結局みんなに心配され、ノアに「泣かしちゃいましたー?」とからかわれた氷矢が「バカ野郎! 俺が泣かすわけ……おい小豆! 泣きやめ!」と、軽く怒鳴り、どうしてか面白くて、私は吹き出してしまった。
涙を拭いながら笑っていると、ほんのりと頬を赤らめて、ふんっと顔を逸らした。
こんな時に限って鈍感な奴……。
でもそんなところも好きだな、と思っていたら、城の方から声が聞こえてきた。
「只今より、各舞台上にて、様々な職業がパフォーマンスを披露します! どの舞台上にどのような人が来るかは秘密! 興味のある方は、探してみてください!」
スピーカー越しのそれに、残った涙を拭ってくれたアヴァが、母親らしい笑みを浮かべて、「見に行きましょう。」と言ってくれた。
変に泣いてしまって申し訳ない、と思いながらも、子供のように小さく肯き、また歩きだした。
でも舞台って、どこにあるんだろう。
屋台しか見かけなかったけど……。
そう、辺りを見渡しながら歩いていると、左側から歓声が聞こえてきた。
おっとアヴァと顔を見合わせ、駆け足でそこに近づいた。
屋台のあいだにある簡易的な舞台。
そこには、獣使いと吟遊詩人が、自分の得意分野を生かしてパフォーマンスを披露していた。
三味線の音に合わせて、獣使いが様々な動物達と一緒に、優雅に舞っている。
先程の演舞とは違う、ゆったりとしたものだ。
そのせいか、カップルがまあ多い。
なぜかくすくすと笑うノアの頭を軽く叩き、振り返った。
赤い瞳と眼が合い、私は妙に心が躍った。
泣いたせいだろうか、どぎまぎする感覚はなく、ただ蕩けるような気持ちが渦巻いている。
でも彼からしたら、意味が分からないよなと、すぐに逸らした。
「どーするー? 流石に邪魔するのも悪いし、大人数で見るにはちょっと静かすぎない? 他の、探す?」
エマの提案に、ややあってみな肯き、静かに立ち去った。
氷矢と二人だけで見てみたい気もするけど……。
ああダメダメ、好きなのはもう否定しないけど、告白とかそういうのはまだ、あれだから……。
と、胸中でかぶりを振っていたら、聞き覚えのある曲が流れてきた。
ふっと顔をあげる。
吟遊詩人が数人、異国の服に楽器を持って、愉快に演奏していた。
すぐに合点がいく。
ジャズの有名曲だ。
だがアヴァとエマは知らないようで、知識人のノアから軽く教わっていた。
この世界にもあるんだなと、妙な感動を覚え、音に耳を澄ました。
軽快で、それでいてしっとりとしたそれらに、自然と心が安らぐ。
また現実世界と同じように、夜の都会を車で走りたいな。
私は運転できないから……それこそ、氷矢に。
まあ、この世界じゃ無理か、と思っていたら、ぐっと腕を引かれ。
伏せていた眼をあげた。
そこには、舞台上にいたはずのサックス奏者が、サングラス越しに促してきた。
ふっと、横を見る。
氷矢も少し驚いた表情で、ピアノ奏者に手を引かれていた。
なんなんだろう、と思いつつもついてゆき、舞台上にあがる。
と共に、歓声があがり、理解が追い付かないまま笑顔を見せて、手を振り返した。
なんだろう、呼ばれた理由は分かるけど、と思っていたら、先程のサックス奏者が小声で言ってきた。
「お二人さんで踊ってくれないかい? 無理なら無理って言ってくれて構わない。」
少しびくりとしてしまったが、私は特に問題もなく、ただ右にいる氷矢に視線をやった。
同じように言われたのだろう彼は、一つおいて小さく肯いた。
模擬戦でも支障はなかったし、こんなぱっと見満身創痍な奴でいいのなら……。
「わかりました。やりましょう。」
私は幾らでも、構わない。
サックス奏者が戻ってゆき、掛け声と共に演奏が再開した。
軽く息を整え、彼に視線をやる。
流石は有名人だ、臆することなくこちらに来る。
ジャズらしい優雅な曲調に、気持ちを切り替えて踊り始めた。
右手を繋ぎ、音に合わせて足を動かす。
和服なのが惜しいなと思いつつ、ふっと視線をあげた。
僅かに俯いた彼の顔は近く、心が蕩けるような気持ちで溢れた。
私の気のせいだろうか。
微かに氷矢も、そんな感じがする。
右手を握る手は優しく、不慣れな私を巧く誘導してくれている。
無論、それに合わせてくるりと回り、また近くに戻ると、ちらりと視線をくれた。
優しい色。
穏やかな赤い瞳に、ふっと口角をあげた。
すると急に押され。
必然的に私が反る体勢に。
へ? と思うが、腰に回った腕がきちんと支えてくれ、表情をなんとか保てた。
元に戻ると、すっと視線を外された。
今まで平気だったはずなのに、かあっと身体があつくなる。
ジャズの優雅な音に自分の心拍数が重なる。
踊り自体は至って普通だ。
なのに全部彼に誘導されている気がして……。
演者なのに、酔いしれていた。
