猫のやぶにらみ

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「ジャンク・ボンドの帝王」ミルケンがいない!

2005-02-15 | 経済・社会
ライブドアの堀江社長が頑張っている。ニッポン放送に対する「敵対的買収(hostile take over)」を仕掛けたのだ。「敵対的買収」とは、狙いをつけた企業の株式を、相手方経営陣の事前の同意なしに買い集め、経営権の取得を目指す行為のことだ。まぁ、昔ながらの普通の日本語で言えば、「乗っ取り」というやつだ。

アメリカでは1980年代にこの「敵対的買収」ブームが起こった。日本では今回の件が単発的な「乗っ取り(未遂?)事件」で終わるのか、それとも「敵対的買収」ブームの始まりとなるのか、まだ分からない。それを占う意味も込めて、敵対的買収が起こる素地というものを確認しておこう。

①値段次第で、経営陣の意向とは無関係に、まとまった株数を売却してもいいという株主が存在すること。
②「俺の方がうまくやれる」という野心的投資家または経営者の存在
③買収資金が機動的に調達できること

「株式の持ち合い構造」が崩れ、機関投資家(潜在的な売り手)の保有比率が高まってきている。さらに、分散投資を旨とする伝統的機関投資家に加え、比較的大きな持分を取得するタイプのファンド(再生ファンドやリスクアービトラージャー)が台頭してきた。①については環境は整いつつある、と言えるだろう。

伝統的企業における非効率な経営実態をみて、「俺の方がうまくやれる」と思う②野心的投資家/経営者はいくらでもいる。鍵を握っているのは③の買収資金だ。

80年代のアメリカでもそうだったが、伝統的大企業に対する「敵対的買収」は、伝統的金融機関による伝統的ファイナンス手法によって賄うことは難しい。これを可能にしたのは「ジャンク・ボンドの帝王」マイケル・ミルケンだった。ジャンク・ボンド(ハイ・イールド・ボンド)発行という革新的ファイナンス手段を使うことによって初めて、「伝統的出自でない投資家/経営者」でも「札束に物を言わせる」取引が可能となったのである。

今回、ライブドアの堀江社長が調達した800億円は「MSCB」発行によるものであった。当時の「ハイ・イールド・ボンド」と同じように、日本の「MSCB」は、伝統的なファイナンス手法とは言えない。どちらも胡散臭さがつきまとう、ぴかぴかの優良企業なら決して手を染めないタイプのファイナンス手段だと言われている。しかし、その点は別に問題ではない。既得権にあぐらをかく伝統的企業に一撃を加える武器として、新しい(従って胡散臭い)武器を手に取ることを躊躇する必要はない。

しかし、この両者には決定的な違いがある。「ハイ・イールド・ボンド」はデット・ファイナンスだが、「MSCB」はエクィティ・ファイナンスだということである。株式投資家からみれば、この違いは大きい。デット・ファイナンスは借り主に(元利返済という)規律を要求する。エクィティ・ファイナンスは経営者に「自己資金」という勘違いを生じさせ、結局株主にリスクを付け回す可能性が高い。

堀江社長、まさかMSCBは調達コストゼロの打ち出の小槌だと思ってはいないだろうな。今、日本に必要なのはハイ・イールド債市場の方である。