*43* 幸せ

月末の夫の給料日。

いつも私が銀行口座に振り込まれている給料を、預かっている夫のカードで引き出し、引き落としや生活費など必要な分を振り分けていた。

もしかしたら今夫婦関係も破綻し、こんな状態になってしまって、夫の愛人に１００万の慰謝料を払ってもらうことにもなったから、夫は私と温真への生活費を止めてしまうのではないかと思っていた。

別居していても離婚の話は進んでいない、でも給料は全額（もちろん夫が必要という金額は送金していたが。）私に持っていかれるのを嫌がって、給料の振込み先口座を変えてしまうのではないかと。

でもそんなことはなく、いつものようにちゃんと給料が振り込まれていた。

夕方、夫から「支払いと養育費（前妻との子）等で１５万送金して欲しい。」とメールがきた。
そして「荷物を出したいんだけどいつがいい？」と。

とうとうM子と同棲している家に、荷物を運び込むつもりなんだな・・・。
私が離婚調停をなかなか申し立てないから、私とさっさと事実上のお別れするための行動だけするつもりか。

意外なことに、その言葉に私は軽いショックを受けた。

もともと夫は荷物を自分から運び出すなどと言う、そういう面倒なことを自ら率先してやりたがるタイプではない。
それなのにそんなこと言ってくるなんて。

よっぽど私が嫌なんだな・・・。
もう完全に身も心もM子のところにあると、見せ付けられているようだった。

私はすぐに返事をした。
「わかった。荷物は前もって言ってくれれば、いつでもいいよ。」と。

夫は私に送金を頼むと「お願いします。」と言った。
もともとこの給料は、あなたのものなのにね。

私が「離婚するまで生活費をお願いしますね」と言うべき立場なのかも知れないけど。
「婚姻費用もらうんだから当たり前」って思っちゃいけないよね。

それはまだ離婚してないから、義務という意味では当然なのかも知れないけど、夫は私にお金を一切渡さず締め上げるようなことはしなかった。
そのお陰でまだこうして小さい温真を保育園に預けて働くということをしなくても、今は生活できている。
これから寒くなるからと、温真に冬用の暖かいおくるみや肌着を買ってあげられる。

それは私にとってありがたいことだった。

夫という人はなんなんだろう。
鬼でも蛇でもない、基本的にはいい人なんだろう。
でも温真がどうしてるか心配したり、会いたい、抱っこしたいって言わない。
自分のことで精一杯で、我が子に対してあまり情がないんだろうか。

私と離婚するとしても、M子のところに行くから決して夫は一人ぼっちにはならない。
一人ぼっちになるくらいなら、いっそ我慢して離婚しない人なのかも知れない。

夫は極度の寂しがり屋だったのかも知れない。

その寂しさを紛らわせてくれる女が見つかって、良かったじゃん。
その人にうんとかまってもらって、うんと甘えさせてもらいなよ。

ちゃんと離婚してあげるから、もう少しだけ待って。
離婚する前に、私にはどうしてもしなくちゃならないことがあるから・・・。


２～３日前、実母から電話がかかってきた。
母には私が臨月の時に、夫が家に帰ってこなくなりどうやら浮気しているようだということは話してあったが、その後の詳しいことはまだ話していない。
当時母は「そのうち帰ってくるから、放っといたらいい。」と言っていた。

少し前、母とランチしながら私が「万が一生活費まで入れなくなったら、その時は離婚するしかないわねぇ。」と言っていたのが気になっていたようだった。

「離婚せずになるべく金を入れさせるようにせないかんで。損得考えな。」
「向こうだけ幸せになんか、してやる必要ない。」

母は籍さえ抜かなければ、年金や遺産相続など、先々で得になると考えているようだった。
実際母は、私が４歳の頃家出し、その後父と十数年別居したのち正式に離婚届けを出したが、今となっては「あの時離婚せんかったらよかった。」と言った。

それは・・・母さんは子供を連れて出て行かなかったからでしょう？
私と兄、二人とも置いて自分一人で出てったからでしょう？
一人なら自由に仕事もバリバリできる。

でも小さい子がいればそうは行かないから、母子家庭の援助をうけさせてもらうことになる。
籍だけ入れていたら、それも受けられないんだよ。

そしてこう言った。
「もし離婚になったとしても、離婚してから言うんじゃなくて、する前に一言私に相談して。」と。

今までどんなことでも、私は母に相談したことはない。
母に限らず、誰にでも「相談」はあまりしない。
いつも、人に相談しなくても自分で気持ちが決まっていて、それについて人からあれこれ言われることが嫌。
自分自身の事に関しては、人の意見は一応聞いて頭の片隅には入れてるけれど、私の決心がそれによって変わることはない。

考え方の全く違う、私の性格も何も理解していない母に、自分基準の話を延々と聞かされるのも嫌だし、世間一般論を聞きたいわけでもない。

何よりも、母に言われる以上に、母が思っている以上に私は様々なことを考え、調べ準備している。
だから私は自分を信じ、自分の信念を貫く。

それにね、あの二人が幸せになれるはずないってわかってるんだよ。
わざわざ私が自分や温真の人生を犠牲にして、嫌がらせのように籍だけ抜かないというようなことをしなくても。

天罰は私が下すんじゃない。

あの二人は絶対に、幸せにはなれない。
それに私は今現在も、今後離婚したとしても、不幸ではない。

幸せだよ、温真がいるから。