軽く腕を引かれる、目配せをくれる、全体で促してくれる。
ダンスをやったことがない私でも、綺麗に動けた。
これが終わってもまた、彼と一緒に踊りたい。
そんな蕩けた気持ちに、静かにパフォーマンスは終わった。
最後は少し大胆に、彼に高めにだっこされて。
こんな身なりのまま、観客に投げキッスをやった。
一気に声があがるなか、とんっと舞台上におりる。
やっぱり頬を微かに赤くしており、「くそ、お前のせいで暑くなった……。」と呟くように言われた。
吹っ切れたせいか、そんな氷矢にふっと口角をあげ、「へんたい。」とだけ言い、前に出て頭をさげた。
「ありがとうございました。」
それに連なる拍手と口笛にへにゃりと笑い、左を見た。
然し視線もくれず、早々に舞台から降り、慌ててついていくかたちとなった。
微笑ましい笑い声に押されながら、三人のところに戻った。
勿論褒められ、そして付き合ったらどうのの話に移り変わっていった。
どうにかなってしまったのだろうか。
身体があつくなる気もなく、強い否定もできない。
ただ、氷矢はそっぽを向いて、固く口を噤んでいた。
彼らしい反応に、心がきゅうっと締め付けられる。
なんか、もう、私氷矢の事が大好きなんだな。
認めよう。
うん。
それにさっきまでのあの眼つき。
凄く優しかったもん。
私にだけ向けられた色、雰囲気。
どこかで告白できないかな、と思っていたら、スピーカー越しの放送が空気を揺らした。
「グリッド海岸にて、花火師による打ち上げ花火を開始します! 時刻は九時四十分からです!」
花火、その単語に眼を丸くし、懐中時計を取り出した。
針は九時三十分を指しており、顔をあげながら告げると、急にわちゃわちゃしだした。
先に走りだす三人に、足を踏み出す。
然し止まったままの氷矢に、すぐに歩みをやめた。
俯いたままの彼に、「……いこ?」と小首を傾げる。
それでも動かない。
はあ、と溜息を吐き、手をとった。
ふっと顔をあがる。
今まで以上に驚いた、それでいて柔らかい表情に、微笑みを返した。
「いこ、氷矢。」
放送によって人の流れが変わりだす夏祭りのなかで、私と氷矢だけは、静かなゆっくりとした空間にいた。
ややあって、ふっと無表情に戻ると、歩きだした。
「バカが。」
すっと手を離し、隣に立って歩きだす。
もう夏祭りも終わりなのかな。
どうせなら、このあいだに告白したい……。
そう思いつつ、首都の南にある海岸に、向かった。
涙を拭いながら笑っていると、ほんのりと頬を赤らめて、ふんっと顔を逸らした。
こんな時に限って鈍感な奴……。
でもそんなところも好きだな、と思っていたら、城の方から声が聞こえてきた。
「只今より、各舞台上にて、様々な職業がパフォーマンスを披露します! どの舞台上にどのような人が来るかは秘密! 興味のある方は、探してみてください!」
スピーカー越しのそれに、残った涙を拭ってくれたアヴァが、母親らしい笑みを浮かべて、「見に行きましょう。」と言ってくれた。
変に泣いてしまって申し訳ない、と思いながらも、子供のように小さく肯き、また歩きだした。
でも舞台って、どこにあるんだろう。
屋台しか見かけなかったけど……。
そう、辺りを見渡しながら歩いていると、左側から歓声が聞こえてきた。
おっとアヴァと顔を見合わせ、駆け足でそこに近づいた。
屋台のあいだにある簡易的な舞台。
そこには、獣使いと吟遊詩人が、自分の得意分野を生かしてパフォーマンスを披露していた。
三味線の音に合わせて、獣使いが様々な動物達と一緒に、優雅に舞っている。
先程の演舞とは違う、ゆったりとしたものだ。
そのせいか、カップルがまあ多い。
なぜかくすくすと笑うノアの頭を軽く叩き、振り返った。
赤い瞳と眼が合い、私は妙に心が躍った。
泣いたせいだろうか、どぎまぎする感覚はなく、ただ蕩けるような気持ちが渦巻いている。
でも彼からしたら、意味が分からないよなと、すぐに逸らした。
「どーするー? 流石に邪魔するのも悪いし、大人数で見るにはちょっと静かすぎない? 他の、探す?」
エマの提案に、ややあってみな肯き、静かに立ち去った。
氷矢と二人だけで見てみたい気もするけど……。
ああダメダメ、好きなのはもう否定しないけど、告白とかそういうのはまだ、あれだから……。
と、胸中でかぶりを振っていたら、聞き覚えのある曲が流れてきた。
ふっと顔をあげる。
吟遊詩人が数人、異国の服に楽器を持って、愉快に演奏していた。
すぐに合点がいく。
ジャズの有名曲だ。
だがアヴァとエマは知らないようで、知識人のノアから軽く教わっていた。
この世界にもあるんだなと、妙な感動を覚え、音に耳を澄ました。
軽快で、それでいてしっとりとしたそれらに、自然と心が安らぐ。
