サナエ暴走

寒い

昨夜の寒さはまるで冬に逆戻りしたようだった

町を歩く人はセーターを着ていたり

コートを羽織ってたりと

６月とは思えない光景だ


先週土曜日にフラッと遊びに来たサナエさん

あるお店の面接を受けた帰りだった

「全く冗談じゃないわ

　こちらからお断りよ」

何様モード炸裂の言いたい放題

ついでだから顔見知りの店にも顔を出して

しこたま飲まされた後に当店にやって来た

面接用の厚化粧が大御所感に拍車をかけていた

「アンタ銀座や六本木のクラブじゃあるまいし

　何が“何組のお客様を呼べますか？”よ！」

怒りは酒によって益々増幅されている

当店でも彼女の馴染みの客が

面白おかしく一気飲みをさせている

目が据わってきて最後はヒデミとテーブルでバトル

傍から見ていると面白いが

こちらにも飛び火してくるから堪らない


閉店時間を過ぎたのでそろそろ看板にする

「あら、まだ飲み足りないわ

　そう言えばさっきのＫちゃん

　あの店に行ってるかしら？」

誰彼構わず「やらせて」が口癖のＫちゃん

少し前まで当店でサナエさんを口説いていた

海千山千の彼女は焦らしに焦らしてかわしていたが

痺れを切らしたＫちゃんは隣町の某店へ行ってしまった

かれこれ１時間近く経っている

もうその店にも居ないかもしれないが

サナエさんは電話を入れた

「あの～そちらにＫさんてお客さん見えてますか？」

少しして電話口に出たＫちゃん

「さっきはゴメンナサイね～

　何だかもう少しＫちゃんと飲みたい気分になったの

　もし迷惑じゃなかったら

　私もそちらに行っても良いかしら？」

ケータイの向こうのＫちゃんが目に浮かぶ

「何だよ今更、都合が良すぎるよ！

　今こっちで他の子くどいてんだから

　ほっといてくれよ～」

サナエさんも食い下がる

「そんな事言わずにもうちょっと飲みたいわ～」

しかし無情にも電話は切られた


サナエサンはその店に

さっき冷やかし半分で面接の電話を入れて

「今から伺っても良いでしょうか？」と聞いて断わられた

もっと早い時間帯に来てくれとの事だった

なので尚更その店に行って様子を見たかったのだった

「もうこうなったら知っちゃ居ないわ

　乗り込んでやる！」

帰る方向が同じヒデミを強引にタクシーに乗せて

サナエさんは鼻息も荒く某店を目指したのだった

続きは次回