武 順子(Take Junko) ひとり語りのひとりごと

わがままな朗読家の我がままなひとりごと。「縁側の猫を枕に日向ぼこ」…猫が好き。詩を書く人でもあります。

幼いころの記憶…銀河鉄道の夜から

2009年01月20日 14時07分43秒 | Weblog
十字になった町のかどを、まがらうとしましたら、向ふの橋へ行く方の雑貨店の前で、黒い影やぼんやり白いシャツが入り乱れて、六七人の生徒らが、口笛を吹いたり笑ったりして、めいめい烏瓜の燈火を持ってやって来るのを見ました。

その笑ひ声も口笛も、みんな聞きおぼえのあるものでした。

ジョバンニの同級の子供らだったのです。

ジョバンニは思はずどきっとして戻らうとしましたが、思ひ直して、一さう勢よくそっちへ歩いて行きました。

「川へ行くの。」ジョバンニが云はうとして、少しのどがつまったやうに思ったとき、
「ジョバンニ、らっこの上着が来るよ。」さっきのザネリがまた叫びました。

「ジョバンニ、らっこの上着が来るよ。」すぐみんなが、続いて叫びました。

ジョバンニはまっ赤になって、もう歩いてゐるかもわからず、急いで行きすぎやうとしましたら、そのなかにカムパネルラが居たのです。

カムパネルラは気の毒さうに、だまって少しわらって、怒らないだらうかといふやうにジョバンニの方を見てゐました。

 ジョバンニは、遁げるやうにその眼を避け、そしてカムパネルラのせいの高いかたちが過ぎて行って間もなく、みんなはてんでに口笛を吹きました。

町かどを曲るとき、ふりかへって見ましたら、ザネリがやはりふりかへって見てゐました。

そしてカムパネルラもまた、高く口笛を吹いて 向ふにぼんやり橋の方へ歩いて 行ってしまったのでした。

ジョバンニは、なんとも云へずさびしくなって、いきなり走り出しました。

すると耳に手をあてゝ、わああと云ひながら片足でぴょんぴょん跳んでゐた小さな子供らは、ジョバンニが面白くてかけるのだと思ってわあいと叫びました。

まもなくジョバンニは黒い丘の方へ急ぎました。

                     (ケンタウル祭の夜 から)





このような記憶の数々は、半世紀も経った今でも、私を苦しめます。

おとなになっても、逃れることのできない、人とのつながり。

私も時に、傷つける側になっているかもしれないという恐怖も感じます。
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