また現実世界と同じように、夜の都会を車で走りたいな。
私は運転できないから……それこそ、氷矢に。
まあ、この世界じゃ無理か、と思っていたら、ぐっと腕を引かれ。
伏せていた眼をあげた。
そこには、舞台上にいたはずのサックス奏者が、サングラス越しに促してきた。
ふっと、横を見る。
氷矢も少し驚いた表情で、ピアノ奏者に手を引かれていた。
なんなんだろう、と思いつつもついてゆき、舞台上にあがる。
と共に、歓声があがり、理解が追い付かないまま笑顔を見せて、手を振り返した。
なんだろう、呼ばれた理由は分かるけど、と思っていたら、先程のサックス奏者が小声で言ってきた。
「お二人さんで踊ってくれないかい? 無理なら無理って言ってくれて構わない。」
少しびくりとしてしまったが、私は特に問題もなく、ただ右にいる氷矢に視線をやった。
同じように言われたのだろう彼は、一つおいて小さく肯いた。
模擬戦でも支障はなかったし、こんなぱっと見満身創痍な奴でいいのなら……。
「わかりました。やりましょう。」
私は幾らでも、構わない。
サックス奏者が戻ってゆき、掛け声と共に演奏が再開した。
軽く息を整え、彼に視線をやる。
流石は有名人だ、臆することなくこちらに来る。
ジャズらしい優雅な曲調に、気持ちを切り替えて踊り始めた。
右手を繋ぎ、音に合わせて足を動かす。
和服なのが惜しいなと思いつつ、ふっと視線をあげた。
僅かに俯いた彼の顔は近く、心が蕩けるような気持ちで溢れた。
私の気のせいだろうか。
微かに氷矢も、そんな感じがする。
右手を握る手は優しく、不慣れな私を巧く誘導してくれている。
無論、それに合わせてくるりと回り、また近くに戻ると、ちらりと視線をくれた。
優しい色。
穏やかな赤い瞳に、ふっと口角をあげた。
すると急に押され。
必然的に私が反る体勢に。
へ? と思うが、腰に回った腕がきちんと支えてくれ、表情をなんとか保てた。
元に戻ると、すっと視線を外された。
今まで平気だったはずなのに、かあっと身体があつくなる。
ジャズの優雅な音に自分の心拍数が重なる。
踊り自体は至って普通だ。
なのに全部彼に誘導されている気がして……。
演者なのに、酔いしれていた。
軽く腕を引かれる、目配せをくれる、全体で促してくれる。
ダンスをやったことがない私でも、綺麗に動けた。
これが終わってもまた、彼と一緒に踊りたい。
そんな蕩けた気持ちに、静かにパフォーマンスは終わった。
最後は少し大胆に、彼に高めにだっこされて。
こんな身なりのまま、観客に投げキッスをやった。
一気に声があがるなか、とんっと舞台上におりる。
やっぱり頬を微かに赤くしており、「くそ、お前のせいで暑くなった……。」と呟くように言われた。
吹っ切れたせいか、そんな氷矢にふっと口角をあげ、「へんたい。」とだけ言い、前に出て頭をさげた。
「ありがとうございました。」
それに連なる拍手と口笛にへにゃりと笑い、左を見た。
然し視線もくれず、早々に舞台から降り、慌ててついていくかたちとなった。
微笑ましい笑い声に押されながら、三人のところに戻った。
勿論褒められ、そして付き合ったらどうのの話に移り変わっていった。
どうにかなってしまったのだろうか。
身体があつくなる気もなく、強い否定もできない。
ただ、氷矢はそっぽを向いて、固く口を噤んでいた。
彼らしい反応に、心がきゅうっと締め付けられる。
なんか、もう、私氷矢の事が大好きなんだな。
認めよう。
うん。
それにさっきまでのあの眼つき。
凄く優しかったもん。
私にだけ向けられた色、雰囲気。
どこかで告白できないかな、と思っていたら、スピーカー越しの放送が空気を揺らした。
「グリッド海岸にて、花火師による打ち上げ花火を開始します! 時刻は九時四十分からです!」
花火、その単語に眼を丸くし、懐中時計を取り出した。
針は九時三十分を指しており、顔をあげながら告げると、急にわちゃわちゃしだした。
先に走りだす三人に、足を踏み出す。
然し止まったままの氷矢に、すぐに歩みをやめた。
俯いたままの彼に、「……いこ?」と小首を傾げる。
それでも動かない。
はあ、と溜息を吐き、手をとった。
ふっと顔をあがる。
今まで以上に驚いた、それでいて柔らかい表情に、微笑みを返した。
「いこ、氷矢。」
放送によって人の流れが変わりだす夏祭りのなかで、私と氷矢だけは、静かなゆっくりとした空間にいた。
ややあって、ふっと無表情に戻ると、歩きだした。
「バカが。」
すっと手を離し、隣に立って歩きだす。
もう夏祭りも終わりなのかな。
どうせなら、このあいだに告白したい……。
そう思いつつ、首都の南にある海岸に、向かった。








