解析の一種)を使った触媒を吸音材と扱ったものです。此処でもTM法が基本です。
- The study of problem solving by TRIZ and Taguchi methodology in automotive muffler designationは信頼性工学の為の論文ですがp16から式の説明が有りp19にマフラー構造とTL特性の一覧が有ります。
- Muffler Modeling by Transfer Matrix Method and Experimental Verificationは2005年の論文で一番判り易く書かれています。数式は分かり易いと言っても余り意味が無いのですが各マフラー構造と減衰特性(TL)が良くまとめられています。但しこのモデルでは吸音材を扱っていません(無視している)。
論文#3のReal Mufflerとして扱われている3室型のサイレンサーの特性はこの考察に関しては計算と実験が合致し1100Hz辺りに通過してしまう音域が有ります・・・程度の事です。ただ上の方でよく減衰されて200Hz以下の減衰が少ない・・・いい感じかも知れません。但しこのモデルではカットオフと呼ばれる周波数を下側343Hz、上側2100Hzとしているので200Hz以下は正確でない可能性が大です。
1・2・3の論文にご興味がありましたら、ご連絡をワタシにください。
と、様々な条件で変化するガスを消音したりパワーを生かそうと思ったら、アカデミックに解析しても難しいものなんですね・・・マフラーって。
車両メーカーは性能を満たすためには勿論コンピューターを駆使して設計するでしょうけれど、社外メーカーが設計するときはユーザーに求められるモノが違いますから、全部の性能を満たす事はできませんし、経験を基に試行錯誤の繰り返しになる事が多くなります。
次回から、ハーレーのマフラーのそれぞれのタイプについて検証してみましょう。