透水の 『俳句ワールド』

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山口誓子の一句鑑賞(16)高橋透水

2019年04月27日 | 俳句・短歌・評論・俳句誌・俳句の歴史
句を見ねば君の遠さよ秋の風 誓子

 誓子は西東三鬼や秋元不死男、そして平畑静塔、橋本多佳子などを同人とし昭和二十三年『天狼』を創刊したが、その巻頭言で、当時の俳壇に欠けている「酷烈なる俳句精神」「鬱然たる俳壇的権威」を実現したいと表明した。またその見本となるべき同人の作品について「俳句のきびしさ、俳句の深まりが、何を根源とし如何にして現るゝか」を示すことを求めた。この「根源」の語は議論を呼び、「天狼」内部では何が「根源俳句」であるかについて、「実在の真実への観入」(三鬼)「俳句的骨格の探求」(静塔)「東洋的無」(永田耕衣)など様々な意見が出され、外部からの批判・揶揄もあいまって昭和二十年代の俳壇にそれなりの活気を与えた。
 この天狼の創刊の辞「酷烈なる俳句精神」とは一体どんなものであり、その後どのようにいかされたのか、それを詳らかに述べることは今回の目的ではないが、端的にいうと三鬼のニヒリズム,耕衣の東洋的無,静塔の俳人格などは,俳句精神の根源を探求したということでそれなりに意義があっただろう。
 鑑賞句は多佳子へのメッセージの句だが、多佳子も三鬼とともに『天狼』創設に尽力した一人であるので触れてみたい。
 多佳子が誓子に弟子入りしたのは昭和十年という。すでに杉田久女に師事し俳句経験は十年以上あったが、新しい師として誓子を選んだのは多佳子の夫の橋本豊次郎であった。豊次郎は農業経営のため、九州での生活を始めたが、多佳子の教育は熱心だった。多佳子は遠隔とはいえ、誓子の目指すものや手法を身につけ、「女誓子」とまでいわれた。誓子は多佳子の並み優れた資質を見いだし、情熱的に指導にあたったのである。
 多佳子は他の俳人同様に戦中に句作の減った時期があり、また戦後はどうしても俳句の出来ない時期があったが、誓子は励ます意味でこの句を詠んだ。ここには単に弟子を励ます以上の感情が流れている。しかしこれを男女の感情とするのは短絡的で、二人は師弟関係を越えて切磋琢磨し俳句を求め続けたのである


  俳誌『鴎座』2019年2月号より転載
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